第25話 追放幼女、出禁を言い渡す
2024/08/17 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
2024/08/26 ご指摘いただいた誤字、爵位と家系に関する一部を修正しました。ありがとうございました
九月になり、麦が収穫の時期を迎えた。麦畑は黄金色に染まっているが、前世のネットで見た麦畑と比べるとなんとなくスカスカな気がする。
ただ、これでも豊作なほうだということなので、きっとこの世界の麦はこんなものなんだろうね。
違いはよく分からないけど、麦の品種とかが違ったりするのかな?
また、あれから何度か小規模なゴブリンの襲撃があった。だがその都度きちんと撃退し、倒したゴブリンは新たな労働力となっている。
おかげでゴブリンのスケルトンの数は百五十体を超え、他にもワイルドボアのスケルトンが十三体、フォレストディアのスケルトンが七体に増えている。他にも何種類かの野生動物のスケルトンを作ってはみたのだが、あまり役に立たなかったのでそのほとんどは骨に戻してある。
やっぱり元々力が強い魔物のほうができることが多いのだ。
それと工事の進捗状況はというと、村の周りの伐採と一部のお堀の掘削ができていて、今はその部分から土塁と石垣の建設工事をしている。最終的にお堀には水を張り、水堀兼緊急時の水源として利用する予定だ。
一方で森の中に作った畑はというと、先月に整備が完了した。今は冬に向けてほうれん草とレタスの栽培を始めている。
この短期間でここまでの開発ができたのはもちろん、スケルトンの数を増やせたおかげだ。
特にゴブリンのスケルトンは本当に優秀で、その活躍は伐採や建築などの土木工事やゴブリンとの戦闘といったものにとどまらない。
なんと種まきや収穫、雑草取りや害虫の駆除といった農作業からチーズやバター、エール作りなどの食品加工、さらには糸つむぎから機織りに至るまで様々な分野で大車輪の活躍を見せてくれている。
一方で手先の器用さはイマイチだそうで、細かい作業は人がやったほうがいいと聞いている。
ただ、あの子たちがすごいのはそこではない。そこそこのクオリティの仕事を永遠にやり続けられることだ。
しかも未だに魔力を補充していないというのに、止まる気配がないのだ。
もうさ。これって産業革命だよね。
前世では蒸気機関と機械の発明で家内制手工業が工場制手工業になったって病室で受けた授業で習ったけど、これはもうそんなレベルじゃないよね。
だってさ。ゴブリンのスケルトンって要するに、言葉で命令できる電池の要らない人型スマートロボットみたいなものでしょ?
なら、工場制手工業をスケルトンでやったらきっとものすごいことになるんじゃないかな?
あれ? 手工業ってそういう意味だっけ?
……まあ、いっか。そんな細かいことは。
と、そんなわけで、あたしは今後、各家庭でやっていたモノの生産を新しく広げた敷地に建てる工場に集約するつもりだ。
あ、ちなみにこの村の住民、実はあたしとマリー以外は全員農奴か元盗賊の囚人だ。だから貴族であり領主のあたしにはそういった命令をする権力があるし、みんなは従う義務がある。
でも、反対はされないんじゃないかな?
だって、スケルトンにやらせたほうが生活が良くなるって分かってるだろうしね。
と、そんな明るい話題があればイヤなこともある。収穫で忙しいこの村に再びボルタたちがやってきたのだ。
あまり相手にしたくはないが、挨拶にやってきたボルタを執務室で出迎える。何やら今回は大勢連れてきているそうだが……。
「お嬢様、ご機嫌はいかがですかな?」
「まあまあね」
「左様ですか。やはり水車が壊れてしまった件にお心を痛めていらっしゃるのでしょうねぇ」
「はい?」
「そんなお嬢様に良い報せをお持ちしました」
ボルタはあたしを置いてけぼりし、一人で勝手にべらべらと話し始める。
「タークレイ商会が総力を結集し、最高級の粉ひき用水車と職人をご用意いたしました! しかも商会長が事情を斟酌して下さり、なんと2500シェラングまで値引きをお認めくださいました」
「は?」
こいつ、何を言ってるの!? あたし、買うなんて一言も言ってないんだけど?
「さらに! なんと貸付金利も三か月で十五パーセントです! 相場よりもかなりお安くなっております」
「はい?」
三か月で十五パーセントって、頭おかしいんじゃないの!? 年利六十パーセント ってことじゃん!
「どうですか? 最高の条件をご用意いたしました。それでは今すぐこちらの契約書にサインを――」
「ウィル」
「へい」
「丁重にお見送りしてちょうだい」
「はっ!?」
「姫さん? よろしいんですか?」
「当たり前でしょ! あたしは水車の注文なんかしてないし借金の申込もしてないのに、何? 勝手に準備してきて契約しろだなんて、こんな押し売り野郎は出禁よ!」
「……そういうことっすか。なんか変だなぁとは思ってやしたが……おい! お前らは出禁だ。力ずくで追い出されたくなければ出ていけ!」
「なっ!? お嬢様! 本当によろしいんですか? 我々タークレイ商会のバックはサウスベリー侯爵なのですよ? そんな我々を出禁にしたとなると、もうどの商会もスカーレットフォードには来ませんよ?」
ボルタはまるで脅迫するかのような口調でそう迫ってきた。
「頼んでもいないことを勝手にやる押し売り商会なんてこっちからお断りだよ。ウィル、お客様を門まで案内してあげて」
「へい! おい! 来い!」
「なんだと!? いてっ!」
なおもあたしに食って掛かろうとしてきたボルタの腕をウィルが捻り上げた。
「おい! 放せ!」
「うるせぇ! 姫さんの命令だ!」
「なんだと!? その図体でガキの下僕とは」
「は? ガキ? お前、今俺たちの姫さんをガキと言いやがったのか?」
「はん! あれだけ偉そうにしていた分際で!」
「あんだと!?」
ウィルとボルタの口喧嘩が争いに発展しそうになったので、止めに入る。
「ウィル、ストップ!」
あたしは貴族らしく、ぴしゃりと言い切る。
「ボルタ、これ以上言うなら不敬罪により処刑します。黙ってスカーレットフォードから出ていきなさい」
「……後悔しますよ」
「どうぞご自由に。信用できない者たちと取引などできません」
「ちっ」
ボルタは舌打ちをすると、そのまま執務室から出ていった。
それを見送ったあたしは大きなため息をつく。
「ねえ、マリー」
「はい、なんでしょうか?」
「あいつらに監視、つけたほうがいいかな? また放火でもされたらたまらないし」
「そうですね。かしこまりました」
※複利計算ですので、実際の年利はおよそ七十五パーセントとなります。
次回更新は通常どおり、本日 20:00 を予定しております。