第146話 追放幼女、メレディスの質問に答える
「我が主、質問があります」
アシュリーが退室したのを見送ると、メレディスがそう切り出してきた。
「何?」
「先ほどの魔法、叙任式での魔法と同じものですね?」
「え? うん。そうだけど……」
「やはりそうですか」
メレディスは真剣な表情をしているが、どこか楽しそうでもある。
「どうしたの?」
「あの魔法、神聖魔法ですよね? それも闇の」
「ええっ!?」
「おや? 違うんですか?」
そう聞いてくるが、メレディスは確信している様子だ。
「ううん、合ってる。でもよく知ってるね。光神教の教えだと、神聖魔法は光だけってことになってるでしょ?」
「そうですね。でも、王宮の禁書庫にはきちんとありましたから」
「えっ!? 禁書庫!? それって入れるの?」
「もちろんですよ。最初はダメだと言われたんですけどね。ちょっと可愛くおねだりしたら国王の奴、簡単に許可してくれましたよ」
……それ、絶対可愛くないやつだよね?
「それによると、闇の神聖魔法とは死と魂を司り、死者の魂を冥界に送ることができるそうですが、本当ですか?」
「うん。そうだね」
「ということは、さっきの魔法は本人が言葉にした誓約を魂に刻んで縛るって感じですかね?」
「うーん、ちょっと違うかな」
「へぇ! どう違うんですか!?」
メレディスは目を輝かせながら聞いてきた。
「なんていうか、あたしが直接相手の魂に対して何かしてるわけじゃないんだ」
「ん? どういうことですか? あんとき、たしかに何かに縛られた感覚があったんですけどね」
「そりゃあメレディスが自分で誓約したんだし、当然なんじゃない?」
「んん?」
メレディスは眉間にしわを寄せ、じっくりと考え始める。
「……我が主は何もしてない……でも魂は縛られて……?」
メレディスは小声でそんなことをぶつぶつと呟いている。
「ん? ああっ! もしかして!」
メレディスはあたしのほうに視線を向ける。
「もしやあの魔法は、誓約した言葉をそのまま神に届けている?」
「うん。そういうこと」
「なるほど!」
疑問が解消されたのがよほど嬉しかったのか、メレディスは晴れやかな表情になり、左の手のひらを右の拳でポンと打った。
「ということは、あの誓約を掛けられる人数には限りがないってことですよね?」
「うーん、多分ないんじゃないかな。あたしが魔力を使うのは誓約をする時だけだし」
「ですよねぇ」
メレディスがニヤリと何か企んでそうな笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
「いえいえ。色々と我が主とこのスカーレットフォードのためにできることがありそうだと思いましてね」
「え? ああ、うん。そうだね。でもなんだか塩梅が難しくって」
「そこはジェイクに色々と考えさせましょうか。何せあいつは我が主に忠誠を誓った騎士ですからね。きっと、我が主の身代わりで死ぬこともいとわないはずですよ」
「あ、うん。そうだったね」
あとはなんだっけ? なんか色々とすごいことを誓ってたよね。
「そういえばさ。ジェイクって何者なの? 騎士じゃなくて文官なのは知ってるけど」
「おや? 聞いてなかったんですか? あいつは宰相イアン・ガーランドの従弟ですよ」
「えっ!? 宰相の!? そんなにすごい家系なんだ」
「はい。ガーランド家は代々ランバー侯爵を継承する名門ですよ」
「どのぐらい名門なの?」
「そうですね……歴史だと我が主の実家のほうが上でしょうけど、権勢という意味ではいい勝負でしょうね。過去に何人も宰相を輩出していますからね」
「へぇぇぇ。そうなんだ」
いくら金鉱山が欲しいとはいえ、ずいぶんな大物を送り込んできてたんだね。
「で、ジェイクってどうなの?」
「あいつですか? あいつは頭が回るんですが、陰謀が得意ないけ好かない男ですよ」
あはは。なるほどね。
「とはいえ、あの誓約が解かれさえしなければ問題ないですよね?」
「そうだね」
「そもそも神に届けているとなると、普通の方法じゃ解除なんてできないでしょうし」
「うん」
「あ! 解除方法は誰にも話しちゃダメですよ。アタシにも、マリーにもね」
「……うん。分かってるよ」
といっても、誓約魔法で上書きするだけだけど。
「我が主、もう一つ質問があります」
「うん。いいよ」
「我が主は誰に魔法を習ったんですか?」
「え? 独学だよ」
「ええっ!? 独学? マリーから習ったんじゃないんですか?」
「違うよ。物心ついたころにはもう使えたし」
「ほう! じゃあ鍛錬なんかはどうしてたんで?」
「サウスベリーで離れに軟禁されてたときは、夜にこっそり魂をあの世に送ってあげてた。こっちに来てからはスケルトンを作ったりとか。普通に使うことが多いからそれでって感じ」
「なるほどねぇ」
メレディスはそう言って不敵な笑みを浮かべた。
「ど、どうしたの?」
「いえいえ。ところで、この後の予定は?」
「特にないかな」
「そうですか。普段、執務が終わった後はどうなさっているんで?」
「え? 特に何もしてないよ。夕飯を食べて寝るだけ」
「なるほど」
メレディスは何やら満足げな笑みを浮かべている。
ん? なんだろう? もしかして執務の後にも何か仕事があるって思われてるのかな?
「メレディス、夜はそんなに頑張って警備しなくても大丈夫だよ。そこら中にホーンラビットのスケルトンが潜んでて、不審者は刺されるから」
「お? そんなことになってるんですか。それはどういった配置で守ってるんで?」
「えっと……ちょっと色々説明が大変だし、今度でいい?」
「ええ、構いません」
「ありがとう。じゃあ、今日はもう下がっていいよ」
「分かりました。それでは失礼します」
そう言ってメレディスはあたしに一礼し、退室していったのだった。
次回更新は 2025/08/24 (日) 18:00 を予定しておりますが、現在多忙につき、執筆が間に合わない可能性がございます。その場合は 8/31 となりますので、予めご了承ください。