第152話 追放幼女、鉱山を視察する
2025/11/18 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
午後になり、あたしは約束どおりジェイクを連れて鉱山の視察にやってきた。といっても完全に雪に埋まっており、言われなければここが金鉱山だとは分からないだろう。
「閣下、ここが?」
「うん。そうなんだけど、川が完全に凍っちゃったらしくてね。それで溶けるまでは採掘を止めてたんだって」
「なるほど……」
ジェイクはフォレストディアのスケルトンの背に乗り、じっと雪に覆われた川岸を見つめている。
「閣下、施設はどちらに?」
「ん? 施設? 施設って?」
「え? ですから鉱山を稼働させるには様々な施設が必要ですよね? たとえば巻き上げ機やクレーンがなければ鉱石を坑道から運び出すだけでも一苦労です。それに水車や流し樋なども必要でしょう」
「え? 何それ?」
ジェイクはポカンとした表情になったが、すぐに真面目な表情に戻る。
「もしや、施設がないということはスケルトンたちが?」
「うん。だってすごく力持ちだからね。大きな岩だって簡単に運んでくれるよ?」
「……では、排水は?」
「してないよ。だって、スケルトンは水の中でも普通に仕事できるもん」
「……」
ジェイクはなんだかよく分からない複雑な表情をしている。
「ジェイク?」
「い、いえ。あまりに常識と違うことが行われていましたので驚いてしまいました」
「そっか。でもあたし、鉱山の普通なんて知らないもん」
「いえ、失礼しました。むしろこのような体制で金の採掘ができていたということはものすごいことです」
「あー、うん。ありがと。それで? どうしたらいいの? その口ぶり、ジェイクは鉱山に詳しいんでしょ?」
「はい。陛下から閣下に付き添うように命じられてすぐに調査いたしましたので」
「あ、そっか。乗っ取ってもちゃんと運営できなきゃ宝の持ち腐れだもんね」
「はい」
「それで? その巻き上げ機とクレーンと水車と流し樋のほかにはどんな設備がいるの?」
「はい。あとはトロッコも必要でしょう」
「トロッコ? え? なんでそんなのがいるの?」
「え?」
ジェイクはポカンとした表情であたしのほうを見てくる。
え? 何々? どういうこと? トロッコってたしか、観光客を乗せて絶景を見る楽しむ観光列車じゃなかったっけ?
ん? 列車!?
「ああっ!」
「閣下?」
「トロッコ! それだよ!」
「ええと? なんの話でしょうか?」
「だからさ! トロッコ列車!」
「トロッコ列車? とはどういうことでしょうか?」
「トロッコ列車をうちとバクスリーの間に作ればいいじゃん! そうすれば野営地とかも考えなくてもいいでしょ?」
「あ、あの……」
「うん! 決まりだね。ならさっそく買い出しをお願いしに行かないと! D-8、スカーレットフォードに――」
「閣下! お待ちください!」
「えっ?」
「そのトロッコ列車の件はさておき、今は鉱山の問題を洗い出さなければなりません」
「あっと、そうだった。ごめんごめん。でもさ。なんで鉱山でトロッコ列車なんているの?」
「……閣下、トロッコとはそもそも鉱山などで荷物の運搬効率を上げるための設備です」
「えっ? そうだったの!?」
「はい。そのトロッコ列車なるのものは存じ上げませんが、察するにトロッコの台車を連結させたものなのですよね?」
「うん。真ん中に通路があって、左右に座席がある感じ……かな?」
あたしはネットで見たことがあるだけだからあまりよく知らないんだけどね。
「……かしこまりました。それでは話を鉱山設備に戻しましょう。まずは水対策が急務です」
「え? でも川底を掘って深くしたよ?」
「それだけでは足りません。増水で水没する恐れもありますし、掘り進めていけば湧水で水没する可能性も高いです。現に、水の問題で冬季の操業が停止したのですよね?」
「それは……そうだね」
「ですからまずは排水設備の整備、そしてこの川の流れを変える付け替え工事も必要です」
「そっかぁ。うん。そうだね」
「あとは鉱山施設を中心とした砦も必要です。すでに金鉱山があるということは知られておりますので、不埒な輩がいつやってきてもおかしくありません」
「あ、うん。そうだね。一応、クレセントベアのスケルトンに守らせてはいるけど……」
それを聞いてジェイクは引きつったような表情を浮かべた。
「ですが、それとて完ぺきではありませんよね?」
「それはそうかもしれないけど……」
「でしたら、人が暮らせるだけの砦は必要です。それに選鉱施設と精錬設備も必要ですから」
「え? でも精錬所はもう村にあるよ?」
「いえ、鉱山にまとめてしまったほうが効率的です。運搬にはコストがかかりますので、なるべく価値のある物のみを運搬するべきです」
「うーん、それもそうだね。でも鉱毒とか、大丈夫? 精錬には鉛使うんでしょ?」
「はて? どういうことでしょうか?」
「え? だって、鉛って体に悪いんでしょ? それに鉛入りの水で育てた作物にも鉛が入るから体に良くないじゃなかったっけ?」
「……そのような話は聞いたことがありません」
「そうなの? うーん、でもあたしは体に悪いって思ってるから鉛を上流で出すのはなしで」
「……そうですか。かしこまりました」
ジェイクはやや呆れたような表情を浮かべつつ、そう言って礼を執ってきたのだった。




