第125話 追放幼女、王子の誘いを断る
2025/05/24 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
翌朝、朝食を終えて自室でゆっくりしていると、ローレッタが近づいてきた。
「お嬢様、ニコラス殿下よりお手紙が届いております」
げっ。また来たの? 興味ないし面倒だけど……付き合わないとやっぱり不敬って言われるよね?
はぁ。
あたしが小さくため息をつくと、それに気付いたメレディスが口を挟んでくる。
「おい。その手紙は突き返しておけ」
「「はっ!?」」
あたしとローレッタは同時に声を上げた。
「ん? 何かおかしなことでも? その手紙、読みたくないのでしょう?」
「それは……」
「なら受け取らなければいいだけですよ」
「えっと……」
いいの? そんなことして?
「いくらなんでもそれは不敬です! そもそも手紙を受け取ったら返事くらい――」
「いや? 気に食わない奴からの手紙なんてアタシもアタシの伯父も暖炉にポイだぜ?」
「それは……」
「大体、レディが気に食わないって思ってるんだ。紳士たるもの、それを察して身を引くのが礼儀ってもんだろう?」
「ですが、相手は王族です」
「だから?」
「え?」
「まったく。あの弱虫お坊ちゃまごときが我が主にちょっかい掛けるなんざ百年早い」
あまりの放言っぷりにローレッタは言葉に詰まってしまう。
「あ、えっと、そこまで。とりあえず読むだけ読んでみるよ。ローレッタ」
「はい」
ローレッタは見るからにホッとした表情を浮かべ、封筒を手渡してきた。あたしは早速中身を確認する。
「ふーん。なんか、前回、途中で切り上げることになっちゃったから、その埋め合わせに今日の午後、ショッピングに行かないかって」
はぁ。本当に面倒くさいなぁ。
「それでしたら早速ドレ――」
「ほら。やっぱり捨てるので正解でしょう?」
ローレッタはギロリとメレディスを睨んだが、メレディスは呆れたような表情でローレッタのことを睨み返す。
「なんだ?」
「なんだ、ではありません! 王子殿下からのお誘いを、しかも埋め合わせのご提案をいただいたというのに、捨てて正解とはどういう了見ですか!」
「どういうって、我が主が嫌がってるんだからわざわざ付き合う必要ないってことだよ」
「なんですって!?」
「そもそも、主の意向を優先するのが臣下の務めだろう? お前こそ何を言っているんだ?」
「礼儀というものがあるでしょう!」
「そんなもんいらねぇよ。要するに、我が主は前のデートが気に入らなかったってことだ。そうですよね?」
「それは、まあ……」
「ほらな。だったら断っていいんだよ」
「ですが!」
「大体よ。気を遣う必要なんてねぇんだよ。国王はもうあの弱虫お坊ちゃまには何も期待してないはずだからな」
「へ? どういうこと?」
あたしは思わず二人のやり取りに割り込んだ。
「おおかた、国王にこっぴどく叱られたんでしょうよ。で、その失敗を取り返すために、もう一度我が主にアタックして振り向かせようとしてるといったところじゃないですかね」
「そうなの?」
「多分ですけどね」
「憶測でそんな!」
「はぁぁぁぁ」
ローレッタが割って入ってきたのだが、それに対してメレディスは盛大にわざとらしいため息をついた。
「分かった分かった。めんどくせぇなぁ。アタシが直接行って、文句をつけてきてやるよ。軟弱者が我が主に近づくな、ってね」
「そんな不敬な!」
「不敬? 不敬ねぇ。まぁ、いいだろう。で? 我が主はどうなさるんで? 行きたいんですか?」
「それは……」
「気乗りしないんですよね?」
「……うん」
「なら断っていいんですよ。なんだったら、このメレディスよりも強くて頼りがいのある男以外は好きになれない、とでも言ってやればいいんです。そうすれば顔面蒼白になって、ピーピー泣きながら逃げ出すでしょうよ」
「そ、そうなんだ……」
ピーピーって……一体ニコラスに何をしたの?
「さ、早く返事を書いてください。それともアタシが直接伝えてきましょうか?」
「書く! 書くから!」
これ以上メレディスが何かしたら余計なトラウマを増やしちゃいそうだもん。
あたしはなるべく表現を柔らかくしつつ、やんわりとお断りする手紙を書いた。
「じゃ、渡してきますね。レスリー、しばらく頼んだぜ」
メレディスは封筒を受け取ると、ものすごい速さで部屋を出て行ったのだった。
……もしかして王族だからって気を遣い過ぎてた? それともメレディスがおかしいだけ?