第28話 追放幼女、収穫祭を楽しむ
収穫祭の当日となった。あたしがみんなに振る舞うのはパンとワイルドボアのステーキにワイルドボアのシチュー、それからエールだ。
といってもあたしは料理なんてできないから、実際に作るのはマリーとG-77ちゃんだけれど。
ちなみにエールは村で醸造したものだ。実はこの村にはノーラおばあちゃんというエール造りの達人がいて、今はG-101を貸してあげて大量に仕込んでもらっている。
あたしは飲めないけどね。
さて、村の中央広場ではまだ午後になったばかりだというのに、大勢の村人たちが集まっている。
もうすでにかなり盛り上がっているようで、手拍子と歌に合わせてよく分からない踊りを踊っている。
うーん、楽しそう。
あたしも混ざってみたいけどまだダメ。やらなきゃいけないことがあるんだ。
収穫祭では神様に感謝する儀式をするのだけれど、この村には教会がないので儀式を取り仕切ってくれる司祭がいない。
だから儀式は領主であるあたしが取り仕切らないといけないのだ。
それが終わるまではお預けなんだけど……あの人たち、もう出来上がってるような?
まだエール出してないんだけど!?
◆◇◆
カーン! カーン!
村に午後二つ目の鐘が鳴り響いた。
さあ、時間だ。がんばろう!
あたしは小さく自分に気合を入れると、儀式用の麦穂で作った冠を被って外に出た。後ろからはマリーが付き従ってきてくれている。
あれだけ大騒ぎをしていたのに、村のみんなはしんと静まり返って領主邸から出てくるあたしを見てくる。
うん。やっぱりちょっと緊張するね。
大丈夫。きっとできる!
あたしは儀式用の白いワンピースの裾を踏まないよう、ゆっくり歩いて中央広場に設置された舞台へと上った。
舞台の上には祭壇があり、そこには縛られ、檻に入れられた一匹の豚が捧げられている。
あたしは祭壇に向かって跪き、大きく深呼吸をする。
「天にまします我らが神よ! わたくし、オリヴィア・エインズレイはスカーレットフォード男爵としてスカーレットフォードに住まう民を代表し、燦爛たる太陽と、煌々たる月で我らをお導きくださったこと、母なる大地にお恵みいただいたことに感謝申し上げ、舞いを奉納いたします!」
あたしは立ち上がり、奉納舞を踊り始める。
奉納舞は貴族の女性であれば誰でも習うものだ。あたしもマリーに五歳のころから習っているので、本番は初めてだが一応踊れる。
楽器がないのでやりづらいけれど……リズムは頭で刻んで、動きに合わせて魔力を放出する。
あたしの場合は闇属性なので黒い光が出てしまうので、普通の人はちょっと怖いかな?
ちらりと観衆たちを見るが、怖がっている様子はない。
あ、そっか。さすがに村のみんなはもう見慣れているよね。
そうしているうちに、あたしは奉納舞を終えた。
ふう。ちょっと疲れたけど、満足感はあるね。
あたしが視線を送ると、ウィルたちが壇上に上がってきた。
「神よ。感謝の印として、ここに命を捧げます」
するとウィルたちは檻の中にいる豚に剣を突き立て、命を奪った。
生贄だなんて残酷だと思うかもしれないが、これがスカーレットフォードの慣習で、こういったことは各地で行われているのだという。
あ! もちろんこの豚は、あとでみんなで食べる予定だ。無駄にするわけではない。
こうして儀式は終わり、あたしは壇上から降りるのだった。
◆◇◆
着替えて戻ってくると豚はすでに壇上から降ろされ、広場の中央のたき火で丸焼きにされていた。
「みんな! 今日はこれから無礼講だよ! パンとお肉とシチュー、それからエールを用意したから、みんなで食べて、神様のお恵みに感謝してね!」
「「「「うおおおおおおお」」」」
「「姫様ー!」」
村のみんなのテンションが一気に上がった。
「一人一プレート、そこのテーブルから受け取ってね! あと! エールはあっちのテーブルにあるよ。用意した分が無くなるまで飲み放題だよ!」
「「「「うおおおおおおお」」」」
飲み放題という言葉に男たちが雄叫びを上げた。
あはは。ご飯よりエールのほうが好きなのかな?
「でも! 飲みすぎて倒れないようにね!」
「やったー!」
「姫様ー!」
「天使様だー!」
「ちょっと! 天使は止めてって!」
もうみんなご飯とお酒に夢中で、あたしのいうことなんて聞いてないみたい。
うーん、まあいいか。お祭りだし、たまには、ね?
それから村のみんなはビールを飲みまくり、やがて手拍子と歌に合わせたダンスが始まった。するとヘレナがあたしのところにやってきた。
「姫様! 一緒に踊りましょうよ!」
「え? でも、あたし、分かんないよ? そのダンス」
「いいんですよ! みんな適当ですから」
「え? そ、そう? じゃあ」
「やったぁ。こっちこっち!」
あたしはヘレナに連れられ、踊りの輪に入る。
リズムも適当だし、歌もどこか調子外れだけど、あたしは適当にそれに合わせて踊ってみる。
あれ? あはは。なんだか楽しいね。
「姫様ー! それ!」
ヘレナが楽しそうにくるくるとターンしてみせる。
あっ! やるな! ならあたしだって!
あたしも負けじとターンをする。
ふふん。マリーには奉納舞だけじゃなく、社交ダンスも習ってたからね。これぐらいは余裕だよ!
「あっ! 姫様すごい!」
ヘレナが負けじとターンをし、さらに周りの子供たちまで真似してターンをしてくる。
むむむ! ここは負けられないね!
あたしも負けじとターンをし、そして……。
◆◇◆
気付けば立っていたのはあたしだけだった。
延々とターンをし続けたせいでみんな目が回ってしまったみたい。
「ひ、姫様……なんで目が回らないの……」
「ふふふ。あたしに勝とうなんてまだまだだね」
でも、ちょっとクタクタかも。ちょっと眠いし、このくらいかな。
「みんな、このあとも楽しんでね」
心地よい疲労感を覚えつつ、あたしは自室へと向かうのだった。
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