第170話 追放幼女、法案の説明を受ける
執務の時間となったので、自分の執務室へとやってきた。すると何やら紙の束を持ったジェイクが入口の前に立っている。
「あれ? ジェイク、もしかして待ってた?」
「はい。昨日ご下命いただいた貸金庫に関する法案をまとめて参りました」
「え? もう? 早いね」
「このくらいは当然のことです」
ジェイクは自信満々にそう答えた。
「そっか。じゃあ中で説明してくれる?」
「かしこまりました」
あたしはジェイクを伴って執務室に入ると早速法案の説明を受ける。
「まずは業者の制限です。スカーレットフォード男爵領において貸金庫業を営むことができるのは、スカーレットフォード男爵によって指名された業者に限ることとします」
「うん。つまり、他所からやってきた商会が勝手に貸金庫をできなくなるってことだよね?」
「はい。仰るとおりです。続いて違反者に関する罰則ですが、首謀者は処刑、そして預託資産は保全せず、すべてスカーレットフォード男爵が没収するものとします」
「えっ!? 処刑!?」
さすがにそれはやりすぎなんじゃ……。
「おや? お気に召しませんでしたか? 嫌な予感がすると仰っていたではありませんか」
「それはそうだけど、さすがに処刑はやりすぎじゃない? 人を殺したとか、そういうんじゃないんだし」
「そうでしょうか? 処刑は当然だと思いますよ」
「え? なんで?」
「はい。今後、金鉱山はスカーレットフォード男爵領の基幹産業となるはずです。その基幹産業にて産出された金を保管することが貸金庫の本業です。そこに他領のスパイが入り込めば横領などに代表される不正の温床となるでしょう。そうなればいまだに脆弱なスカーレットフォードの経済はすぐにでも崩壊する可能性が高いです。これは、経済を利用した内乱と言っても過言ではありません」
そ、そうなんだ……。
「ですから内乱罪と同等とみなし、処刑してしまったほうが抑止にも繋がります」
うーん……。
「それに、経済規模が小さいうちから無駄に貸金庫が乱立するのは効率的ではありません」
「どうして?」
「基本的に小切手は口座を持っている貸金庫でのみ通用します。そのため、ことなる貸金庫をメインに利用している商会同士での取引には複雑な手続きが必要になります。そのため、国王陛下も複数の貸金庫に口座をお持ちです」
「そうなんだ」
「はい。それに、外部の者たちのカネの動きを把握するという側面からも貸金庫は一つに絞ってしまったほうがよいでしょう。特に、閣下と対立している連中には手段を選ばない者もおりますから」
「う……たしかにそうだね」
そう言われて真っ先に思いつくのはあのタークレイ商会だ。うちの水車に放火して借金を背負わせようとしてきたし、それに悪徳金貸しの奴らと手を組んで人身売買までやろうとしていたくらいだ。今は特にちょっかいは出されてないけど、ずっと何もしてこないなんて保証はどこにもない。
「ご納得いただけましたか?」
「うん。分かったけど、処刑は反対かな」
「なぜですか?」
「その代わり、無期懲役にしようよ」
するとジェイクは怪訝そうに眉をひそめる。
「……閣下、それはどういった刑なのでしょうか?」
「えっと……一生牢屋に入っている感じ?」
「なるほど。終身刑ですか。ですが脱走などのリスクがございますが……」
「あ! だったらさ。誓約をさせればいいんじゃない?」
その言葉にジェイクはピクリと眉を動かした。
「閣下、お体に障りはないのですか?」
「えっ? どういうこと?」
「あの魔法は、神のお力を借りた魔法なのですよね?」
「うん。そうだよ……って、あ、そういうこと。大丈夫だよ。あの魔法、魔力を使うのは誓約をするときだけだから」
「なるほど……かしこまりました」
そう言ってジェイクはどことなく困ったような表情を浮かべた。
「それでは、誓約の上で終身刑としましょう」
「うん。よろしくね」
「は。それと貸金庫の名称の件ですが、やはりスカーレットフォード銀行という名前は変えた方がよろしいかと」
「え? なんで?」
「銀行という言葉は一般的な言葉ではございません」
「そうなんだ……」
でも、銀行が一番分かりやすいと思うけどなぁ。
「閣下、スカーレットフォード精端という店があったとして、どのような店か分かりますか?」
「え? せい?」
「精端です」
……なんだろう? って!
「あ、分かった。そういうことだね」
「はい。精端という言葉は私が今、作った造語です。そして銀行という言葉を聞いて最初に受ける印象が、今閣下が受けたものなのです」
「そっかぁ。じゃあ、どうしたらいい?」
「名前に金庫を入れてください」
「分かったよ。どうしようかな」
うーん、金庫かぁ。金庫、金庫……あれ? そういえば前世で銀行と同じようなのがなんかあったような?
……あ! 思い出した!
「じゃあ、信用金庫。スカーレットフォード信用金庫にしよう」
「信用金庫、ですか?」
「うん。みんなが信用して金を預けるから信用金庫。どうかな?」
「なるほど。かしこまりました。では、そのようにいたします」
ジェイクは恭しく一礼してきた。それからさらにジェイクはいくつかの報告をすると、自分の執務室へと戻っていったのだった。
※信用金庫と銀行はどちらも同じ金融サービスを提供していますが、経営理念が異なるため、その組織の在り方が異なります。銀行は営利企業であり、利益を追求することが一番の目的であるのに対し、信用金庫は地域の人々の相互扶助と地域の発展を目的としています。
次回更新は通常どおり、2026/01/18 (日) 18:00 を予定しております。




