第104話 追放幼女、バクスリー男爵の家族に会う
ジェラルド卿にエスコートされながら応接室へ向かっていると、正面から二人の男の人に支えられてよろよろと歩くおじいさんがやってきた。
「父上! ご無理は!」
「良いのじゃよ。こんな辺鄙な開拓村にわざわざお越しくださったのじゃ。顔ぐらい見せねば失礼じゃろうて」
おじいさんはかなりか細い声でそう答えた。
「男爵閣下、あれが私の父でございます」
「そう。ならばご挨拶をしなければいけませんわね。わたくしのこと、閣下に紹介してくださる?」
「もちろんです」
あたしはエスコートをされたまま、男爵の前まで移動する。
「父上、こちらのレディがスカーレットフォード男爵オリヴィア・エインズレイ閣下です。男爵閣下、こちらがバクスリー男爵レイモンド・フリートウッドでございます」
「なんと……」
男爵はあたしの姿を見て、目をまん丸にして驚いている。
「バクスリー男爵閣下、お初お目にかかりますわ。わたくし、スカーレットフォード男爵オリヴィア・エインズレイと申しますわ。どうぞよしなに」
あたしはきっちりとカーテシーをした。すると男爵は支えられながら片手を胸に当て、騎士の礼を執ろうとしたが、よろめいて右側の男性にもたれかかってしまう。
「あら、男爵閣下。ご無理はなさらないで。こうしてお出ましいただいただけでも光栄ですわ」
「おぉ……すまないのぅ……」
「それよりも、お掛けになられたほうがよろしいのではなくて?」
「かたじけない」
こうしてあたしたちは応接室へと移動した。するとその中央にはなんとまるで食卓のようなテーブルがあり、しかもなぜか十代半ばくらいの女性が着席していた。
えっ? どういうこと?
「えっ?」
「ちょっと!」
ジェラルド卿が驚いた様子で目を見開き、続いてドリーンさんの表情がみるみるうちに怒りに染まっていく。
「誰?」
一方の女性はというと、そう言ってあたしのほうをじろりと見てくる。
「男爵閣下、申し訳ありません。ちょっと! フィオナ! 何をしているの! 急なお客様がいらしたのですからお昼は後です!」
「はぁっ? 聞いてないし」
「聞いていないわけないでしょう!」
……あれ? これってもしかしてあたしたちがちょうどお昼ご飯の時間帯に来ちゃったってこと?
アポなしだったわけだし、悪いことしちゃったね。
「騎士爵夫人」
「男爵閣下、申し訳ありません。今すぐに準備をさせますので」
「いえ、わたくしたちがちょうど昼食の時間に来てしまったのでしょう? それよりも、そちらのお嬢様は?」
「……ありがとうございます」
ドリーンさんはそう言うと、ずかずかとフィオナさんのところに歩いて行く。
「フィオナ!」
「な、何よ!」
「男爵閣下が不問にしてくださるそうです。きちんとご挨拶なさい」
「えっ? 男爵様? どこどこ?」
フィオナさんは突然喜色満面となり、あたしたちのほうを確認してきた。そしてなぜかあたしたちを避けるように歩いて行こうとしたところをドリーンさんに首根っこを掴んで引き留められる。
「何すんのよ!」
「男爵閣下を無視してどこに行こうというのです!」
「え? あの人じゃないの?」
フィオナさんはそう言ってサイモンのことを指さした。
「違います! 男爵閣下は今パパがエスコートしているお方です」
「え?」
「大体なんです! お客様を指さすレディがどこにいるんですか!」
「ここにいるもん!」
「フィオナ!」
それからドリーンさんのお説教が始まったのだが……。
「やめんか!」
男爵が先ほどのか細い声とは比べ物にならないほどの大声で一喝した。
「あ……申し訳ありません」
「おじいさま……ごめんなさい……」
ドリーンさんとフィオナさんはあっという間にしおらしくなった。一方の男爵はその一喝でかなり体力を使ってしまったようで、少し苦しそうな表情を浮かべている。
「バクスリー男爵閣下、お体は大丈夫ですの?」
「大丈夫ですじゃ」
そうは言っているが、やはり体調は悪そうだ。
「一度、お掛けになられたほうがよろしいのではなくて?」
「ああ、かたじけないですじゃ」
それから男爵はダイニングテーブルの椅子に着席した。
「スカーレットフォード男爵閣下もどうぞお掛けください」
「ええ」
こうしてあたしも男爵の正面の席に着席した。するとジェラルド卿とドリーンさんが男爵の左右に着席する。
「……なんだか、食事をするみたいですわね」
「え、ええ。そうですね。我々の不手際で申し訳ございません。お恥ずかしい限りで……」
ジェラルド卿がそう恐縮したところでなんとノックもなしに扉が開き、今度は二十歳くらいの若い男性が入ってきた。
……まさか彼も?
「あれ? 今日はおじいさまと昼食をご一緒できる……ん? 父上、誰ですか? そのお嬢ちゃんは」
するとジェラルド卿はがっくりとうなだれた。
「ジェラルド卿、あのお方は?」
「愚息の……リオと申します。本当に、重ね重ね申し訳ございません」
「え、ええ。ええと、その……楽しそうなご家族ですわね」
何と答えたらいいかわからず、咄嗟にそう答えるとジェラルド卿は再びがっくりとうなだれたのだった。
え? もしかしてこれじゃダメだった? ならなんて答えればよかったの?
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