第160話 追放幼女、冷凍倉庫を完成させる
2025/11/18 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
「じゃあさ。地下室を掘ったりとか、そういうのは得意ってことだよね?」
「地下室ですか?」
ロイドはやや眉をひそめながら聞き返してきた。
「え? そういうのはできないの?」
「いえ、そういったことは可能ですが……」
ロイドはなぜか言葉を濁す。
「ダメなの?」
「いえ、ダメというわけではございませんが……」
「じゃあ、あんまりやりたくないの?」
「そうですね。そういったことをするのは平民や農奴の仕事であって、騎士の仕事ではありません」
「ふうん。そういうものなんだ……」
「はい」
そっか。さすがに、やりたくない仕事を無理やりさせるのは良くないよね。
「分かったよ。じゃあ、話を戻すね。壁の強化は、これと同じように全部やってくれたんだよね?」
「は」
「うん。ありがとう。これで今度、生物学上の父親が攻めてきても大丈夫ってことだよね?」
「え? 生物学上の……?」
「あっ、そっか。あのね。前に、サウスベリー侯爵騎士団に攻められたことがあるんだ」
「……それは存じております」
「そうなの? じゃあなんで?」
「いえ。生物学上の父親という表現が意外でして……」
「あ、そこかぁ。うん。でもさ。あたし、サウスベリーにいたときはずっと離れで軟禁されてたからね。せ……サウスベリー侯爵に会ったのだって、スカーレットフォード男爵として魔の森に行けって言われたときの一回だけだもん。親子の情なんてまるでないし、そんな相手をお父様なんて呼ぶのはさすがに違和感がすごいから」
するとロイドはハッとした表情になり、申し訳なさそうに謝ってくる。
「それは……! 大変失礼いたしました」
「え? いいよ。別に。ただ、あたしとサウスベリー侯爵の関係は普通の親子関係じゃないってだけだから」
「御意……」
ロイドはそう言うと、再び申し訳なさそうに一礼してきたのだった。
◆◇◆
その日の夕方、あたしはマリーと一緒に村の西側にある広い空き地へとやってきた。
そこには大量の土砂が積み上げられており、さらにその一角には木の板が無造作に置かれている。
「お嬢様? これは一体? ここはただの空き地だったはずですが……」
「帰ってきてから急いで掘らせたんだ」
「掘らせた? 一体何を?」
「冷凍庫。ほら、シルバーウルフのスケルトンをゲットしたでしょ? だから、今からでも間に合うかなって」
「……それはもしや、氷室ということですか?」
「そう! お肉もお魚もここに運んで、カチコチに冷凍しちゃえば何かあったときにも安心でしょ?」
「そうですね」
「うん! じゃあ、中を見てみようよ。D-8、そこの木の板をどけて」
カタカタカタ。
D-8は器用に木の板を咥えて持ち上げる。するとそこには地下へと続く階段が現れた。
「マリー、行こう」
「はい」
あたしたちは階段を降り、地下へと向かう。階段も壁も天井も、すべてしっかりと石で補強されていて、目地だってきっちりとモルタルで固められている。
スケルトンって本当にすごいよね。命令するだけでこんな立派な地下室ができちゃうんだもん。
そうして長い階段を降りていった先には長い廊下があり、その左右には入口がいくつも作られている。
「あ、ちゃんとできてる。さすがスケルトンだね」
「はい……」
あたしはそのうちの一つに入ってみる。するとそこは長方形の広い倉庫になっており、天井はドーム状になっていた。もちろんここもしっかり石とモルタルで補強されている。
「これほどの倉庫が……」
マリーは驚いた様子でそう呟いた。
「ね! すごいよね! できるだけ広いのって命じておいたけど、こんな風にきちんと部屋を分けてくれるなんて思わなかったよ」
「はい……ただ……」
「ん? 何か気になることでもあるの?」
「はい。水浸しになっていますが、これは大丈夫でしょうか?」
「え? あー、うん。そうだね。でも、凍らせちゃえば大丈夫じゃない? ハスキー-5、染み出してくる水を凍らせて止めて」
カタカタカタ。
ハスキー-5は倉庫の中を走り回り、そしてすぐに戻ってきた。
うーん、でも床が水浸しなのも困るよね。
あれ? そういえば土の精霊は土を移動させたり変形させるのは得意って言ってたよね? ということは!
「ハスキー-5、床の水を凍らせて、このぐらいの氷の塊にしてそこに集めて」
カタカタカタ。
床の水が一瞬にして凍ったかと思うと砕け、そしてあたしの指さした場所に積み上げられた。
「できた! マリー、できたよ!」
「……素晴らしいですね」
松明のぼんやりとした灯りの中、マリーはそう言って微笑んでくれた。
「へへっ。じゃあハスキー-5は、この冷凍庫の番人ね。他の倉庫も全部同じように壁を凍らせて、床の水も同じようにして。それから温度を冷たく保って。あ! あと保管する物はカチコチに凍らせる」
カタカタカタ。
「お嬢様、物資の管理はいかがなさいますか?」
「え? あ、そっか。どうしよう……」
「では、ここの管理は私がやってもよろしいですか?」
「いいの!?」
「もちろんです。すべてお嬢様がなさる必要はございませんし、それにジェイクさんとアンソニーさんのおかげでかなり仕事が楽になりましたから」
「分かった。ならお願いね!」
「かしこまりました。それではハスキー-5にそのように命令をなさってください」
「うん。ハスキー-5、ここの管理人はマリーだから、マリーの命令に従ってね」
カタカタカタ。
するとマリーは次々と細かい命令を下していくのだった。
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