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第17話 追放幼女、仕事に復帰する

2024/08/23 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

 三人もの死者が出てしまったほか、多くの村人たちが負傷してしまった。特に前面に立ってゴブリンたちと戦ってくれたウィルたち自警団のメンバーはかなりの重傷を負っており、絶対安静が必要な者たちもかなり多い。


 中でもウィルは一番重傷だったそうで、少なくとも一か月は絶対安静というのが医術の心得もあるマリーの見立てだ。


 それでも命に別条はないので、しばらくしたらきっと元気な姿を見せてくれるはずだ。


 あ、そうそう。なんであれほどの魔法をくらったはずのウィルが生きていたのかだけどね。なんか、あのゴブリンメイジってものすごいノーコンだったみたい。


 あいつの魔法、ウィルに向けて放ったはずなのに、二メートルほど離れた地面に着弾したんだって。


 それにほら、ウィルってうつ伏せになっていたでしょ? そのおかげで急所が守られたんだってさ。


 それでも火傷はしたし、爆風で飛んできた小石で怪我はしたけど、それ以外のゴブリンと戦っていたときの傷のほうが重傷だったくらいなんだってさ。


 ホント、直撃しないで済んで良かったよ。


 ウィルの話はさておき、自警団の男たちの大半が大怪我をしてしまっている状況ではさすがに働き手が足りない。


 となると、せっかく整備した畑も無駄になってしまう。


 はぁ。やっぱりトップの判断ミスは本当に大きいなぁ。ちゃんと立て直さないと!


「マリー」

「はい、お嬢様」

「ゴブリンのスケルトン、増やさなきゃ」

「お嬢様、まだお怪我が……」

「でもさ。あたしが判断をミスしたせいで働き手が動けなくなっちゃったんだよ? だったらあたしがなんとかしなきゃ」

「ですが……」

「あたし以外になんとかできる人はいないもん。だからあたしがやらなきゃ!」


 するとマリーは小さくため息をついた。


「分かりました。ですが、無茶はいけません。移動は私がお運びします。あと、スケルトンを作るのは普段の半分で止めてください。そして、それ以外の時間はすべてベッドで療養していただきます。よろしいですね?」

「……うん」


 こうしてあたしはマリーに協力してもらい、一日に三体だけゴブリンのスケルトンを作ることにしたのだった。


◆◇◆


 それから二週間が経過した。全身の打撲も治り、すっかり万全な状態に回復した。


 これまでに作ったゴブリンのスケルトンはゆうに五十体を超えており、さすがにもう個体の識別はできない。というわけで、今は首に木製の小さな識別票を取り付けて何番のスケルトンなのかが分かるようにしている。


 そんなゴブリンのスケルトンたちには、村の周辺の安全確保のための仕事を色々とやらせている。


「マリー」

「はい、お嬢様」

「もう治ったし、ちょっとスケルトンたちの様子を見てくるね」

「かしこまりました。お供いたします」

「え? 大丈夫だよ。自警団の誰かに来てもらうから、マリーはマリーの仕事をしてて。読み書きと計算ができるの、あたしとマリーしかいないんだから」

「……かしこまりました。お気をつけて」

「うん。じゃあ、行ってきます」

「はい。いってらっしゃいませ」


 こうしてあたしは家を出た。するとあたしを目ざとく見つけた村人の女性が駆け寄ってきた。


 彼女の名前はベラ。今は十八歳で、あたしが来るひと月前に元盗賊で自警団のマイクと結婚したそうだ。


 たしか、毛織物だっけかな? あれ? 真麻のほうの機織りだったかな? とにかく、そういった感じのことが得意だと聞いた気がする。


「あっ! 姫様!」

「やあ、ベラ。どうしたの?」

「お体は? もう大丈夫なんですか?」

「うん、もう大丈夫だよ。ありがとう」

「ああ! 良かった」

「それより、自警団で動ける人はいる? あ! マイクは?」

「え? はい。マイクも大分治ってきましたから動けると思いますけど……村ちょ……ウィル団長は?」

「会ってないけど、たぶんまだ安静が必要だと思う」

「そうですか……じゃあ、マイクを呼んできますね」

「うん」


 そうしてベラがマイクを呼んできてくれ、あたしはマイクと裏門から村を出た。


「うおっ!? すげぇ!」


 マイクが思わずといった様子でそんな声を上げた。


 うん。あたしもすごいと思う。だって、前は鬱蒼とした森が広がっていたのに、今では切り株がずらっと並んでいるんだからね。


「かなり伐採が進んだね」

「そうですね、姫様。俺もあの日以来村から出るのは初めてですけど……」

「そっか。そういえば、怪我は大丈夫なの?」

「はい。大丈夫です。まだゴブリンに棒で叩かれたところは押すと痛いですけど、動くのは問題ないです」

「なら良かった。あまり無理はしないでね」

「はい!」


 マイクは背筋を伸ばし、大きな声でそう返事をした。


 と、向こうのほうで一本の木が大きな音と共に倒れた。


 するとすぐにその木が浮き上がり、ゆっくりとこちらに向かって移動してくる。


 どうやらスケルトンたちは伐採した木を裏門の脇に積み上げているようで、門の右側には大量の木材の山がいくつもできていた。


 ……あれ? これじゃ、この木材の山を伝って村の中に入れるじゃん!


「この木材もちゃんと使わないとね」

「そうですね」

「こういうのの加工は……やっぱりハロルド?」


 ハロルドというのはこの村唯一の木工職人のおじさんだ。


「はい。ただ、各家庭でもそれぞれ使うと思います。簡単な家の修理なんかは自分でやりますから」

「そっか。ま、とりあえずあいつらが来たら中に運ばせようかな」

「はい」


 そんな会話をしつつ、あたしたちは運ばれてくる木を眺めるのだった。

 次回「第18話 追放幼女、スケルトンを少し理解する」の公開は通常どおり、明日 2024/07/30 (火) 12:00 を予定しております。

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ここまで読んでの感想 前世の地球で軍隊にいた・隊長職だったとかじゃなく、病気してた人生経験のない元18才がここまで動けるか?と言う感想 いきなりハードなゴブリンとの戦争だし初戦からPTSDになってもお…
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