第151話 追放幼女、二日目の朝練をする
2025/11/18 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
「他には何かある?」
「はい。陛下に約束された道の件ですが……」
「あれはすぐには無理だよ。まだ領境も決まってないし、安全を確保しないといけないしさ。とりあえずはメレディスと相談してからかな。それにあたしも出るならローレッタとも相談しないと……」
勉強が遅れるってものすごく反対されそうな気がするもん。
「仰るとおりですが、必要な物資の調達は早めに動かなければなりません。それに架橋するための技術者も確保しなければなりませんし、地質の調査も必要でしょう」
「それもそうだね。でも、そんなに焦らなくてもいいんじゃない? きっと何年も掛かるでしょ?」
「はい。だからこそ、計画を立てるべきです」
「うーん……分かったよ。じゃあ考えて提案してくれる?」
「……かしこまりました」
ジェイクはやや不満げな表情でそう答えた。
「それともう一点」
「何?」
「金鉱山についてですが、現状の確認をさせていただけませんでしょうか?」
「え?」
どういうこと? まさか何か悪いことを考えてるんじゃ!
「……そのようなお顔をなさらないでください。今の私には閣下のため、ご命令のとおり全身全霊を尽くす以外に道は残されていないのです。そのようになさったのは閣下なのですよ?」
ジェイクはそう言って寂しげな表情を浮かべた。
「あ……」
そう、だよね。仕方なかったとはいえ、あれは騙したようなものだ。そのうえ命令だってしてるんだから、裏切れるわけがない。
「うん。そうだね。ごめん」
「いえ。それよりも現状の確認を……」
「うん。分かった。明日の午後、視察に行こうか」
「かしこまりました」
ジェイクはそう言って、再び恭しく礼を執るのだった。
◆◇◆
翌朝、あたしは再びメレディスの朝練に参加した。今日も昨日と同じでランニングから始まったのだが……。
あ、あれ? 昨日はあんなにしんどかったのに、なんか今日はそこまででもないような?
「我が主、筋肉痛にはなっていないようですね」
「うん。それになんか昨日より楽な気がする」
するとメレディスはくしゃりと表情を崩した。
「ははは。一日でいきなり体力がつくことはありませんよ」
「そっかぁ」
「はい。昨日と同じペースで走っていますから、遅れないようにしてくださいよ」
「うん」
あんまり昨日の朝練の疲労が残っている感じはしないけど、やっぱり後で効いてくる感じなのかな?
そうこうしているうちに伴走相手がレスリーに代わり、そして広場まで戻ってきた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「閣下、昨日に続いてよく頑張りました」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ふぅ」
なんとか息が整った。
「うん。ありがと」
するとレスリーはニッコリと優しく微笑んだ。
「おや? 我が主、もう息が整ったんですか?」
「え? うん。なんとかね」
「……そうですか」
メレディスは怪訝そうな目であたしの顔をじっと見てくる。
「……どうしたの?」
「いえ。それでは素振りをしましょう」
「うん」
あたしは木剣を受け取り、昨日と同じようにゆっくりと素振りを始める。
ブンッ! ブンッ! ブンッ!
うん。やっぱり素振りって楽しいね。
そうして夢中で素振りをしているのだが、メレディスは何も言ってこない。
……うまくできてるのかな?
「ねぇ」
「素振りに集中してください」
「う……」
怒られちゃった。でも指摘されないってことは、間違ってないってことだよね?
そう考え、あたしは素振りを続ける。
そうして素振りを続けていると、少しずつ腕がきつくなってきた。
「素振りを止めてください」
「え? あ、うん」
あたしは剣を下に向けた。するとずしりと木剣の重さが伝わってきて、思わず剣先を地面に着けて重さを逃がす。
「ああ、やはり」
「え? 何が?」
あたしは思わず聞き返した。するとメレディスは驚いたような表情であたしの顔をじっと見てくる。
「な、何? あたし、何か変なことを聞いた?」
「いえ。つまり、無自覚ということでしょうか?」
「え? 何が?」
さっぱり意味が分からないんだけど……。
あたしの表情に、メレディスはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「我が主、ご自身が魔法を使っていたという認識はおありですか?」
「え? 魔法? なんの?」
するとメレディスは満足げな表情を浮かべた。
「メレディス?」
「いえいえ。我が主には魔法の才能があるのだなと感心していただけですよ」
「どういうこと?」
「我が主は先ほど、体内の魔力で筋肉を補助していましたから」
「え? あたしそんなことしてたんだ」
「ええ、そうですよ。その年齢でできる者はまずいません」
「そうなんだ……でもあたし、特に意識してなかったよ?」
「だから才能があると申し上げたのですよ。何せ身体強化は基本にして最も難しい魔力の運用ですからね」
「最も難しい?」
「はい。魔力は使い過ぎれば体は動かなくなり、場合によっては命を落とすこともあるということはご存じですか?」
「うん」
最初にゴブリンメイジのスケルトンを作ったときに倒れちゃったし。
「他の魔法であれば魔力を体外に放出していますので、感覚的にどの程度魔力を消費したかが分かりやすいです。しかし身体強化は体内で魔力を消費しています。その感覚のずれで、魔力を消費しつくしてしまうことが多いのです。特に身体強化は魔力の消耗が激しいですからね」
「そうなんだ。じゃあ、今日体がなんとなく軽かったのって……」
「私が感じられないレベルで身体強化を使っていたからでしょう」
「そっか。体力がついたわけじゃなかったんだ」
「はい。ですから、夜に魔力の制御の訓練を受けていただきます。命に係わる話ですし、それに身体強化を使ってしまうと訓練の効果が半減してしまいますからね」
「……うん。分かった。よろしくね」
「ええ。お任せください」
メレディスはそう言っていい笑顔を浮かべたのだった。




