第180話 追放幼女、紋章のデザインを受け取る
それからしばらくは特に何事もなく、平和な日々を過ごしていた。たまにメレディスたちが魔の森で返り討ちにしたらしい魔物の骨が送られてくるのでそれをスケルトンにしているが、それ以外にやることがない。
もちろん毎日の朝練とローレッタの授業、そして毎晩の魔力循環の訓練は欠かさずにやっている。
ただ、午後は本当にやることがない。かといってローレッタに授業をお願いしてもつまらないだけなので、散歩をしたり刺繍をしたりして暇をつぶしている。
貴族にとって働かないことこそがその富貴の証だという話だが、もしかしたらこういう状態のことなのかもしれない。
でもあたしはつまらないだけだと思うし、一体何が面白くてこんな生活をしたいのかさっぱりわからない。
なら働けばいいじゃないかと思うかもしれないが、今のところ、あたしが何かしようとしたところで仕事が早く進むわけじゃないからね。
だって、スケルトンたちはもうフル稼働で仕事をしているもん。それに何より、あたしが現場に顔を出そうものならみんなはあたしに対応しなきゃならなくなるでしょ?
そうなるとかえって仕事の進みが遅くなってしまうのだ。
だから、あたしが何もしないことこそが仕事を進めるベストな方法ってわけ。
もうみんなで開拓していた最初のころとは状況が違うってこと。
……そりゃあちょっと、ううん。すごく寂しいけど……仕方ないよね。
と、そんなこんなで今日も何か仕事がないか確認するために自分の執務室へとやってきた。そこにはマリーがおり、すでに書類仕事をしている。
「マリー、今日は何かある?」
するとマリーがにっこり微笑んだ。
あれ? もしかして?
「はい。こちらです」
そう言ってマリーは封筒を差し出してきた。
「お嬢様に王妃陛下からお手紙が届いています」
「え?」
王妃陛下からってなんだろう?
封筒を受け取って自分の席に座り、急いで封を開けた。中には便せんが一枚入っており、さらにもう一つ封筒が入っている。
あれ? なんだこれ?
あたしはとりあえず便せんのほうを読んでみる。
あっ! 紋章のデザイン! できたんだ!
あたしは急いで中に入っていた封筒を開け、図案を確認する。そのデザインは……あれ?
うーん。なんだかちょっとイメージと違うなぁ。
なんか盾がひし形になってるけど、これってお嫁に行く予定の女性と未亡人が使うやつじゃん。あたしは男爵家の当主なんだし、さすがにこれはないんじゃないかな。
あれ? でもそういえば、婿養子を取って、このデザインを派生させて盾型の紋章を作ることもあるんだっけ。
ああ、ややこしい。
とはいえ、これはナシだね。結婚なんてまだ考えてないし、そもそも結婚したからといってあたしは家庭に入る気なんてないからね。
あとは……スケルトンのイメージが全然伝わってないじゃん。
あ、そっか。見たことないんだろうし、それは仕方ないかな。
ただ直してもらうにしても、これって言葉だけで伝わるのかな?
さすがに来てもらうわけにはいかないだろうし……あ! そうだ! あたしが自分で直しちゃえばいいんじゃない?
このラズベリーのお花と麦穂はいい感じだし、これをベースにすれば!
よーし!
「マリー」
「はい」
「あたし、紋章のデザイン、自分でやる!」
「へっ?」
「ほら、これ。王妃陛下の頼んでくれた画家のやつなんだけど、ちょっと微妙でしょ?」
「これは……そうですね。特にすけがよろしくありません」
「でしょ? じゃあ、あたし、部屋に戻ってデザインを考える!」
「かしこまりました」
「あ! 他に何か仕事、ある?」
「いえ。ただ、王妃陛下にお返事をなさらないと」
「うん。分かってるよ。でも、ちゃんと紋章のデザインを決めて、これにしますって出すから」
「かしこまりました。ですが、なるべくお早めになさってくださいね」
「うん」
こうしてあたしは手紙と画家の作った図案を手に、自室へと戻るのだった。
◆◇◆
一方、フランクたちは五日目に到達した場所に依然として留まっていた。しかしそこはちょっとした砦のようになっている。
野営地の周囲には木製の柵が作られており、柵の内側の木は一本の楓の大木を除いてすべて切り倒されている。
「フランク卿、やはりこの場所が最適なのではないですか?」
ダヴベリー男爵の言葉にフランクは大きく頷く。
「ああ。シルバーウルフもここには生息していないようだし、懸念されていた魔物もワイルドボア程度だ。これならば駆除も現実的だろう」
「そうですな。きっとシルバーウルフの生息地はもっと奥なのでしょうな」
ダヴベリー男爵の言葉にフランクは再び頷いた。
「よし。ではここを新たな開拓村とする。名は……そうだな。あの楓の大木にちなみ、メイプルフォードとしよう」
「おお! 良い名ですな!」
ダヴベリー男爵に持ち上げられ、フランクは満更でもない表情を浮かべる。
「よし! では本格的な開拓を開始するぞ! 伝令! ダヴベリーに向かい、物資の搬入を開始するよう伝えよ!」
「「はっ!」」
フランクの命令に二人の男が元気よく返事をし、すぐさまダヴベリーへと出発するのだった。
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