第126話 追放幼女、王女とのお茶会に参加する
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2025/06/19 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
その日の午後、あたしは第二王女アレクシアの王女宮へとやってきた。というのも、メレディスが手紙を届けに行ったのと入れ替わりで今度はアレクシア王女の使者がやってきて、お茶会に招待されたのだ。
記憶が定かではないが、多分まほイケには登場していなかったと思う。なのでどういう人なのかはさっぱり分からない。
それに当日にお茶会に誘ってくるなんてどうかとは思うけれど、相手は王族だ。ニコラスの誘いを断った手前、王族の誘いを二回連続で断るのはさすがにまずいと思ったので招待に応じたというわけだ。
お茶会は小さなもののようで、五人掛けの丸テーブルが一つあるだけだ。あたしが到着したときにはもう他の参加者は揃っており、ティアラをしている女性の左隣の席だけが空いている。
「スカーレットフォード男爵オリヴィア・エインズレイ閣下がご到着されました」
「遅くなりまして申し訳ございません。スカーレットフォード男爵オリヴィア・エインズレイでございます。王女殿下にお目にかかれ、光栄に存じますわ」
「まぁ! 待っていましたわ! 突然誘ってしまってごめんなさい。さあ、席に着いて」
「ありがとう存じますわ」
あたしはティアラをしている女性に促され、その隣の席に座った。するとその女性はニコニコと笑顔で話しかけてくる。
「わたくし、アレクシア・ゴドウィンですわ。お会いできてうれしいですわ」
「わたくしのほうこそ、光栄に存じますわ」
「わたくし、ずっと貴女に会いたいと思っていたんですの。それなのにまさか貴女がうちに来て下さるなんて! でもね。お父さまもお母さまも、貴女が来ていることを教えてくださらなかったんですの。もう! ひどいと思いませんこと? それに――」
アレクシアは次から次へとマシンガンのように話し続ける。
そうしてそのまま十分ほど喋り続けたところでようやく言いたいことをすべて言い尽くしたのか、アレクシアはふうっとひと息ついた。すると右隣に座っている女性がおずおずと声を掛ける。
「あの、シア様……」
「あっ! そうでしたわ! オリヴィア、紹介しますわね。彼女たちはわたくしの親友ですの。この娘はライラ・クローブですわ」
そう言って声を掛けてきた女性を紹介してきた。
「はじめまして。オリヴィア・エインズレイですわ。クローブ家ということは、もしやベルバリー伯爵の?」
「ベルバリー伯爵はわたくしの父ですわ」
「まあ! そうなんですのね。ではカレンの妹ですのね」
「あら? 姉をご存じですの?」
「ええ。実は先だって王妃陛下に呼ばれましたの」
「では、そのときに姉とお話を?」
「そのときに王妃陛下が、カレンをわたくしの侍女として貸してくださいましたの」
「えええっ!?」
「あら? ご存じなかったんですの?」
「ええ。姉は何も教えてくれませんもの」
「そうなんですのね。それでしたら、わたくしは近いうちにスカーレットフォードに戻りますから、ご家族にきちんと知らせるように伝えておきますわ」
「まあ! ありがとう存じますわ」
「えっ!? スカーレットフォードに帰ってしまうんですの?」
ライラと話していると、アレクシアが割り込んできた。
「え? ええ。わたくしは領主ですもの。領民のために領地を発展させるのは当然ですわ」
「でも、魔の森の中にあるのでしょう?」
「ええ、そうですわね」
「それに、その……」
アレクシアが突然口ごもった。
「どうかなさいましたか?」
「え? ええ……その……」
ええと?
「ち、父親と、その……」
「そんなこと、気にしていませんわ。あのおじさんと顔を合わせたことなんて一度しかありませんもの。それもほんの数分、会話をしただけですわ」
「え?」
アレクシアはよく分からない不思議な表情をしている。
「そもそも、わたくしはあのおじさんを父親とは思っていませんもの」
「そう……ですのね。それなら良かったですわ」
なんだろう? やっぱり騎士団に攻められたことかな?
「ありがとう存じます。ですが、ご心配には及びませんわ」
「……それはつまり、メレディス・ワイアットが……?」
「え? ええ。彼女はわたくしに騎士として仕えてくれることになりましたわ」
すると、同席している女性たちから驚きの声が上がる。
「まぁ!」
「その噂、本当だったんですのね!」
「……噂になっていたんですのね」
「もちろんですわ! 何せ、誰にも靡かなかったあの孤高の女騎士ですもの。もうもちきりでしたわ!」
「弱きを助け、悪をくじく。これこそまさに騎士道ですわ!」
「しかも女騎士!」
「はぁ、素敵ですわぁ」
「「「ねぇ~」」」
女性たちはうっとりした表情で、口々にメレディスを褒め称える。
……絶対そんなんじゃないと思うけど……ま、いっか。
◆◇◆
それから他の女性たちを紹介され、そのまま彼女たちのマシンガントークに圧倒されているうちに夕方となった。
「まあ、もうこんな時間ですのね」
「楽しい時間は過ぎるのが早いですわね」
「そうですわね」
あたしはややげんなりしながらも、愛想笑いを浮かべながら同意する。
「オリヴィア」
「なんでしょうか、殿下」
「わたくしたち、もう友達ですわよね?」
「光栄に存じますわ」
「なら、わたくしのことはシアと呼んでちょうだい」
「え?」
「え? 嫌、ですの?」
「いえ、そうではありません。ただ、畏れ多いかと」
「そんなことはありませんわ! ですから、どうかシア、と」
「では、シア殿下」
するとアレクシアは満面の笑みを浮かべた。
「ええ! オリヴィア、わたくしは貴女の味方ですわ。いいですこと? 何か困ったことがあったら一番に相談してちょうだい!」
「はい。ありがとう存じますわ」
こうしてあたしはアレクシアのお茶会を後にしたのだった。
……一体何がしたかったの?