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第120話 追放幼女、再び謁見する

 時計塔を後にし、馬車に乗ろうとしたところで向こうから一人の身なりのいい男がやってきた。男は真っすぐにエルマーのところへと向かうと何かを耳元でささやき、それを聞いたエルマーがすぐにあたしたちに話しかけてくる。


「殿下、お嬢様、申し訳ございません。国王陛下がお嬢様をお呼びとのことです」

「国王陛下が?」


 なんだろう。一昨日謁見したばかりだし、そもそも王妃陛下が話をつけてくれるんじゃなかったの?


「オリヴィア嬢、名残惜しいですが、すぐに戻ったほうがよさそうですね」

「……ええ。そうですわね」


 こうしてあたしたちはお城へと戻るのだった。


◆◇◆



 急いでお城に戻ってきたあたしたちは、そのまま謁見の間へとやってきた。するとそこには国王陛下の他に、大勢の廷臣や騎士たちが集まっている。


 あたしはニコラスにエスコートされて玉座の前までいき、カーテシーをした。


「ニコラス、ご苦労だった。かなり仲良くなったようだな」

「はい」


 ……そんなに仲良くなった覚えはないけれどね。


「オリヴィア嬢、デート中に呼び出してしまったようだな」

「お気になさらないでくださいませ。陛下がお呼びとあらば、急ぎ参上いたしますわ」

「うむ。そうかそうか」


 国王陛下は満足げな表情を浮かべた。


「さて、本題に移ろう。昨日、妻から自分が後見人になったと聞いたぞ。これでスカーレットフォード男爵領も安泰だな」

「はい。身に余る光栄ですわ」


 すると国王陛下はなぜかニヤついている。


 え? 何? どういう流れ? もしかして自分も後見人に加えろとか言うつもり? それとも何か欲しいものがあるとか?


「妻が後見する娘は余が後見しているのと同じだ。オリヴィア嬢もそのつもりで余を頼るがいい」

「光栄に存じますわ」


 あたしはニコニコとほほ笑みながらそう返す。


 あのさ。本当にそう思っているなら今すぐにカーテシーをやめさせてほしいんだけど?


「うむ。ところで、妻は女家庭教師(ガヴァネス)侍女(レディーズ・メイド)を出したそうではないか」

「はい」

「ならば余は騎士と文官を出してやろう。妻が支援するのであれば、夫である余も支援するのが当然だからな」


 ニヤニヤしながらそんなことを言ってきた。


 こいつ! 騎士と文官なんて、乗っ取られて終わりじゃない!


 ああ、やっぱり金鉱山もスケルトンも、全部持って行く気なんだ! この業突く張り!


 ……でもこのまま断ったら角が立つし……あ! そうだ! いいことを思いついた!


「まぁ! 騎士様を?」


 あたしは勝手にカーテシーをやめ、わざとテンション高めにして王様の提案に飛びつく。


 あたしのマナー違反に周囲の人々はざわついた。だが王さまはあたしが食いついたことに気分を良くしているようで、ますますニヤついている。


「うむ。やはり魔の森の中ともなると騎士が多いに越したことはない。騎士爵もいればさらに安全になるぞ」

「素敵ですわ! わたくし、全てを捧げて守ってくださる(たくま)しい騎士様に憧れていたんですの!」

「うむ。見なさい。あれほど多くの騎士たちが、オリヴィア嬢に忠誠を捧げたいと集まっているぞ」


 王様はニヤついたまま、集まった騎士たちのほうを指さした。


 なるほどねぇ。そのためにあれだけの騎士たちを集めたんだ……あれ?


 あ、そういうこと。


 入ってきたときは気にも留めていなかったが、改めて見てみると集まっているのは若くてイケメンな騎士ばかりだ。よく教育はされているようで、特に不満げな様子はない。


 いいよ。ちゃんと選ばせてあげるから。


「とっても素敵な騎士様たちですわねぇ」

「うむ。そうであろう。彼らは余が特に頼りにしている優秀な者たちだぞ」

「はい! 本当に逞しくって……」


 それにイケメンだし。


「気に入ったようだな」


 目の保養をしていると、王さまが満足げにそう言ってきた。


「はい。ただ……」

「ん? 何かあるのか?」

「その……ちょっと恥ずかしいのですけれど……」

「む? なんだ? 言ってみなさい」

「その……わたくし、物語で読んだ叙任式に憧れているんですの。剣と忠誠を捧げるシーンがとっても素敵で……」

「おお! そうかそうか。ならば叙任式も手配してやろうではないか」

「まあ! ありがとう存じますわ!」

「ああ、任せなさい。こちらの麗しいレディに剣を捧げ、守りたいと欲する諸君は前に出よ!」


 すると集まっていた騎士たちが全員、統制の取れた動きで前に出た。


「どうだ? 彼らは皆、オリヴィア嬢に剣を捧げたいようだぞ?」

「はい! 嬉しいですわ!」


 あたしは無邪気な夢見る少女を演じるのだった。


◆◇◆


 一方その頃、マリーのところへローレッタたちがやってきていた。


「マリーさん、本日よりお嬢様にお仕えさせていただきます。よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします」

「……お嬢様はどちらに?」

「第三王子殿下と外出中です」

「そうですか。では先に役割分担の話を進めましょう」

「はい」

「早速ですが、今後のお嬢様のお身の回りのお世話については、侍女であるカレンとイヴァンジェリンにお任せください」

「……はい。そうですね。分かりました」

「領地の他の使用人たちは?」

「他に使用人はおりません」

「……なるほど。魔の森の中ですし、仕方ありませんね。本来であれば乳母の方とは少し離れていただきたいのですが……」


 ローレッタはカレンとイヴァンジェリンのほうを見た。すると二人は首を横に振る。


「……そうですか。仕方ありません。ではマリーさんは雑役女中としての仕事は引き続きよろしくお願いします」

「……はい。ただ、私からも質問があります」

「なんでしょう?」

「皆さんのお給金についてです。王宮で――」

「私たちは王妃陛下の女官です。もし私たちに支払う給金があるのでしたら、それは私たちの住居費や食費などに充ててください」

「……そうですか」


 マリーはそう言うと(うつむ)き、ほんのわずかに表情を(ゆが)めたのだった。

 次回更新は通常どおり、2025/04/06 (日) 18:00 を予定しております。

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― 新着の感想 ―
せめて目的と敵意は隠さないと、ナイナイされちゃう
邪魔者は骨にした方が便利だなあ
やはり騎士も侍女も三日と経たずに「すけ」化しそうだなぁ…w
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