表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/155

第23話 追放幼女、捜査をする

2024/08/26 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

 それから聞き込み調査に加え、行方不明になったジェームズという男の捜索が行われることになった。


 まずはボルタの事情聴取からスタートする。といってもあたしだと舐められそうなので、尋問役はウィルにお願いしている。


「じゃあ、始めるぞ。最後にそのジェームズと会ったのはいつだ? どんなことを話した?」

「はい。ジェームズとは昨晩、お嬢様からご提供いただいた家で話したのが最後です」

「で?」

「業務の話をしていたのですが、ちょっと疲れてる様子でした。どうやら魔の森を通ったせいで精神的にかなり消耗していたようでして……」

「そうか」

「それで、気分を紛らわせようとジェームズの娘の話もしました。あいつの娘、来月が誕生日なんですよ」

「なるほどな」

「だから娘の顔を思い出させてやって元気づけて、それからあんまり根を詰めるなって、私の愛用している煙草をやって一服してこいって」

「煙草? そんな高級品を部下にやるのか?」

「もちろんです。いい働きをした部下にはきちんと労うというのが、我々タークレイ商会の流儀です。そうすることで部下は長く働いてくれますし」

「……そうだな。うちの姫さんもそんな感じだもんな」


 え? ちょっと、ウィル!? なんであたしに話を振ってるのよ!


「なるほど。そういうことだったのですね。道理で村の雰囲気が明るいわけだ」

「おうよ。うちの姫さんは――」

「ウィル! 話が脱線している!」

「おっと! すんません。で、だ。ボルタさんよ。その後は?」

「はい。煙管と煙草の葉と着火の魔道具を渡して、村の景色でも見ながら一服して来いって言って送り出したんです」

「ほう?」

「それから私はすぐに眠りましたので、詳しいことは分かりません。ただ、朝起きたらジェームズが戻っていなくて……」

「ほう? で、煙管と着火の魔道具っつーのはどういう形をしている?」

「はい。部屋に私のものがありますので、後でご覧になってください」

「おう。ならさっそく――」

「待って! それでジェームズと別れたのはいつごろ?」

「はい。そうですね。教会の鐘がないのでちょっと分かりづらいですが……」

「じゃあ、日が沈んでからどのくらい経った?」

「そうですね。それですと、頂いた夕食を食べたのは日没後です。それから一服しているところにジェームズが戻ってきたので、日没から鐘一つ分までの間だと思います」

「そっか」


 ちなみに鐘一つ分というのは二時間のことを指す。


「じゃあ……」


 それから色々と質問をしたが、ボルタの話に矛盾は一切見つからなかった。しかもジェームズが家を出たと言う時間はこの村としてはかなり遅い。


 それだけ遅い時間だとさすがに目撃者はいないかもしれない。


 でもさ。なんでそんな時間に外出してるの? おかしくない?


◆◇◆


 結局事情聴取で決定的な話を引き出せなかったため、あたしたちはボルタが宿泊している部屋にやってきた。


「煙草の用具はあちらの箱にございます。どうぞご自由にご確認ください」


 ボルタはそう言って見るからに高そうな飾り箱を指さした。


「うん。ウィル」

「へい」


 ウィルはボルタの指さした箱を開けた。中にはいくつかの木製の煙管と小さな赤い石が入っている。


「……その石は何?」

「そちらは着火の魔道具です。ジェームズに貸したものと同じものです」

「……マリー」

「はい」


 マリーは飾り箱に入っている着火の魔道具を一つ、手に取った。マリーがぐっとそれを強く握ると、まるで押し出されるように小さな炎が噴き出す。


「本物のようですし、これは現場で見つかったものと同じものです」

「うん。やっぱり?」

「はい」

「お嬢様? 現場で見つかった、というのはどういうことでしょうか?」


 その言葉に反応し、ボルタは不安げな表情でそう尋ねてきた。


「……実はね。水車小屋が放火されたの。そして、その火元でこれと同じ魔道具が見つかっているの。ねえ、ボルタ。何か知らない?」

「なんですと!? そんなことが……」


 だがボルタはショックを受けたような表情を浮かべた。


「ねえ、何か知らない?」


 もう一度聞くと、ボルタは悲し気な表情を浮かべる。


「お嬢様、状況が状況ですから我々をお疑いになるお気持ちはよく分かります。ですが、我々は商人です。商人はお客様の課題を解決することで儲ける生き物です。そんな我々がスカーレットフォードの大切な水車に何かするなどということはあり得ません。ましてや、放火などという重罪を犯すなど……っ!」


 ボルタはきっぱりとそう言い切った。


「じゃあ、ボルタもタークレイ商会も、今回の火災には無関係ってこと?」

「はい。私は水車小屋に火をつけろ、ですとか、水車を破壊しろ、などといった命令を下したことは神に誓ってございません」

「……」


 ボルタの目を見る限り、とても嘘を言っているようには見えない。


「……じゃあ、ボルタの着火の魔道具が放火現場から見つかったことはどう説明するの?」

「そうですね」


 ボルタはじっと考えるような仕草をした。


「お嬢様の推理に沿うのであれば、ジェームズが暴走した、といったところでしょうか。もう一つあるとすれば、ジェームズが何者かに襲われ、着火の魔道具を奪われた。そしてその犯人はスカーレットフォードになんらかの恨みがあり、水車小屋に火をつけた、という推理もできるかと思います」

「……」


 たしかに理屈は通る。あたしのカンはそうじゃないと言っているが、それを裏付ける証拠は何一つない。


「水車小屋のことも、心中お察しいたします。ですから、我々が疑わしければいくら調べていただいても構いません。予定どおりあと二日、滞在いたしますので、その間、存分にお使いくださいませ」


 ボルタはそう言ってあたしに礼を執ったのだった。


 あああああ! 絶対こいつらが犯人だと思うんだけど!

次回「第24話 追放幼女、禍を転じて福と為す」の公開は通常どおり、明日 2024/08/01 (木) 12:00 を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
魔法の使いどこじゃない⁇
[気になる点] 領主に裁判権があるなら容疑者として拘束するだけならできたんじゃないの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ