第169話 追放幼女、任務完了の報告を受ける
一週間ほどでメレディスたちは戻ってきた。あたしは報告にやってきたメレディスとロイドを執務室で迎える。
「我が主、ただいま戻りました」
「お帰り。どうだった?」
「ええ。大まかな地理は把握できました。砦向きの場所もいくつか目星をつけておきましたよ」
「砦? 砦を建てるの?」
「もちろんですよ。いつ、誰が攻めてくるか分かりませんからね」
メレディスはそう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
なんだろう? なんだか少し嫌な予感が……あれ? もしかして……!
「ねぇ。魔物は? どのくらい倒したの?」
「魔物ですか? 倒した魔物はたしか……大した数ではなかったですよ。なあ、ロイド」
「はっ。倒した魔物は合計で八匹。内訳はゴブリンが二匹、フォレストウルフが一頭、ワイルドボアが三頭、そしてフォレストディア二頭となります」
「あれ? それだけ?」
「おや? 我が主は魔物狩りをお望みでしたか?」
「えっ!? ううん、そんなことないよ。ただ、もっと魔物を倒してきたのかなって思っただけで……」
するとメレディスは少し呆れたような表情を浮かべる。
「我が主、アタシたちは任務で調査に行ったんですよ? それを放りだして遊び歩くわけないじゃないですか」
「う、うん。そうだよね」
……魔物を倒すのって遊びなんだ。
「じゃあ、調査しているときに遭遇した魔物がそれだけだったってこと?」
「いえいえ。単に、逃げた魔物は追わなかったというだけですよ。魔物は勝てないと判断した相手を襲いません。特にゴブリンや狼の魔物はそれなりに知能がありますからね。連中は理解すれば近寄って来ません」
「そっか。ということは、ワイルドボアやフォレストディアも数が減ってるってことだよね」
「というよりも、スカーレットフォードの近くにはもうほとんどいませんでしたよ」
「そうなんだ。最近全然見かけないとは思ってたけど……」
「そいつらはそのうち忘れて、また来るかもしれませんけどね」
「そうなんだ」
ってことは、ちゃんと駆除しないといつまでも安全にならないってことだね。
「でも、それはそれでいいじゃないですか。『すけ』の材料が向こうから来てくれるんですから」
「え? うーん。まあ、それはそうだけど……」
「ああ、そういえば」
「どうしたの?」
「骨は分別して、騎士団の倉庫で保管していますよ。必要なんでしょう?」
「あ、本当? ありがとう」
ちょっと足りなくて困ってたんだよね。
「肉は一部、我々が食料として食べてしましましたが、よろしいですよね?」
「うん。残りは?」
「シルすけが凍らせてくれています」
「ありがとう。じゃあそれは氷室で保管しておくね」
「ええ」
「あと毛皮も一応回収しておきましたが、どうします?」
「サイモンに買い取ってもらって、騎士団の予算に追加するのはどう?」
「お! それはありがたいですね」
「うん。じゃあそうしよう」
こうして案外何事もなく終わった実地訓練の報告を受けると、あたしは早速騎士団の倉庫へと移動した。
「そちらにそれぞれ、分別してありますよ」
「ありがとう。じゃあ、早速やっちゃうね」
あたしはとりあえず、一番左端にまとめてあるゴブリンの骨に近づいた。
よし。久しぶりのスケルトン作りだ。しっかりやろう。
あたしは右手を前に突き出し、しっかりイメージを固めて魔力を放出する。
すると一瞬にしてゴブリンの骨は黒く染まってスケルトンとなり、すっと立ち上がった。
うん。完璧。それに魔力もほとんど使ってない! 前は結構負荷があったのにこんなに簡単にできるなんて!
これってもしかして!
あたしは振り返ってメレディスのほうを見る。だがなぜかメレディスは険しい表情であたしのほうを見ていた。
「あれ? メレディス? 何かあったの?」
「いえ。かなり上達したようですね」
「そう?」
「ええ。王都からここに来る途中で見たときのものよりもかなり効率よく魔力が使えていました。実感があるんじゃないですか?」
「うん! 全然魔力を使った感じがしなかった! これ、魔力制御の訓練のおかげなんだね!」
「そういうことです。後でレスリーから報告を受けることになっていますが、きっちり訓練を続けていたようですね」
「もちろん!」
「いい心がけです」
メレディスに褒められてなんともいい気分になる。
「あ! そうだ」
「なんですか?」
「もしかして、あたしの魔力制御って結構すごいの?」
「いいえ。まだまだですね」
「う……そうなんだ。でも、ローレッタがあたしみたいにうまくできる子供は見たことないって……」
するとメレディスの表情が途端に険しいものになる。
「我が主」
メレディスは声のトーンを低くし、あたしの目をじっと見てきた。その迫力に思わず気圧されてしまう。
「は、はい」
「他人は関係ありません。何のために魔力を制御する訓練をしているか、お忘れですか?」
「う……暴走したら危ないから」
「ええ、そのとおりです。ですから、魔力の低い子供に求められる制御の精度と我が主に求められるそれはまったく異なります。分かりますね?」
「はい……」
そうだった。あたしの肉体は将来、冥界の神ですら降ろせるほどなのだ。メレディスがこんなにあたしのことを考えてくれているのにあたしはなんてことを!
「ならば、我が主の魔力をよく知りもしない者の戯言にいちいち耳を貸さないでください。よろしいですね?」
「はい。分かりました」
「よろしい」
メレディスはそう言うと、ニカッと気持ちのいい笑顔を見せてくれたのだった。
◆◇◆
その夜、オリヴィアの魔力の訓練を終えたメレディスはレスリーの部屋へとやってきた。
「メレディスさん、どうだった? 私、上手くできてたかな?」
「ああ。上手くやってくれてたぜ。ローレッタとかいうあの馬鹿が余計なことを言ってくれてたみたいだがな」
「えっ?」
「ま、なんとか分かってはもらえたけどよ……」
メレディスはそう言うと、小さくため息をついた。
その様子を不安げな様子で見守っていたレスリーがおずおずと口を開く。
「ねえ、メレディスさん。本当に大丈夫なのかな?」
「何がだ?」
「閣下の魔力。あのご年齢であれほどの魔力、しかもあの誰も見たことのない黒い魔力なんだよ?」
「あの魔力は悪い物じゃねぇよ。それにアタシ達の主は見るからに善人じゃねぇか。お人よし過ぎて騙されないかどうかのほうが心配だよ」
「そりゃあ……閣下がいいお方なのは分かるよ。でも閣下の魔力の誘導をお手伝いしたとき、まるで深い闇の中に落ちていくみたいな感覚がして……」
レスリーは視線を逸らし、自分の体をぎゅっと抱きしめる。
「アタシも同じ感覚になったよ。器がデカすぎるんだ」
「えっ……」
レスリーは目を見開き、絶句した。
「心配すんな。大丈夫だよ。それに、どうせそのうち必要になるときが来るはずだ」
「え? それって……」
「このまま何もないわけがないだろう?」
「……まさかメレディスさん、戦を?」
「こっちがやりたくなくても、向こうがやってくる可能性は十分にあるからな」
「そうだけど……」
「そのためにわざわざ調べに行ったんだ。アタシたちの仕事は大事な主を守ることだろう?」
「うん……もちろん……」
するとメレディスは小さく頷いた。
「じゃあな。留守の間助かったぜ」
「うん。おやすみ、メレディスさん」
「ああ、おやすみ」
こうしてメレディスはレスリーの自室を後にするのだった。
次回更新は通常どおり、2026/01/11 (日) 18:00 を予定しております。




