第127話 追放幼女、王都を出発する
2025/05/24 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
それからもあたしは何回かシア殿下に呼ばれ、お茶会に参加した。一体どんなことを要求されるのかと身構えていたが、どうやらシア殿下は単におしゃべりがしたいだけのようだ。
どうやらシア殿下は噂話が大好きなようで、お茶会で私が話したことはあっという間に拡散してしまう。
しかもシア殿下が話した内容もちょっと変なものが多い。あたしに直接関係するものだとたとえば、生物学上の父親が悪魔憑きになってあたしをレイプした、なんてとんでもないものがあった。
だからそんなことは一切なかったし、会ったのは一度だけで、数分間話しただけだということをきっちりと説明しておいた。
その翌日にはもちろん、その話はあちこちに拡散しており、なんとジェイクの耳にまで届いていた。
シア殿下、ある意味ではもっとも危険人物かもしれない。
他にもあたしのスケルトンが神の奇跡とどこかの司祭が認定した、なんておかしなものもあったけど、いくらなんでもそれはないと思う。
光神教は闇属性を認めていないのだから、その産物であるスケルトンを認めるわけがない。
もちろん、神聖魔法ではあるので神の奇跡といえば奇跡なんだろうけど、少なくとも司祭が認定するのはあり得ないでしょ?
そんなわけで、あたしはよく分からないので、司祭様に直接確認してはどうか、と言ってその場は乗り切った。
と、そんなこんなで一月下旬となり、あたしたちはついにバクスリーを目指して王都を出発した。
一月下旬まで時間がかかったのには二つ理由があり、一つはローレッタたちがスケルトンに乗るための特別な鞍の用意で、もう一つは街道を通すのに必要な領境を確定するための交渉だ。
ローレッタのような貴婦人はそもそも乗馬をしたことがないそうで、スカーレットフォードに連れて帰るにはこのままだと馬車が必要になってしまう。
ただ、そうするとサウスベリー侯爵領を大きく迂回することになってしまうため、時間がもったいない。そこで彼女たちでも騎乗できるようにとひじ掛けと背もたれがあり、急に止まっても投げ出されないためのシートベルトも完備した特別な鞍を作ってもらったというわけだ。
これを追加で呼び寄せたフォレストディアのスケルトンにがっちり固定することで、乗馬経験がなくても安全に騎乗できるようになる。
一方の領境画定交渉だが、交渉相手は全部で五人いる。一人目はバクスリー男爵だ。バクスリー男爵は王都に来ていなかったため、これから交渉に向かう。
それ以外の交渉相手は、領地が北から順にモールトン子爵、ミルンデール男爵、ダヴベリー男爵、そしてあたしの生物学上の父親であるサウスベリー侯爵の四人だ。
そのうちモールトン子爵は王都に来ており、あまり魔の森に深入りしたくないとのことだったので、バクスリー男爵領との領境線をそのまま南に引いた位置にしたいとのことだった。
あたしたちとしてもそれに異存はなかったため、地形をきちんと調査し、丘の稜線や川などの自然な地形に沿っていい感じの位置に領境線を設定することとなった。
残る三人は、王都に来ていなかったため交渉はまだできていない。
そのうちミルンデール男爵はモールトン子爵と関係がいいそうなので、交渉の仲介を依頼しておいた。
モールトン子爵によると、ミルンデール男爵領はつい最近まで開拓村の扱いだったそうで、南部にまだ魔物の出る森が残っているらしい。そのため、モールトン子爵と同じような条件で領境が決まるだろうとのことだった。
残る二人だが、ダヴベリー男爵はあたしの生物学上の父親の寄り子で、そこもまた開拓村なのだという。
だからあたしの生物学上の父親と交渉をまとめればいいとのことだ。
ちなみにあたしの生物学上の父親も王都には来ていなかったのだが、どうやらそれは毎年のことで、新年の集まりをサウスベリーの自宅で大勢の寄子たちを招いてやっているのだという。
そこでサウスベリー侯爵の王都邸にジェイクが出向き、領境確定の交渉の依頼をした。王命による街道建設なので、さすがに無視はされないと思う。
あとの交渉はスカーレットフォードに帰ってからかな。
あ! それと横領された補助金の請求交渉もだね。
というのも、補助金はちゃんとサウスベリー侯爵のところに支払われていて、それが届いていなかっただけらしい。
今年の分はまだだったので直接貰ったけど、去年と一昨年の分は貰ってないもの。利子をつけてしっかり払ってもらわないとね。
と、そんなこんなであたしたちはスケルトンたちを隠しておいた森の近くにやってきた。
「Bi-61、スケルトンたちを呼んできて」
カタカタカタ。
Bi-61が森のほうへと飛んでいき、十分ほどで森の中からスケルトンたちがぞろぞろと歩いてきた。どうやら雪に埋まっていたらしく、ほとんどの子の上に雪が乗っている。
「我が主、あれはなんのスケルトンなんですかい?」
「シルバーウルフだよ」
「へぇぇ。シルバーウルフかぁ。へへへ」
メレディスはニィッっと楽しそうに口角を上げた。
「あんだけいるってことは、やっぱり我が主がヤッたってことですよね?」
「え? うーん、まあ、倒したっていえばそうだけど、ちょっと違うかな。スケルトンが物量で押しつぶしただけだから、あたしが直接何かしたわけじゃないもん」
「それは我が主がヤッたっていうんですよ」
そう言ったメレディスの表情はこのひと月弱で一番楽しそうだ。
「なあ、レスリー。楽しみだよな?」
「え? あたしは……」
「ははは。本当は楽しみなくせに」
メレディスは楽しそうにそう言ったが、レスリーは小声でぼそりと呟く。
「……あたしはメレディスさんが暴走しないかが心配だよ」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん。無理しちゃダメだよ?」
「分かってるって」
メレディスはニカッと笑った。
レスリーってさ。絶対メレディスに振り回されてる苦労人だよね。
って、あんまり悠長なことはしてられないね。
「みんな、出発するよ」
「「「はっ!」」」
こうしてあたしたちは一路、西へと進むのだった。
次回更新は通常どおり、2025/05/25 (日) 18:00 を予定しております。




