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第141話 追放幼女、視察をする

「お嬢様、ご紹介いたします。私の乳母で、元メルズ男爵令嬢のアナベラ・ウェルズリー・カーターです」

「うん。マリー、そのメルズ男爵って……?」

「メルズ男爵領は、かつてラグロンにほど近い場所にありました」

「そっか。どうしてなくなっちゃったの?」

「アナベラのお父君が魔の森との戦いで戦死され、同時に後継者の方も疫病で亡くなられたそうです」

「そうなんだ。でもアナベラが婿を取れば後を継げたんじゃ……」

「そうなのですが……」


 マリーがアナベラのほうをちらりと見る。あたしが(うなず)くと、アナベラが口を開く。


「男爵閣下、前に申し上げたとおり私には魔力がありません。ですから婿取りは現実的ではありませんでした」

「そっか」


 ジェラルド卿も頭を悩ませていたけど、魔力の有無って本当に大事なんだね。


「ねぇ、マリー。それでどうなったの?」

「爵位は遠縁の親戚筋であった前サウスベリー侯爵に渡ったようです」

「じゃあメルズ男爵領は今……」

「はい。サウスベリー侯爵領の一部となっています」

「じゃあさ。そのカーター家っていうのは?」

「それは……」


 マリーはちらりとアナベラを見た。あたしは小さく頷く。


「私の夫は元々ラグロン男爵家で使用人をしておりまして、それが縁で結婚しました。今はラグロンで雑貨店を営んでおります」

「……じゃあ、商会長ってこと?」

「いえ、そこまで大きなものではございません。店舗も一つしかございませんし、よその町に買い出しに行くこともございませんので」

「そうなんだ。やっぱりパーシヴァル家にも売ってるの?」

「はい。夫婦(そろ)って使用人だったというよしみで、男爵閣下にいくつかの雑貨を納めさせてい頂いております」

「そっか……」


 なるほど。それじゃあ逆らえないよね。


 うーん。どうしようかな……。


「男爵閣下?」


 あたしが急に黙り込んだせいか、アナベラは怪訝(けげん)そうな表情となった。


「アナベラ、あとでわたくしの執務室に出頭なさい」

「え?」

「そこですべてを話してもらいますわ」

「……かしこまりました」


 アナベラはそう言って礼を()ってきた。


「ええ。楽になさい。マリー、案内の途中なんでしょ? あたしも視察の途中だから」

「はい。お嬢様。いってらっしゃいませ」

「うん。またあとで」


 こうしてあたしはマリーたちと別れ、ボブのところへと向かうのだった。


◆◇◆


「姫様! おかえりなさいませ!」


 あたしが畑に着くと、あたしの姿を見たボブが駆け寄ってきた。


「うん。ただいま」

「それで、今日はどうなさいましたか? 作付け状況でしたらもう少しあとのほうが……」

「ううん。視察じゃなくて、作付け計画について聞きたいんだけど」

「はい。なんなりと」

「あのさ。今年って、去年の二割増しくらいでしょ?」

「え? に、にわり……?」

「あ、えっとさ。去年の畑ってここからここまでだったけど、今年は、ここからここまで増やしたでしょ?」


 あたしは畑の地図を広げ、指さしながら説明する。


「はい」

「でもね。あたしが騎士たちを連れて来たから、村の人口が三十人近く増えてるんだよね。そうすると備蓄に回す分が足りないんじゃないかなって。それにこれからはお客さんも増えるかもしれないし」

「なるほど。そういうことですか。でしたら新しい畑を増やす必要があります」

「そっかぁ。人数分は足りそう?」

「そうですね。ギリギリになるかもしれませんが……」

「じゃあ、足りなくなりそうなら今年は輸入して、森の中のほうの畑を広げよう。パトリックにでもお願いしようかな」

「かしこまりました」


 こうしてあたしは畑を後にするのだった。


◆◇◆


 続いて水堀の工事の進捗状況を確認するため、街壁の上へとやってきた。


「ウィル」

「へい。言われたとおりにゴブすけとボアすけに工事をさせてたんすけど、水が全部凍っちまったんす。そしたらあいつら、動けなくなっちまいやして……」

「そうなんだ。すごい寒波だったんだね」

「へい。そりゃあ、もう!」


 ウィルはいかに寒くて雪が積もったのかを身振り手振りで説明してくれる。


「それで、どこまで進んだの?」

「底を深くするのがあそこからぐるっと回ってあそこらへんまで終わったっす」

「じゃあ水位を下げる工事は?」

「それは全部終わってからだってんで、手を付けてないっす」

「そっか。たださ。ちょっとスケルトンたちを森の畑のほうに割り当てたいんだよね」

「え? 畑っすか? あんなに広げたじゃないっすか」

「うん。でも足りなくなりそうなんだよね」

「はぁ、そうなんすか。でもすけたちが減ると工事が遅れちまうっすよ。その間にまたあいつらが攻めてきたら……」

「それはそうだけど、メレディスたちもいるし。ね?」


 あたしはちらりとメレディスのほうを見る。


「お任せください」


 メレディスは自信満々に(うなず)いた。


「そりゃあ……メレディスの姐御は強ぇっすけど……」

「ん? なんだ?」

「ひっ!? な、なんでもねぇっす!」


 メレディスがちらりとウィルを見ると、顔面蒼白になって話題を()らした。


「ところで我が主」

「ん? 何?」

「この街壁、魔法で強化されていませんね」

「うん」

「騎士の中に土の精霊魔法使いがいます。あいつらに強化を掛けさせるのが良いかと」

「そうなの? 誰?」

「ロイド・スカーフとマーティー・レインです」

「え? 二人もいたんだ」

「はい」

「じゃあ訓練の合間にやってもらいたいんだけど、大丈夫?」

「お任せください」

「うん。よろしくね」


 こうしてあたしは、水堀の工事現場の視察を終えたのだった。

 次回更新は通常どおり、2025/07/20 (日) 18:00 を予定しております。

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― 新着の感想 ―
しっかり訓練後は補給と休養しないとね
騎士から屯田兵にジョブチェンジしないと() プライド高そうだし無理か。
望んでもない騎士の給与とか食い扶持を開拓村から出すならすごいお荷物ですね。 訓練と称して土木工事と農作業やらせよう。
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