表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/155

第108話 追放幼女、お礼を言われる

2025/05/15 紛らわしい人名を変更しました

 翌朝、あたしは朝食を食べようと身支度を整えて応接室にやってきた。するとジェラルド卿とドリーンさん、フィオナさんが立ってあたしのことを待っていた。


「あら、おはよう。そんなところでどうなさったんですの?」

「男爵閣下をお待ち申し上げおりました」


 そう言うと、ジェラルド卿はあたしの前にやってきて(ひざまず)いた。


「どうしたんですの?」

「昨晩、娘を見つけて戻るように説得してくださったと伺いました。本当にありがとうございました」

「お気になさらず。大したことはしておりませんわ」

「ですが、おかげで娘と久しぶりにきちんと話ができました。感謝してもしきれません」

「ですから、お気になさらずとも結構ですわ」


 あたしはニコリと微笑んだ。


「あ、あの! 男爵閣下」


 フィオナさんがそう言って話に割り込んできた。


 もちろんこれはマナー違反で、ジェラルド卿とドリーンさんが目を見開いてフィオナさんのほうを見た。このままだとまたお説教になりそうなので、すかさずフィオナさんに返事をする。


「どうなさいましたの?」

「その、昨日は失礼なことをたくさん言ってしまい、申し訳ありませんでした!」


 フィオナさんはそう言ってぎこちないカーテシーをした。


 貴族令嬢としてこのマナーは失格だけど、素直に謝っているだけ進歩かな。


「そう。わたくし、気にしていませんわ」

「で、でも!」


 フィオナさんはまだ何か言いたそうにしている。


 あのさ。あたしが気にしていないって言ってるのにまだ続けるのって、失礼なはずなんだけどな。


 そもそも、こんなどうでもいい他人の親子喧嘩にこれ以上巻き込まないでほしい。


「ジェラルド卿、そんなことよりもわたくし、お腹が空いてしまいましたわ」

「は、はい! ただいま準備させます」


 こうしてあたしたちは食卓につくのだった。


◆◇◆


 一方その頃、スカーレットフォードにビッターレイから一台の馬車がやってきた。とりわけ豪華な馬車というわけではないが、御者台にはしっかりとした身なりで見るからによく鍛えられた体の茶髪の男が座っている。


 馬車は跳ね橋を渡り、門番をしている自警団のマイクの前までやってきた。


「こんにちは」

「あ、はい。こんにちは。ここはスカーレットフォードです!」


 マイクは慌てているのか、やや早口でそう答えた。


「え? ああ、そうですね。間違っていないようで何よりです」

「はい!」


 マイクは大きな声でそう返事をした。だがマイクはなぜかそのままじっと御者の男を見つめている。


 すると御者の男が困ったような表情を浮かべ、話しかける。


「あの、入街審査をお願いしたいのですが……」

「え? あ! そ、そうでした。ええと、お名前はなんでしょう?」

「私はハーマン・ルーワース、中にアナベラ・ウェルズリー・カーターさんの他、三名のメイドが乗車しています」

「え? メイド?」


 マイクは思わずといった様子で聞き返した。それを見たハーマンは苦笑いを浮かべる。


「ええ、そうです。疑わしいのでしたら中を検査いただいても構いません」

「え? ええと……この場合はどうするんだっけ?」


 マイクは眉根を寄せた。その様子を見てハーマンは呆れたような表情を浮かべる。


「それでしたら、どうぞ中を検査してください。そうすれば怪しい荷物も怪しい人物もいないと分かるでしょう?」

「あっ! そうですね。では……」


 マイクはそう言って馬車に近づき、無造作に扉を開けようとしたところでハーマンが慌てて注意をする。


「ちょっと! せめて声をおかけください! 女性が乗っていると申し上げたでしょう!?」

「えっ!?」


 ハーマンは深いため息をつくと、御者台から身軽な動きでひらりと降りた。そのまま流れるような動きで扉の前に移動すると、軽くノックをした。


「皆さん、入街検査だそうです。扉を開けますよ」

「ええ、どうぞ」


 女性の声が聞こえてきたので、ハーマンが優雅な所作で扉を開けた。するとそこには向かい合うようなレイアウトの座席に四人の女性が座っていた。その中の一人は中年で、上品なワンピースを着ている。残る三人は若く、メイド服を着ている。


「あちらのワンピースをお召の女性がアナベラ・ウェルズリー・カーターさん、その隣がアシュリー・スタイナーさん、アナベラさんの正面がジャネット・フライさんで、その隣がクロエ・ウィアーさんです」

「あ、はい! ありがとうございます! えっと、じゃあ、見させてもらいますね」


 マイクはそう言って馬車の中を見回したが、それだけで検査を終えてしまった。


「はい。大丈夫です」

「え? ああ、はい。ありがとうございます。それでは合格ということでよろしいですか?」

「ええと……はい、どうぞ。ようこそスカーレットフォードへ」


 マイクは自信なさげにそう言った。するとハーマンは扉をそっと閉めるとひらりと馬車に飛び乗る。そしてそのまま馬車を動かすと、ゆっくりと村の中へと入っていくのだった。

 次回更新は通常どおり、2025/01/12 (日) 18:00 を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
同世代だからと、すぐに友達カップリング進行にならなくて良かった。 自分との相性もあるし、三つ子の魂百までだし。
う〜ん さっさと王都へ向かいましょう。 王族の皆さんに 戦闘力を見せ付けましょう! 変な真似をすれば 王軍でも壊滅すると 理解させるのです。 行き違い、取り返しの付かない 結果を王族は招き入れて…
幼女男爵も人のマナーを言ってる場合ではなかったと 何か騙されて帰られるか、失礼なことをして負債抱えそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ