第112話 追放幼女、王都に着く
2025/02/03 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
2025/05/15 紛らわしい人名を変更しました
2025/05/24 誤字を修正しました
今日は十二月三十一日。年内ギリギリになってしまったが、かなりペースを上げて進んだおかげでなんとか王都ルディンハムに到着し、ホテルにチェックインすることができた。
それもこれも、モールトン子爵と別れた翌日から毎日、これでもかというほど降り続いた大雪のせいだ。おかげで王都も雪化粧どころではなく、雪にすっかり埋もれていると言っても過言ではない。
積雪はかなりのもので、とてもではないが馬車が通れるような状況にない。歩くのですらも一苦労な様子だ。
ホテルの人の話によるとやはりこれは異常気象なのだそうで、膝まで積もることはほとんどなく、数日でなくなることが多いとのことだ。
となるとスカーレットフォードがどうなっているか不安だけれど……ま、なんとかなるかな。きっとスケルトンたちが雪かきをしてるだろうしね。
それに、王妃陛下に面会をしないことには帰るに帰れない。
ただ、残念なことにお城は昨日で面会の受付を停止しており、年明けの三日にならないと調整してもらえないそうだ。
はぁ。困ったねぇ。でもこればかりはどうしようもないし、せっかくだからホテル暮らしを楽しもうっと。
◆◇◆
積雪のせいか、それとも毎年こうなのかは分からないが、特に年越しのお祭りや新年のお祭りといったものは行われず、あっさりと新しい年を迎えた。
そうして三日となり、サイモンにお城へ手続きに行ってもらった。するとなんとお城の客間を用意してくれるとのことなので、あたしたちはすぐにホテルをチェックアウトしてお城へと向かった。
年が明けてからはずっと快晴が続いていたおかげか、お城へと通じる大通りはすっかり除雪が終わっている。
そんな大通りをカランコロンと音を立てながらゆっくりとお城へ向かって進んでいく。
「マリー、すごいねぇ。これが王都なんだ。建物も豪華だねぇ」
「はい。特にこういった町の中心となる大通りは町の主人、つまり国王陛下の威光を示すために計画されたデザインとなるそうです」
「へぇ。そうなんだ。じゃあうちもやったほうがいいのかな?」
「余裕が出たときでよろしいかと」
「そっかぁ。でも、もしうちでやるとしたらどんな感じかな? やっぱりスケルトン? あ、さすがそれはちょっと不気味かなぁ」
「はい。そうですね。やはりこういった話は専門の建築家を雇ったほうが」
「それもそうだね」
そんな話をしているうちにお城の正門に到着した。すぐにサイモンが門番のところへ行く。するとすぐに門番が近寄ってきて跪いた。
「スカーレットフォード男爵閣下、お待ちしておりました。大変申し訳ございませんが、城内では騎乗が禁止されております。ですのでそちらの馬? ええと、その不思議な騎獣? はお預かりいたします」
「そう。他のはどうしたらいいんですの?」
「はっ! すべて厩舎にてお預かりいたしますので、従僕をお付けください」
「分かりましたわ。ただ、いくつかはわたくしのペットですの。ペットは部屋に連れて行っても問題ありませんわね?」
「え? ですが……」
「あら、王妃陛下にもご覧になっていただくために連れて参りましたのに……」
「う……それは……」
「困りましたわ。きっと王妃陛下も楽しみにしてくださっているはずですのに……」
もちろんそんな約束をしているわけではないが、どうせこれが目的なんだろうしね。
「わ、分かりました。小さなペット一匹だけでしたら」
「そう。分かってもらえて嬉しいですわ。では、この子を連れて行きますわね」
あたしはそう言ってハスキーのうちの一体を指名した。ちなみにシルバーウルフの骨はすべてスケルトンにし終わっているが、あまり大量に連れて行くのもどうかと思い、近くの森の中に隠してある。
「サイモン、パトリック」
「はい。残りのスケルトンについてはお任せください」
こうしてあたしはスケルトンから降り、入城した。
それからお城の女官がやってきて、王妃陛下との面会の日時は三日後、つまり一月六日の午後二つ目の鐘のときと告げられた。
お茶会に参加するってことは、これからはマナーの最終チェックをしないとね。面倒だけど、粗相をして笑いものになったら教えてくれたマリーにも恥をかかせちゃうもんね。
◆◇◆
一方、王都を襲った雪雲はスカーレットフォードにも大雪をもたらしていた。村の周囲の積雪は二メートル以上にも及んでいたが、村内はスケルトンたちが一日中休みなく除雪しているため、道にも屋根の上にも雪は存在しない。
それは日常の光景のため、村人たちは特に気にした様子もなく生活を送っていた。だが、その光景にハーマンは驚愕する。
「な、なんなんだ? あの黒い骨は? こんなものがあるなんて聞いていないぞ? アナベラさん!」
「いえ。私もこのようなものは……」
するとアシュリーがぼそりと口を開く。
「あの……」
「なんですか?」
「噂なんですけど」
「噂ですか?」
「はい。死者を運ぶ黒い骨がいて、神の奇跡なんだって」
「……あれがですか?」
「いえ、あれは違うと思いますけど……でも、そんな奇跡が起きたって噂を聞いたことがあるんです」
ハーマンは険しい表情でアシュリーを見るが、すぐにやや呆れたような表情を浮かべた。
「所詮、噂は噂です。司祭様が仰ったのであればともかく、神の奇跡などという言葉を簡単に口にすべきではないでしょう。そもそも、雪かきをする神の奇跡などあるわけがないでしょう」
「あっ……そ、そうですよね。すみません」
するとクロエとジャネットがここぞとばかりにアシュリーを非難する。
「ほらぁ。何が奇跡よ? ハーマン様を困らせるなんて」
「そうよそうよ。あんなキモいのが神の奇跡のはずがないわ」
「ご、ごめん……」
二人に非難され アシュリーはしゅんと小さくなったのだった。