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第27話 追放幼女、通商に悩む

2024/08/26 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

2024/09/04 誤字を修正しました

「はぁぁぁぁぁ」


 ボルタたちを追い出したというウィルの報告を受け、あたしは大きなため息をついた。


「姫さん? どうしたんすか?」

「え? うん。困ったなって」

「え? どういうことっすか?」

「だってさ。スカーレットフォードに来てた行商人ってあいつらだけなんでしょ?」

「へい。そうっすね」

「ということはさ。もうスカーレットフォードには行商人が来なくなったってことだよね。今はまだいいけど、来年は……」

「あ! 言われてみればそうっすね……」

「村には鍛冶屋が無いし、窯元もないもん」

「そうっすねぇ……」

「となるとこっちから買出しに行かなきゃだけど……」


 あたしはウィルのほうをちらりと見る。


「え? ああ! そうっすね! なら俺が!」

「ダメだよ。ウィルたちは元盗賊でしょ? うちで刑を受けてることにしてるんだから、買出しなんかに行かせられるわけないじゃん」

「あ! そうでした……」

「まったく……」


 かといってマリーに行ってもらうわけにもなぁ……。


 マリーはこの村で唯一まともに読み書きと計算ができる貴重な人材だし、何よりクラリントンまで往復できるまともな馬車がない。


 むき出しの荷車に荷物を満載するなんて、襲ってくれと言っているようなものだ。


「ま、まあ! あれっすよ! 姫さん、とりあえずは収穫祭も近いですし、それが終わってから考えやしょう」

「え? あー、うん。そうだね。ウィルもいいこと言うね」

「へへっ、そうっすか?」


 ウィルは嬉しそうに鼻の下を(こす)った。


 うん。今考えたってどうこうできるわけじゃないしね。まずは目の前の問題を一つずつ片づけよう。


◆◇◆


 麦刈りにゴブリンのスケルトンたちを動員した結果、本来は村人総出で二週間ほど掛かるはずの仕事をたったの三日で終えることができた。


 優秀なゴブリンのスケルトンたちは収穫だってお手の物で、一度教えればきちんと丁寧に収穫してくれるうえに落穂拾いまでやってくれる。


 とはいえ、麦は収穫したら終わりではない。あたしたちの食卓に上がるまでには乾燥、脱穀、選別といったたくさんの工程があるのだというが、もちろんそこでもゴブリンのスケルトンたちに手伝ってもらうつもりだ。


 うまくできるかはまだわからないけれど、これまでの話を聞いている限りは大丈夫そうな気はしている。


 ただ、そうなるとやっぱりもっとゴブリンのスケルトンを確保したくなるよね。とはいえ、こっちからゴブリンの群れを攻めるようなことはリスクが大きいのであまりやりたくないしなぁ。


 だって、もしゴブリンキングのいる群れに喧嘩を売ったらタダじゃすまないでしょ?


 まほイケでもゴブリンキング関連のイベントがあったんだし、魔の森にいるってことは間違いないんだしさ。


 と、そんな感じでスカーレットフォードは収穫で大忙しなわけだけれど、あたしはあたしでやるべきことがある。


 それは、来週に迫った収穫祭の準備をすることだ。


 収穫祭では領主が領民に料理やお酒を振る舞い、一年の労を労うのだそうだ。


「マリー、どうしようか?」

「どう、とは?」

「だって、あたしが領主になって最初の収穫祭でしょ? 色々催し物を考えないとだしさ。それに本当は毛皮を売って領民たちに色々プレゼントしようと思ってたんだけど……」

「はぁ。そこまでなさる必要はないと思いますが……」

「え? そうなの?」

「はい。料理とお酒だけ用意して、あとの段取りは領民たちに任せるという領主も多いと聞きます。それにお嬢様はスケルトンで民の生活を大きく向上させております。それだけでも十分ではないでしょうか?」

「うーん、そうかなぁ……」

「はい」


 マリーはそう言ってくれるが、商会を出入り禁止にしてしまったという負い目もある。


「でもさ。やっぱり商会が来ないのは困るよね?」

「お嬢様? いきなりどうなさったのですか?」

「だって、マリーがスケルトンで助けてるって言ってくれたけど、でもそれだけじゃダメだって思って」

「それはそうですが……」

「そうだ! なら、あたしが直接買い付けに行くっていうのはどうかな?」

「お嬢様、それは……」

「分かってるって。言ってみただけ。馬車と護衛なしには行けないよね」


 分かってはいるけど、現金収入がないのは本当に困る。


「あれ? あっ! そうだ!」

「……なんでしょうか? 良からぬことではないでしょうね?」


 マリーがなんだかあたしのほうを胡乱気(うろんげ)な目で見てくる。


「そんなんじゃないよ。ただ、クラリントンがダメなら、別の町まで道を作ればいいんじゃないかなって」


 するとマリーが大きなため息をついた。


「えっ? ダメ?」

「はい。よろしいですか? スカーレットフォードは比較的浅いとはいえ、魔の森の中にあります。魔物が大量に生息する森に道を通したとして、どうやって道を維持するのですか?」

「うーん、あ! 分かった!」

「……なんでしょう?」

「壁を作る!」

「はい?」

「ほら! 森の奥に農地を作ったときみたいに、堀を掘って周りを壁で囲むの。そうすれば道は安全なんじゃないかな?」

「それは……」

「ほら! ゴブリンのスケルトンなら出来そうじゃない?」

「……」

「うん! それだ! やってみよう! 今度試してみようよ!」

「はいはい、そうですね。それで、収穫祭の準備の件はどうなさるのですか?」

「あっ!」


 そうだった! 今は収穫祭のことを話してたんだった!


「えっと、うん。じゃあマリーの言うとおりパンをたくさん焼いて、あとはワイルドボアあたりを捕まえてみんなで食べるのにするよ」

「はい」

「じゃあ、あとの指示はお願いね。あたしはスケルトンたちを連れて狩りに行ってくるから」

「はい……って、お嬢様! せめてウィルは連れて行ってください!」

「え? ……うん、そうだね。分かった」


 こうしてあたしは準備をマリーに任せ、食材調達に向かうのだった。


◆◇◆


 魔の森を抜け、クラリントンに戻ってきたボルタたちは、タークレイ商会の倉庫へとやってきた。馬車が止まるなり、エドガーはボルタに向かって言い放つ。


「じゃあ、ボルタの旦那。水車の部品はタークレイ商会さんの倉庫に運び込んでおくぞ」

「なっ!? こちらで売る予定はありませんよ」

「そんな高級水車、俺たちが相手にしてるお客さんには売れないんでね。それにお宅はサウスベリー侯爵のお抱えじゃないか。そこはコネでなんとかしてくれよ」

「ですが!」

「うちはお宅みたいに倉庫が広くないんだよ。大体、そっちが買い取ってスカーレットフォードの男爵様に納品するって契約じゃないか。うちが契約したのはお宅とで、男爵様は関係ない。うちの義務はお宅に納品することで、そっから先のことはお宅の問題だろう?」

「そんな! そっちだって」

「それでも受け取らないって言うんなら商工組合に訴えるしかないな。いくら天下のタークレイ商会とはいえ、契約書もあるのにいいのか?」

「ぐ……」

「じゃ、そういうことで。支払いも契約書どおりで頼むぞ」


 エドガーたちは大量の部品を倉庫に運び込んでいく。その様子をボルタは悔しそうに見守るのだった。

次回更新は通常どおり、本日 18:00 を予定しております。

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― 新着の感想 ―
[一言] > そんな高級水車、俺たちが相手にしてるお客さんには… やはり中古や必要最低限でなく、ハイエンドの新品をふっかけて売ろうとしてたようで。 win-winの商売してれば今後も利益を産んだろうに…
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