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第134話 追放幼女、帰宅する

2025/07/16 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

 それから毎日のようにシルバーウルフの群れに襲われたものの、あたしたちは一人の怪我人も出すことなくその生息地域を抜けた。


 そうして森の中を進むこと二十日ちょっと、三月になってしまったが、あたしたちはようやくスカーレットフォードに帰って来た。


 久しぶりのスカーレットフォードはまだ雪に覆われており、その積雪も去年と比べると多いような気もする。とはいえ最近はたまに暖かい日もあるので、種まきまでにはきっと雪もなくなってくれることだろう。


 そんなことを考えつつ、あたしたちは門のほうへと向かって行進していく。そして跳ね橋の近くまでくると、街壁の上からウィルが声を掛けてくる。


「あっ! 姫さん! おかえりなせえ! おう! お前ら! 姫さんがお戻りだ! 門を開けろ!」

「「へい!」」


 すぐに門が開かれ、あたしたちは中に入った。すると大急ぎでウィルが降りてきて、あたしたちの前に出る。


「姫さん! ご無事で何よりです!」

「うん、ウィル。お留守番ご苦労様。何かあった?」

「いえ、特には……あ! いえ! 客人が来ていやす」

「客人? あたしに?」

「いえ、姫さんじゃなくてマリーの姐さんの客人らしく……」

「へぇ。マリーの?」

「そうなんすよ」

「いつ頃からいるの?」

「去年の、姫さんの誕生日のあたりからっす」

「そんなに長くいたの!?」

「へい。どうしても姐さんを待つって」

「はぁ。よほど大事な用事なんだねぇ」

「ところで姫さん。姐さんは?」

「マリーは後ろにいるよ」

「えっ!? なんで姐さんと一緒にいないんすか?」


 ウィルの言葉がグサリと刺さる。


「……まぁ、貴族には色々面倒なことがあるんだよ」

「はぁ。そうっすか……」


 ウィルは不思議そうな表情をしているが、それ以上聞いてくることはなかった。


「とりあえず、家に戻るね。お願いしておいた家の準備は?」

「へい。言われてたとおり、ゴブすけを使ってとりあえず木造の家を言われた場所に建てておきやした」

「うん。ありがと」

「ところで、もしかして……」


 ウィルがちらりとメレディスたちを見遣(みや)る。


「そうだよ。彼女にうちの騎士団の団長をしてもらう予定」

「……へい。わかりやした」


 少し不満そうな様子ではあるが、ウィルはメレディスに対して(ひざまず)いた。


「メレディス、彼はウィル。自警団のボス的な感じ」

「へぇ。中々いい体、してますね。おい! ウィルといったな?」

「へい」


 ウィルは顔を上げ、メレディスの目を見る。


「……いいだろう。これからよろしくな」

「へい」

「じゃあ、ウィル。もう戻っていいよ」

「へい」


 ウィルはそう言うと、門の上へと戻っていくのだった。


◆◇◆

 

「男爵様、おかえりなさいませ」


 家の前までやってくると、報せを聞きつけたらしくアンナが外で出迎えてくれていた。


「ただいま、アンナ。どうだった?」

「はい。これといった問題は起きていませんが、マリー様にお客様がいらしています」

「うん。ウィルから聞いたよ。どんな人?」

「はい。アナベラ・ウェルズリー・カーター様という女性です。身分は平民らしいのですが、護衛の騎士と、側仕えに若い女性が三人ついております」

「へぇ。そうなんだ。じゃあ、どこかのお金持ちの奥様って感じ?」

「かもしれません」

「かも? ってことは、どこかの商会の人じゃないの?」

「聞けていないのです」

「なんで? あたしの代理を任せたじゃん」

「それはそうなのですが……」


 アンナは困ったような表情を浮かべる。


「ならなんで?」

「どうも、貴族出身の方のようなのです。所作が平民のそれではありませんので……」

「それで強く出られなかったの?」

「はい」


 でも、聞くくらいは大丈夫だと思うんだけどなぁ……。


「あ! でもさ。入るときに身分の確認とかしたんじゃないの?」

「いえ、名前しか聞いていなかったそうです」

「えっ? ……あ、そっか。爵位を名乗らなかったから、平民として通しちゃったのか。さすがに貴族の家名なんて知らないだろうしねぇ」

「はい」

「そっか。ローレッタ、カーター家って知ってる?」

「いえ。貴族名簿にそのような家は載っていません」

「そっか。じゃあ単なるお金持ちかな?」

「かもしれません。ただ、連れていた護衛が本当に騎士なのだとすると、貴族から平民に嫁いだのかもしれません」

「あ、なるほど」


 言われてみればそういうパターンもあるね。


「あ、でもさ。ウェルズリーって生家だよね? ウェルズリー家は?」

「ウェルズリー家も載っていません。ただ、過去に存在したという可能性はあります」

「なるほど、そういことか。アンナ、あたしが直接話してみるよ。そうしたら名乗らざるを得ないでしょ?」


 するとアンナが不思議そうに質問してくる。


「……マリー様に確認なさればよろしいのでは?」

「あ……うん。そうなんだけど……」


 あたしはちらりとローレッタのほうを見る。するとローレッタは首を横に振った。


「とりあえず、あたしが直接確認するから。明日出頭するように伝えておいて」

「かしこまりました」

「それとさ。うちも騎士団を作ることになったんだよね」

「はい。伺っております。そちらの方々が?」

「うん。とりあえず細かいことはまた明日にしよう。今日はみんなをそれぞれの家まで案内してあげて」

「かしこまりました」

「メレディス、彼女が家まで案内してくれるから」

「分かりました」

「あ、それとさ。女家庭教師(ガヴァネス)と侍女の部屋って?」

「はい。女家庭教師(ガヴァネス)の方には客間を、侍女の方々には男爵様のお部屋の向かいの空き部屋をご用意しました」

「わかった。ありがとう。あとはあたしがやるから、メレディスたちの案内、よろしくね」

「かしこまりました」

「ローレッタ、カレン、イヴァンジェリン、フィオナ」

「はい。お嬢様」


 あたしはフォレストディアのスケルトンから降り、扉の前へと進んだ。するとゴブリンのスケルトンたちが何も言わずに扉を開けてくれる。


 あたしはそのまま中に入り、振り返る。


「ようこそ、わたくしの家へ」

次回更新は明日 18:00 となります。


※書籍版第一巻が 6/20 に発売になるのを記念して、6/22 まで毎日 18:00 更新を実施しております。

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― 新着の感想 ―
ぶっちゃけ付けられた二人全く信用ならない
騎士は裏切れないように叙任できっちりとギアス?にかかってるけど 家庭教師と侍女はどうなんでしたっけ かかってないならなにか宣誓させて裏切らないようにしないとですよね わくわく
今までみたいにマリーと一緒にいれないのせつないな…
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