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第30話 追放幼女、買出しでトラブルになる

2024/08/26 爵位と家系に関する一部表現を修正しました

2024/09/04 誤字を修正しました

 あたしたちはそこそこの宿を取ると、さっそくクラリントン商工組合の事務所にやってきた。マリーを先頭に窓口に向かうと、受付のお姉さんが話しかけてくる。


「いらっしゃいませ。どういったご用でしょうか?」

「はい。ワイルドボアとフォレストディアの毛皮の買い取りをお願いします」


 マリーがそう答えた。今回の対応はマリーにお願いしてある。


「かしこまりました。いくつございますか?」

「ワイルドボアの毛皮が十二、フォレストディアの毛皮が五です」

「今現物をお持ちでしょうか?」

「はい」

「では、こちらのカウンターにお願いします」


 パトリックたちは運んできた毛皮を置いた。


「ありがとうございます。確認させていただきますね」


 お姉さんは一つ一つ、しっかりと毛皮の状態をチェックしていく。


「……なるほど。素晴らしいですね。狩猟の際にできるはずの傷がほとんどありません。なめし処理も適切に行われておりますし、これならばAランクでの買い取りが出来そうです」

「そうですか。では値段は?」

「はい。失礼ですが、お客様は当組合の組合員でいらっしゃいますか?」

「いいえ」

「左様ですか。では、ご案内いたします。まず、買取価格は毛皮の種類とランク、そして大きさで決まります」

「はい」

「こちらが買い取り価格表となっておりまして、ワイルドボアとフォレストディアはどちらも第三群でございます。大きさは通常サイズ、品質はAランクでなめし加工済みのものとなりますので、すべて一枚5シェラングでの買い取りとなりますが、よろしいでしょうか?」

「はい」

「かしこまりました。ではこちらの書類に記入をお願い致します」

「はい」


 取引はとんとん拍子で進み、マリーは渡された書類に必要事項を記入していく。


「こちらにお嬢様のご署名をいただく必要があります」

「あ、うん」


 あたしはさっと内容を確認したが、特におかしなところはなかったためサインをしてマリーに返す。


 マリーがそれを受付のお姉さんに手渡すと、お姉さんの表情がみるみる曇っていく。


「……何か不審な点が?」

「え? あ、いえ……その……」


 お姉さんの目が泳いでいる。


「その、大変申し訳ございません。上の者を呼んで参りますので、少々お待ちください」


 お姉さんはそう言うと、大慌てで奥へと消えていった。


「……何? あれ?」

「きっと姫様が貴族だって知ってビビったんすよ!」


 パトリックは呑気にそんなことを言っているが、果たして本当にそうだろうか?


 こういうところの人って貴族の相手もするだろうし、当主が自ら売りに来るくらいの貧乏貴族でも怖がられるものなのかなぁ?


 それからしばらく待っていると、先ほどのお姉さんがハゲたおじさんを連れて戻ってきた。おじさんはまるでビア樽のように立派なお腹をブルンブルンと震わせていて、高級なスーツが今にもはち切れそうだ。


「大変お待たせ致しました。この者は当組合の組合長ロバートでございます。陛下よりハンフリー準男爵の爵位を授かっております」


 おっと! このおじさん、準男爵なんだ!


 準男爵というのはお金で買える称号で、貴族に準ずる扱いを受けるということになっている。ただ、実際の身分は平民のままで、正式な貴族として扱われるわけではない。もちろんその家族は一般の平民と同じ扱いなうえに称号は継承もできず、領主になることもできない。


「スカーレットフォード男爵オリヴィアですわ」


 あたしは笑顔で名乗ったが、あたしのほうが身分が上なためカーテシーはしない。本来ならハンフリー準男爵があたしの前に(ひざまず)くのが礼儀なのだが……。


「ええ、わざわざご足労いただきありがとうございます」


 ハンフリー準男爵は立ったまま、ニコニコと笑顔で話し続ける。


「なんと無礼な!」


 マリーが怒りの声を上げるが、ハンフリー準男爵はまるで気にした様子はない。


 たしかに不敬罪ではあるのだが、一方で大人と見なされない年齢でもある。実際に不敬罪で処罰できるかというと微妙なところだ。


「スカーレットフォード男爵閣下、大変申し訳ございませんが、今回のお取引は無かったこととさせていただきたいのです」

「どういうことかしら?」

「大変申し訳ございません。ですが、商人というのは信用を大事にしております。我々はクラリントン商工組合員を守るため、スカーレットフォード男爵とのお取引はお断りさせていただいております」

「わたくしたちは何かした覚えはありませんけれど?」

「それでしたら結構でございます。どうぞお引き取りください」


 ハンフリー準男爵はそう言うと、先ほどあたしがサインした紙を近くに掛かっていたランプの炎を使って火をつけた。紙はあっという間に灰となってしまう。


「ちょっと!」

「これ以上お話することはございません。どうかお引き取りください」


 取り付く島もなくピシャリと言われ、あたしたちは商工組合の事務所を後にしたのだった。


 ……どういうこと!?

次回更新は通常どおり、本日 18:00 を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ当然だよなぁ なんで素直に自分の名前を書いちゃったんだか、マリー名義で良かったのに
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