第163話 追放幼女、外国について学ぶ
2025/12/09 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
今日もローレッタの授業が始まった。
「お嬢様、紋章についての理解は深まったようですね」
「ええ。ローレッタのおかげですわ」
「ですので、今日からは新しいことを学んでいただきます」
「まぁ。何を教えてくださるんですの?」
「外国語です」
外国語? あ、そっか。あんまり考えたことなかったけど、そりゃあこの国以外にも国はあるよね。
「それは楽しみですわ」
「はい。というわけで、まずはセルティア語を学んでいきましょう」
「まず、ということはそれ以外もいずれ教えてくださるんですの?」
「いえ」
「それはなぜですの?」
「私が教えられるのはセルティア語のみだからです」
「そうなんですのね」
「はい。そもそも女性にとって、セルティア語以外が必要となる場面は多くはありません」
「それはなぜですの?」
「我が国では、魔力を持つ女性が外国に嫁ぐことを良しとしていません。国家同士の政略結婚がないわけではありませんが、そういった場合には婚約が決まった時点で専門の教師がつけられます」
あ、なるほど。魔力は血筋で受け継がれるんだもんね。おいそれと国外に出すことはできないってわけか。
「なら、どうしてセルティア語が必要なんですの? 外国に嫁ぐのが良くないのなら、セルティア語が話されているその国に嫁ぐのも良くないのではなくて?」
「それには事情があるのです。セルティア語が使われているセルティア公国は我が国の北東に位置する小さな国で、我が国の王家の血が流れる友好国です。我が国の魔法学園では公王家の方々も学んでいらっしゃいますし、女性が嫁ぐことも許されています」
なるほどねぇ。つまり、属国みたいなものってことだね。
でもまほイケに留学生キャラはいなかったはずだし、あたしには関係ないかな?
あ、でも友好国ならどこかで話す機会があるかもしれないし、勉強はしておいたほうがいいかもね。
「他にはどのような国があるんですの?」
「北東から東にはグリューネ帝国、その南にフレシア王国、さらに南にアストゥリア王国があります。さらに東には砂漠が広がっており、その果てにはお茶とシルクで知られるタン帝国という巨大な帝国があります」
お茶とシルクかぁ。そういえば紅茶とかシルクって全部輸入なのかな? それとも国産のってあったりするのかな?
あれ?
「質問がありますわ」
「なんでしょう?」
「西の隣国はないんですの?」
「西には魔の森が広がっていますから、隣国はありません」
そっか……。
「それなら、魔の森の向こうには何があるんですの?」
「それは誰にも分かりません。魔の森は無限に広がっており、奥に入れば入るほど強力な魔物が住んでいるとされています。その果てを見たものはいないでしょう」
なるほどねぇ。あれ? ちょっと待って?
「でも、海があるんじゃなくて?」
「海? ですか? そのような話は聞いたことがありませんが、なぜそう言い切れるのです?」
「だって、雲はいつも西から来るでしょう?」
するとローレッタは怪訝そうな表情を浮かべた。
「一体なんの関係が?」
「あら? だって、雲が発生するためには海が必要でしょう?」
「……そのような話は聞いたことがありません。一体どこでそのような話を?」
あ、あれ? もしかして海の水が蒸発して、高いところで冷やされて雲になるって知られてない?
あー、もしかしてまずいことを話しちゃったかな?
「たしか、サウスベリーで読んだ本に書いてあった気がしますわ」
「そうですか。ですが雲とは、精霊たちの気まぐれによって作られるとされています。おそらくその本は、何者かが妄想で書き記したのでしょう。適当なことを書き、奇書として売る詐欺師もおりますから」
そ、そんな奴がいるんだ。気を付けよう。
「分かりましたわ。ただ……」
「ただ?」
「海があれば魚がたくさんとれるのでしょう? そうしたらわたくしの民が飢えずに済むと思ったのですわ」
するとローレッタは急に真顔になった。それからじっと何かを考えるような素振りをする。
「……魔の森の果てには、神聖なる楽園があるという言い伝えはあります」
「えっ!? 楽園!?」
「お嬢様!」
「あっ! ごめんあそばせ。それで、その神聖なる楽園というのはなんなんですの?」
「あくまで言い伝えです。我が国も教会もその存在を確認していません」
「そうなんですのね……」
たしかにまほイケでもそんな話、まったく出てこなかったもんね。
「私はこれもまた、人々の想像上のものだと考えています。なぜなら危険な魔の森の果てにある未知なる土地というものは人々の想像をかきたてるものだからです。噂が巡り、様々な想像が加わった結果としてそのような話になったのだと私は考えています」
そっか。そういうのってたしかにありそうだね。
「それに、未知なる冒険をすると喧伝することで貴族から支援金を貰おうと考える不届き者もいます」
「そ、そうなんですのね」
「はい。ですが中には貴族本人がそのような噂を信じてしまうこともあります」
「それって、どんな人がいたんですの?」
「……お嬢様に一番身近なところですと、先代のサウスベリー侯爵です。彼が熱心に魔の森の開拓を進めたのは、この楽園の噂を信じたからだと」
「あら、おじい様が?」
「はい。直接ご本人から聞いたわけではありませんが、当時の社交界ではそんな噂がまことしやかに囁かれていました」
なるほどねぇ。あたしのおじい様って実はそういうロマンが好きだったのかな?
「さあ、お嬢様。授業を始めますよ」
「ええ」
「セルティア語ですが、まず文字は我が国のものと共通です。ですが発音に若干の差があり……」
こうしてあたしはセルティア語の授業を受けるのだった。
次回更新は通常どおり、2025/12/14 (日) 18:00 を予定しております。




