第26話 ボルタの悪だくみ
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「お前たちは出禁だ。今すぐに荷物をまとめて帰れ!」
ウィルはボルタを連れ、屋台を開く準備をしていたタークレイ商会の面々にそう通告した。
「は? 出禁!?」
「ボルタさん?」
だがボルタはギリリと歯ぎしりをするのみだ。
「ほら! さっさと店をたため! 無許可で商売したら商品も金も没収だぞ!」
「へい……」
渋々といった表情だが、ボルタの部下たちは広げ始めていた商品を馬車に積み込んでいく。
「お? 一緒に来ていた奴らが減ってるな。おい、他の奴らはどこに行った?」
ウィルは積み込み作業をしている男にそう尋ねる。
「え?」
「だから、他に大勢来ていただろ?」
「ああ、あいつらは商人じゃないですからね」
「じゃあなんなんだよ?」
「大工ですよ。おたくの領主様が焼けた水車の新調を依頼したんだろ? 納期もないからって工事に――」
「なんだと!? 勝手に何やってやがるんだ! おい! お前ら! 水車んとこに行った連中を止めろ! そいつらも摘まみ出せ!」
「「「へい!」」」
ウィルが怒号を飛ばすと、自警団の男たちは大慌て水車小屋のあった場所へと向かうのだった。
◆◇◆
「ん? ここか?」
「ここっぽいな」
様々な測量器具を持った男たちが、かつて水車小屋が建っていた場所までやってきた。彼らはボルタが手配した水車の設置を請け負う職人たちである。
その中の一人の男がかつて水車が回っていた場所に近づいた。彼の名前はエドガー、この職人たちの中のリーダー的なポジションの男だ。
「あー、多分ここに水車があったんだな。ちゃんと水路になってる」
「エドガーさん、本当ですね。火事って聞いたが……」
「あ、ほら。ここ、焼け跡だろ」
「本当ですね。まったく、大事な水車で火事だなんてなぁ」
「犯人は捕まってるのか? せっかく建ててもまた燃やされたらたまったもんじゃねぇ」
「ま、俺らは仕事がありゃそれでいいんだけどな」
「ちげぇねぇ」
職人たちはそんな会話をしながらも、テキパキと測量を始める。
と、そのときだった。
「待てぇぇぇ!」
血相を変えた自警団の男たちが職人たちを止める。
「あん!? なんだ! 邪魔すんな! さっさとやらねぇと終わらねぇぞ! ただでさえボルタの旦那がクソみたいに短い納期で仕事を寄越しやがったんだ!」
「お前らは出禁だ! 姫様の命令だ! 今すぐスカーレットフォードから出ていけ!」
「「「「はぁっ!?」」」
突然出禁を言い渡された職人たちは気色ばんで警備隊の男に詰め寄る。
「どういうことだ!」
「火事で燃えた水車を収穫の時期までに直さなきゃいけないんだろう!?」
「そのためにボルタの旦那はかなり骨を折ったそうじゃねぇか」
「俺らだってとんでもない低単価と短納期で仕事を受けてるんだぞ!」
「黙れ! そもそもお前らが放火したんだろうが!」
「「「「はぁっ!?」」」」
「お前らが連れてきたジェームズとかいう男が燃やしたんだ」
「なんだそりゃ?」
「しかも放火の現場からボルタの野郎の着火の魔道具が見つかったんだぞ」
「……なら、なんでボルタの旦那は処刑されてねぇんだよ」
「知らねぇよ! とにかく! お前らは出禁になったんだ! 荷物をまとめて出ていかなければお前らは罪人だぞ!」
「……ちっ。分かったよ。どのみちボルタの旦那には確認しなきゃなんねぇ。おい、お前ら、撤収するぞ」
エドガーがそう言うと、他の男たちも持ってきた道具をまとめてボルタたちのいるほうへと戻っていくのだった。
◆◇◆
その後、ボルタたちはウィルたち自警団に周囲を固められてスカーレットフォードの正門を出た。
「もう二度と来るなよ」
「ちっ」
ボルタは舌打ちをしたがウィルに言い返すことなくそのまま立ち去った。
そうしてしばらく街道をゆっくりと進んでいると、エドガーがボルタに話しかける。
「ボルタの旦那、これはどういうことだ? 俺たちはあんたにどうしてもって言われて、仕事をやり繰りしてここまで来たんだぞ?」
「……」
「おいおい、ダンマリか? まあいい。水車の部品代と工賃、それに出張費は払ってもらうからな。200シェラングだ。1ピニーたりともまけねぇぞ」
「なんだと!? 働いていない分の日当は出しませんよ?」
「ああん? 期間が伸びようが短くなろうが値段は同じって契約だろうが!」
「……」
「大体よ。話が違うじゃねぇか」
「なんのことですか?」
「水車が火事になった件だよ。あの村の奴ら、あんたが火をつけたって思ってるみたいだぜ?」
「濡れ衣ですよ。状況からしてジェームズが疑わしいということには同意しますが、失踪してしまいましたから。それに私は火事が起きたときはボロい宿舎にいましたし、火をつけろなんて指示も出していません」
「ジェームズっていうのは誰だ? お前の部下か?」
「元、部下です。今はクビにしているので」
「……だがそんときは部下だったんだろう?」
「ええ。ですが、罪を犯した可能性が高いですし、何より職務の最中に失踪しましたからね。もう部下でも何でもありません」
「なら、上司のお前にも責任はあるだろうが」
「ええ。ですから、かなり無茶ではありますが、あの貧乏なド田舎のメスガキ領主でも払える金額まで最新の水車一式を値引きして提供しようとしたのですよ。それなのに!」
ボルタは怒りに顔を歪めるが、エドガーは冷ややかな目でそれを見る。
「ま、俺たちには関係ない。200シェラングはきっちり払ってもらうからな」
「……」
ボルタはエドガーを睨むが、エドガーはどこ吹く風だ。エドガーはそのままボルタから離れていく。
それから少しして、ボルタはぼそりと呟く。
「くそっ。全部あいつのせいだ。しかしあいつは……いや、待てよ? たしか、かなりの美人だったよなぁ」
ボルタはニヤリと邪悪な笑みを浮かべるのだった。
次回、「第27話 追放幼女、通商に悩む」の公開は通常どおり、明日 2024/08/02 (金) 12:00 を予定しております。




