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第117話 追放幼女、お茶会を終える

 王妃陛下はクティをテーブルの上に戻すと、再び話題を振ってくる。


「ところで、確認したいことがあります」

「はい。なんなりと」

「オリヴィアは結局、どのようにルディンハムまで来ましたか?」

「どのように、とは一体どのような意味でしょうか? 乗り物ということでしたら、フォレストディアのスケルトンに騎乗して参りましたわ」

「いえ、そうではありません。貴女はわたくしに、魔の森を抜ける、と言ってきましたね? ですから念のため、サウスベリー侯爵の息のかかっていない開拓村に一応話を通しておきました」

「ええ。バクスリー男爵閣下に先触れをお出しいただき感謝していますわ」

「え?」


 王妃陛下は怪訝そうな表情であたしのほうを見てきた。


 ええと?


 あたしが困っていると、ローレッタがまたもやそっと耳打ちをしてくれる。


「お嬢様、王妃陛下は本当に魔の森を抜けて来たのか、と確認をなさっているのです」


 えっ? そこなの?


「王妃陛下、感謝申し上げますわ。地図を事前にいただいたおかげで、迷わずに魔の森を抜けられましたわ」

「……そう。それは何よりです」


 王妃陛下は半信半疑といった様子でそう答えた。


 あれ? これってもしかして、別のルートで来るって思われてたわけ!?


「それよりも、あの男に道の開削を命じられたそうですね」

「はい。やり切ってご覧にいれてみせますわ。何せ、わたくしたちにとって本当に必要な道ですもの」

「……」


 王妃陛下は困惑した様子であたしのほうを見つめてきた。


 あれ? 王妃陛下でも予想外のことがあるとこんな表情をするんだ。


 そっか。そうだよね。いくら王妃陛下でも、やっぱり人間だもんね。


「わたくし、ラズロー伯爵領への道を通しましたもの。同じことをもう一度するだけですわ」

「……そう。困ったことがあればローレッタに伝えなさい。わたくしが力になりましょう」

「ありがとう存じますわ」


 あたしは満面の笑みでそう答えたのだった。


◆◇◆


 それから三十分ほど雑談をし、あたしは王妃陛下の御前を辞した。


 帰り道はローレッタに案内してもらい、部屋のある本館の入り口にやってくると、なんとマリーが待っていてくれた。


「お嬢様、おかえりなさいませ」

「うん、マリー。ただいま」


 するとローレッタがマリーに話しかける。


「貴女がオリヴィアお嬢様の乳母のマリー・パーシヴァルさんですね?」

「はい。そうですが、貴女は?」

「わたくしはローレッタ・リンスコット・ワイアットと申します。王妃陛下のご命令で、今後はお嬢様の女家庭教師(ガヴァネス)を務めることとなりました。後ろの二人も王妃陛下の侍女ですが、当面の間はお嬢様の侍女としてお仕えさせていただきます」

「カレン・クローブですわ」

「イヴァンジェリン・フライですわぁ」


 二人はそう言ってニコリとほほ笑んだ。


「では明日、朝三つ目の鐘の鳴るころに伺います。二人とも、行きますよ」


 こうしてローレッタたちは乗ってきた馬車にそのまま乗り込み、離宮へと帰っていった。


「お嬢様、これは一体?」

「うん。色々あってさ。とりあえず、部屋に戻ろうよ」

「はい」


 あたしたちは部屋へ戻り、王妃陛下に言われたことを話した。


「……そう、ですね。たしかに王妃陛下の仰ることはもっともです。いつまでも私がお嬢様のお世話をしていては、きっと笑い者にされてしまいます」


 そう言ったマリーはどことなく寂しげな表情を浮かべている。


「はい。ちょうどいい機会かもしれません。お嬢様は今年で十歳となられました。普通であれば乳母からは離れ、家庭教師と侍女に囲まれて生活をしている年齢です。ですから……」

「マリー!」


 あたしはマリーの両手をしっかりと握った。


「あたし、マリーには本当に感謝している。血は繋がっていないけど、マリーのことはお母さんだと思っているから! だから!」

「……お嬢様」


 あたしはマリーに抱きつく。


「……もう。まだ甘ったれさんですね」


 そう言って呆れつつも、マリーはあたしのことをぎゅっと抱き返してくれたのだった。


◆◇◆


 それからしばらくして、ようやく落ち着いてきたので今度は押し付けられた三人の話を始める。


「ローレッタはグリーンフォード伯爵未亡人なんだって」

「グリーンフォード伯爵ですか。たしか……北西部の領地だったはずです」

「どういう家なの?」

「申し訳ありません。名前は記憶にございますが、詳しいことは……」

「そっかぁ。リンスコット家は?」

「たしか……レディントン伯爵の家系だったかと思います」

「レディントン伯爵って、通ったところだね」

「はい」

「そっかぁ。かなり栄えてそうだったしねぇ。王妃陛下のところにいたってことは、きっとどっちも名門貴族なのかな?」

「かもしれません。詳しいことは覚えておらず……申し訳ございません」

「ううん、いいよ。あたしも難しいこと聞いてごめん」


 そもそもずっとあたしの乳母をしてくれていたのだ。使う機会なんてなかったに違いない。


「いえ、申し訳ございません」

「いいって。じゃあ、次は侍女二人だね。カレンがベルバリー伯爵令嬢で、イヴァンジェリンはリントン男爵令嬢なんだって。分かる?」

「はい。ベルバリー伯爵といえば、王国北東部にある名門貴族です。まさかそのような伯爵家のご令嬢を……」

「そんなに名門なんだ」

「はい」

「エインズレイ家よりも?」

「歴史という意味ではどちらも同じです。サウスベリー侯爵もベルバリー伯爵も、どちらも建国のときから存在しています。その意味では、レディントン伯爵のリンスコット家も同じとなります」

「そうなんだ。じゃあリントン男爵は?」

「申し訳ございませんが、存じ上げておりません」

「そうなんだ。じゃあうちと一緒の小さい男爵領なのかな? あ! でも王妃陛下の侍女をしてるってことは、やっぱりお金持ちなのかな?」

「わかりません。有力貴族の口利きの可能性もありますし、詳しいことは……」

「そっか。それもそうだね」

「申し訳ございません」

「ううん。そんなこと……」


 いくらマリーが物知りだとはいえ、ずっとあたしの乳母をしてくれていたのだ。王都の貴族の今の力関係なんて知っているはずがない。


 そう考え、話題を変えようとしたそのときだった。


 コンコン。


 突然、居室の扉がノックされる。

 次回更新は通常どおり、2025/03/16 (日) 18:00 を予定しております。

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― 新着の感想 ―
めんどくさくなったら『全てをすけにしますわ!』でいいんじゃないかな 侍女も王族も
オリヴィアの通ってきたルートは王妃様でも予想をはるかに超えていたようだねw 上級貴族のご婦人ご令嬢が役に立つのは魔の森の外側だけだよ そこから先は貴族の常識や教養なんて何の役にも立たない、まさしく魔…
やはり王妃も幼女男爵と敵対した場合の リスクを理解ってませんね。 シルバーウルフスケルトンの出番はまだですか? 王城の住人達の度肝を抜いてやりましょう! 特にニヤニヤ王と奸宰相はでっかい釘を刺さな…
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