第150話 追放幼女、提案を聞く
「ごめん。もう一回言ってくれる?」
「はい。『すけ』がやっている仕事の一部を止めることをご提案いたしました」
どうやらあたしの聞き間違いじゃなかったみたい。
ジェイクの表情は至って真面目で、冗談を言っている様子はない。でも誓約に縛られているジェイクに対してあたしの忠臣として全身全霊を尽くすように命じたんだから、スカーレットフォードをダメにするような提案をしてくるはずがない。
でも、どういうこと?
うーん……そういえば頭がいいってメレディスも言ってたし、もしかして何か問題を見つけたのかな?
よし。ちょっと話を聞いてみよう。
「どういうこと? スケルトンが働かないとうちは立ち行かないのは知ってるでしょ?」
「はい。もちろんです。『すけ』の働きなしにスカーレットフォードは立ち行かないでしょう」
「じゃあ、なんで?」
「何も一切禁止しようという話ではありません。『すけ』が働きすぎることによる弊害を避けたいのです」
「弊害?」
「はい。スカーレットフォードは『すけ』の仕事に支えられていると言っても過言ではありません。ですが、裏を返せばそれは人の仕事を奪っているということでもあるのです」
「うん。それはそうだけど……」
「その問題に対し、閣下は子供たちへの教育で対処しようとされていますね?」
「うん」
「ですがその方法はあまりにも時間がかかりすぎます。このままでは高度人材以外の移民を受け入れることができず、人口の制約によって発展が阻害されることになります」
「そうなの?」
「はい。『すけ』は生産することはできますが、消費をすることはできません。これでは需要が足りず、輸出頼みの不安定な経済運営を強いられてしまいます。たとえばもしラズロー伯爵との関係が悪化したら? そしてもしそのときにバクスリーまでの道が開通していなければ?」
「う……」
「そうなった場合、スカーレットフォードはサウスベリー侯爵の庇護を求めなければならなくなるでしょう」
「それは……」
生物学上の父親はちょっと……。
「ですから、比較的状況が安定している今のうちに移民を受け入れ、人口を増やすべきです。そのためには『すけ』の仕事は森の中などの危険な場所でのものを優先するようにし、それ以外の部分については単純労働も含めて住民にやらせてはいかがでしょうか?」
「うーん、そっかぁ。なるほどね」
うん。一理あるね。でもどうしようかなぁ。あんまり急に人が増えてもそれはそれで問題が起きそうな気もするし……。
「ジェイクさん、一つお聞きしても?」
「なんですか? マリーさん」
「移民を受け入れたとして、食料は足りるのでしょうか?」
「はい。昨年の分を見る限り、私には生産過剰なように見えます」
「えっ? そうだったの?」
ジェイクの言葉にあたしは思わず確認をする。
「はい。たとえば小麦ですが、我が国の平均的な一人当たりの消費量と比べ、スカーレットフォードの生産量は三割ほど多いです。他にも多種多様な作物を生産していますし、魔物肉の流通もあります。はっきりと申し上げて、スカーレットフォードの住民の食糧事情は他領と比べてかなり豊かなほうです」
「そうなんだ。あたし、ボブに増産をお願いしてきちゃったけど……」
だがそこにマリーが割り込んできた。
「いえ、そんなはずはありません」
「マリーさん、どういうことですか?」
「小麦などの保存がきく食糧は一定量を備蓄に回しています。そうでないと飢饉が起きたときに対応できません」
「え? わざわざ飢饉に対する備えをしているのですか?」
「はい」
「そんな無駄なことは不要です」
「なぜですか? 飢える者が出てきてしまいますよ?」
「もし飢饉が起こったとしても、農奴に与える分を減らせばそれで済む話ではありませんか」
「なんてことを!」
「ジェイク」
「はい。なんでしょうか?」
「もしかして王様もそういう考えなの?」
「え? はい。そのとおりです」
ジェイクはさも当然といった様子でそう答えた。
信じられない! 人をなんだと思ってるわけ!? そんな奴が王様だなんて……。
どうやら顔に出ていたようで、ジェイクは慌ててフォローしてくる。
「あ、いえ、国王陛下だけがそうなのではなく、どの為政者も普通はそのように考えるかと……」
「え? そうなの?」
「はい。むしろ農奴に気を遣う為政者など聞いたことがありません。教育を施すのも恐らく閣下が初めてではないかと」
ああ、そっか。なんとなく感じてはいたけど、やっぱり農奴ってそんな扱いなんだね。
でもなぁ。あたしはやっぱりそんな風に割り切れないや。
「ジェイク、悪いけどその案は却下だよ」
「……なぜですか?」
「だってさ。飢える心配がないほうが農奴たちだってしっかり働いてくれて、きっといい仕事をしてくれるはずだもん」
「ですが……」
「それにさ。貴族は民を守るために戦うから貴族でいられるんでしょ? 農奴だって民の一人なのに、その民を貴族が飢えさせたらダメだと思うな」
「閣下……」
「だから、無理に人を増やすのはダメ。でも、単純労働者も含めて人を増やさないといけないっていうのは分かったよ。だからさ。無理のない範囲で移民を募集しようよ。できれば何かスキルがある人がいいけど、その辺はジェイクに任せるからさ。うまい案を考えてくれる?」
「っ! かしこまりました」
ジェイクはそう言うと、胸に手を当てて恭しく礼を執るのだった。
次回更新は通常どおり、2025/09/21 (日) 18:00 を予定しております。




