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第19話 追放幼女、行商人を迎える

 七月がやってきた。このひと月ちょっとですべてのゴブリンのスケルトン化が終わり、なんとゴブリンのスケルトンは合計で百三十七体にまで増えた。


 実はもうスケルトンのほうが住人の数より多かったりする。


 といっても村人たちのスケルトンに対する嫌悪感は特になく、かなり好意的に見てくれているように感じる。


 スケルトンたちが傷ついた村人たちにかわって、昼夜を問わず文字どおり休みなしで働いてくれているおかげかな。


 それに魔力の補充も今のところ特に必要はなさそうなのも助かっているかな。


 肉体労働程度では大して魔力を使わないということ、なのかな? そのあたりはまだまだ謎のままだ。


 そんなスケルトンたちのおかげで村の周囲の伐採も終わり、今は魔物の多い村の北西側に堀を掘削する作業をさせている。その他にも、森の奥で三枚目の畑の開墾が終わり、今はビーツの栽培が始まったと聞いている。


 ちなみに傷ついた村人たちも徐々に働けるようになってきており、ウィルもつい先日、元気に自警団の仕事に復帰を果たした。


 あたしはというと、マリーに色々と教えてもらいつつも領主として書類仕事に追われている。


「マリー、水車の件はどうなってる? 早く直さないと」


 この前のゴブリンの襲撃で破壊された水車は粉ひきに使う村のインフラだ。これがないとせっかく麦を収穫しても製粉できないため、パンもパスタも食べられない。


 そして村の施設はすべてスカーレットフォード男爵、つまりあたしの持ち物ということになっている。そのため、本来であれば村人たちが利用するにはお金を払わなければならないのだが、今は料金を徴収していない。


 というか、料金を徴収しようとしてもお金がないので払ってもらうことはできないので意味がない。


「そうしたいのは山々なのですが、確認したところ部品が村内で自給できていないため、外から買い付ける必要があります。ですが予算が……」

「予算かぁ。今はいくら残っているの?」

「小銭をかき集めたところ、合計で1シェラング分が見つかりました」

「えっ? たったの?」

「はい。ウィルたちがあればあった分だけ使ってしまっていましたので……」


 はぁぁぁぁぁぁ。


 あたしは大きなため息をついた。


 どんぶり勘定だったし、そもそもウィルたちは計算もできないんだから仕方ないけど……ねぇ?


「外から買うとなると、結構お金かかるよね?」

「はい」

「でも村にお金、ないよね?」

「はい」


 はぁぁぁぁぁぁ。


 あたしはまたもや大きなため息をついた。


「石臼は大丈夫なんだっけ?」

「はい。ですが水車の部分が壊れてしまいましたので」

「うーん。そっかぁ……」


 どうしようかな。ダメもとで、自前でなんとかしてみる?


「そういえば、行商人が来るのって、そろそろだっけ?」

「はい」

「じゃあそのときに聞いてみよっか」

「そうですね……」

「どうしたの? そんなに浮かない顔して」

「いえ、いくら吹っ掛けられるのかと……」

「え? 何それ? その行商人って、そんなに評判が悪いの?」

「話を聞く限りは、かなりやられていたように思えます。ただ、ここは僻地ですから」

「どういうこと?」

「競合がいないのだと思います。そうと分かればいくらでも吹っ掛けてくるのが商人という生き物ですので」

「そうなの? でも他にどうしようもないんだし、とりあえず話は聞いてみようか。で、無理そうだったら別の方法を考えようよ」

「はい」

「じゃあ、次はだね。次は……」


 こうしてあたしはマリーと書類仕事を続けるのだった。


◆◇◆


 行商人がやってきたのは、その話をしてから三日後だった。


 すっかり回復したウィルに連れられ、行商人の代表の男が挨拶にやってきた。行商人は金髪碧眼で、口にちょび髭を生やした狐顔の男で、体型はすらりとしていて背が高い。


「いやぁ、はじめまして。私はタークレイ商会クラリントン支部のボルタと申します。可愛らしいお嬢様、どうぞお見知りおきを」


 ボルタはやたらと気取った様子で挨拶をすると、あたしの手を取ろうと歩み寄ってきた。だがその手をマリーがピシャリとはたきおとす。


「平民風情が! スカーレットフォード男爵閣下になんと無礼な!」


 するとボルタは一瞬ものすごい表情でマリーを(にら)んだが、すぐにニコニコと笑みを浮かべる。


「これは失礼いたしました。ではお詫びとお近づきの印に、どうぞこちらをお納めください」


 ボルタはそう言うと、白い粉の入ったガラス瓶を差し出してきた。


「それは?」

「こちら、南洋より運ばれてきた砂糖でございます」


 砂糖! やった! 甘いもの!


 ……じゃなくって!


「そう、ありがたくいただくわ。ウィル、そこの机に置いておいて」

「へい」


 ウィルはボルタから砂糖入りの瓶を受け取り、机の上に置いた。


「どれくらい滞在するご予定かしら?」

「はい。三日ほど滞在しようと思っておりますが、その際に中央広場に店を構えるご許可をいただきたく」

「ええ、もちろん」

「ありがとうございます」

「それと」

「はい」

「わたくしたちも用事がありますわ」

「なんでございましょう?」

「水車が壊れたので、修理をしたいのです」


 するとボルタの目がキラリと輝いた。


「それはそれは! ぜひとも、我々タークレイ商会にお任せください。部品も工夫(こうふ)も、すべて我々で手配いたしましょう。一度拝見させていただいても?」

「ええ、もちろん。そうしたらお見積もりをいただけるかしら?」

「かしこまりました。お任せください!」


 こうしてあたしたちは壊れた水車をボルタに見てもらうことになったのだった。

 次回更新は通常どおり、本日 20:00 を予定しております。

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