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第15話 追放幼女、目を覚ます

 気が付くと、あたしはいつの間にかベッドの上にいた。


 あれ? あたし、何してたんだっけ……?


 たしか……ゴブリンの群れが襲ってきて……あっ! そうだ! ゴブリンメイジと戦ってたんだ!


 慌てて飛び起きようとすると、全身に激痛が走る。


「うううっ」


 思わず変な声が出ちゃった。


「お嬢様!? お嬢様!」

「……あれ? マリー?」

「はい! お嬢様! ああ! 良かった!」

「えっと……」


 あたしの手を握ってくれているマリーの表情は心なしかやつれており、目からはボロボロと涙がこぼれ落ちる。


「マリー、どうしたの? そんなに泣いて」

「お嬢様は丸二日、眠っていらしたのです!」

「えっ!? 二日も!?」

「はい。どれほど心配したことか……」

「えっと……うん。ごめんね、マリー」

「いえ」


 マリーはあたしの手をぎゅっと強く握る。


「あのさ」

「はい」

「なんであたし、ベッドで寝てるの? あたし、たしかゴブリンメイジと戦ってたと思うんだけど……」

「それは、私が倒れたお嬢様をお運びしたからです」


 そういえば、意識が飛ぶ前にマリーの声が聞こえたような?


「うん。そっか。マリー、ありがと」

「いえ」


 マリーは複雑な表情を浮かべている。


 うん。心配かけちゃって、ホントにゴメン。


「あの……さ……」

「はい」

「その、それからどうなったの? ゴブリンは? 村は?」

「はい。まずゴブリンですが、奴らはお嬢様がボスの個体を倒してくださった後、散り散りになって逃げていきました。また、村に侵入してきたゴブリンどもについては、老人と女たちが立ち上がり、お嬢様のスケルトンたちと力を合わせて倒しました」

「そっか。それで被害は?」

「それが……」


 マリーは辛そうな表情になり、視線を()らした。


 あっ……そっか……。


 悔しいな。今の木の壁じゃゴブリンに壊されるって言われてたのに……畑を優先したあたしの判断ミスだ。


 まほイケでゴブリンキングの群れがどれだけ危険かなんて知っていたのに、ゴブリンメイジに率いられた群れですらあんなことになったんだもん。


 それにウィルまで失って……。


 ああ、領主って……辛いな。少し判断を間違うだけで人が死んじゃうんだもん。


 ゲームじゃないからリセットなんてできないのに……。


「お嬢様……」


 あっ。マリーに心配させちゃった。


「うん、マリー。大丈夫。それで被害は? 誰がやられたの?」

「はい。アントンとアリス、ローランドがゴブリンに殺されました」

「そっか……」


 アントンとローランドは農作業が得意な男性で、それぞれこの村では三番目と四番目に高齢の男性だ。アリスは三十代の女性で、前夫との間に三人の子供がいて、今は元盗賊で自警団のモーリスと再婚している。モーリスとの子供を産むと言って頑張っていたはずだけれど……。


「……あれ? ウィルは?」

「重傷ですが、生きております」

「そっか……」


 あれはさすがにダメかと思ったけど……うん。無事で良かった。


「他にも多くの怪我人が出ていますし、家畜も侵入地点に近い家畜小屋の家畜は全滅しました」

「全滅……そっか。そうだよね」


 あれだけ派手にやられたんだし、当然だよね。


「また家畜小屋の他、水車など、いくつかの施設が被害を受けています」

「水車が……それは痛いね」

「はい」


 やっぱり被害は甚大だ。でも、今はやらなきゃいけないことがある。


「うん。分かった。死者が出たんなら、行かないと……」

「お嬢様!?」

「だから、死んだ人の魂を送ってあげないと。それにあたし、いくらゴブリンとはいえ、ゾンビを作っちゃったから」

「どういうことでしょうか? スケルトンとは何が違うのでしょうか?」

「うん。スケルトンと違ってね。ゾンビにするっていうのは、死者の魂を死体に閉じ込めるっていうすごく残酷なことなんだ」

「……はい」


 マリーはまるで分かっていなさそうだが、理解しようと頭をフル回転させてくれているようだ。


「つまりね。本来はあの世に行くはずだった魂を無理やり現世に縛り付けているってこと。こんなこと、本当はやっちゃいけないことなんだ。だから早く解放して送ってあげないと」


 まほイケの悪役令嬢オリヴィアはゾンビだって普通に使っていた。それに物語の終盤になり、強い力を手に入れた後は気に食わないからと殺した人をゴブリンや動物のゾンビに閉じ込めるなど、悪逆非道の限りを尽くしていた。


 もちろんあたしはそんなことはしないし、死者の魂はきちんとあの世に送ってやるべきだと思っている。


 だからこそ!


「で、ですが! そのお体では!」

「ありがとう、マリー。でも、これだけはやらないといけないことだから。手伝ってくれる?」

「……」

「ねぇ、マリー。お願い」

「……かしこまりました」


 こうしてあたしはマリーの力を借り、ベッドから起き上がるのだった。


◆◇◆


「あっ! 姫様だ!」

「「「姫様ー!」」」

「「「天使様ー!」」」


 マリーに抱っこしてもらいながら外に出ると、村人たちが次々と近寄ってきた。


「よくぞご無事で!」

「目を覚ましたんですね!」

「ああ! 良かった!」

「うん。ありがとう。心配かけてごめんね」

「そんな!」

「村が無事なのは姫様のおかげです!」


 みんな口々にお礼を言ってくれるけれど、今回の襲撃で被害が出てしまったのはあたしのミスだ。


「でも、犠牲者が出ちゃったから……」

「そんなことはありません!」

「前のときに比べれば!」

「そうです! 姫様のおかげで、これだけで済んだんです」

「……うん」


 あたしはなんとか(うなず)いた。


「マリー、まずはあたしが戦ってた場所まで連れて行って。ゾンビにしちゃったゴブリンの魂を送りたいから」

「はい」


 こうしてあたしはマリーに抱っこされ、ゴブリンメイジと戦った場所へと向かうのだった。

 次回「第16話 追放幼女、後悔する」の公開は通常どおり、本日 20:00 を予定しております。

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