第103話 追放幼女、魔の森を抜ける
翌日は十八頭の群れの襲撃があり、その次の日にはなんと一日に三度も襲われた。しかも夜襲まで受け、さらにその翌日は実に三十五頭もの巨大な群れに襲われた。
だが毎日十体ずつシルバーウルフのスケルトンを増やしておいたおかげでこの襲撃もなんとか切り抜けることができた。
それからは襲撃してくる群れの規模も小さくなっていき、三日後、つまりスカーレットフォードを出発してから十四日目になるとついにシルバーウルフの襲撃がなくなり、ワイルドボアやフォレストディアといった馴染みの魔物へと変わった。
ここまでで倒したシルバーウルフの数は合計でなんと百七十七頭にも上る。
ううん。まさかここまで執拗に襲われるなんて……さすが魔の森だね。
ちなみに、連れてきたフォレストウルフのスケルトンは全滅してしまった。ただ、毎日十体ずつ増えるシルバーウルフのスケルトンのおかげでむしろ戦力は強化されたと断言できる。
と、そんなこんなで魔の森を強引に押し通ること十七日、あたしたちの視界が突如として開けた。
目の前には広い雪原が広がっており、その先には木製の高い壁に囲まれた村がある。
「……あれ? 着いた?」
「かもしれません。行ってみましょう」
あたしたちは久々の人里に心を躍らせつつ、ゆっくりと雪原を歩きだすのだった。
◆◇◆
刺激しないように大半のスケルトンたちを森の中に残し、あたしたちは正門らしき場所へとやってきた。櫓の併設された門は固く閉ざされているが、門の前にはバクスリーと書かれた看板が立っている。
「そこで止まれ!」
あたしたちが近づくと、櫓の上にいる兵士が声を掛けてきた。
「む! その動く黒い骨は! スカーレットフォード男爵閣下のご一行とお見受けするが!」
するとサイモンが前に出た。
「いかにも! 王妃陛下のお招きを受け、魔の森を抜けて参りました! 私はサイモン・チャップマン! こちらにいらっしゃるお方がスカーレットフォード男爵閣下となります!」
「承知した! しばし待たれよ!」
すぐに兵士の人が櫓から降りてきて、門を開けてくれた。
「スカーレットフォード男爵閣下! バクスリーへようこそ!」
あたしはニコリと微笑んだ。
「ご案内いたします!」
あたしは再びニコリと微笑むと、D-8に騎乗したまま村内へと入る。
そうして案内された先はバクスリー男爵邸のある中央広場だ。男爵邸はあたしの家より少し大きいが、かなり古そうに見える。
柱も壁もすっかり古ぼけているうえに、一部の屋根は最近直したのか妙に新しいせいで余計に古さが際立って見えてしまう。
これ、築何十年くらいかな? もしかして百年、はさすがにないかなぁ。
「こちらが我らが主、バクスリー男爵閣下のお屋敷です!」
兵士の人がそう言ってきたので、あたしは再び微笑んだ。するとあたしの代わりにサイモンが口を開く。
「ご案内いただきありがとうございます。早速ですが、バクスリー男爵閣下へお取次ぎをお願いいたします」
「かしこまりました。しばしお待ち下され」
兵士の人がそう言ってあたしに向かって一礼したので、またしても微笑んだ。すると兵士の人はすぐに建物の中へと駆け込んでいく。
「やっぱり開拓村ってどこもこんな感じなのかな」
「そうっすね。姫様が来るまではうちもこんな感じ、いや、もっと悪かったっすね」
パトリックはそう言って苦笑いをした。
「そっか。そうだったね」
あたしたちが来たときはウィルが勝手に村長やってたくらいだしね。
「すべてはお嬢様がいらっしゃるからこそです。領地は領主に力があってこそ安定し、発展できるのです」
マリーが誇らしげにそう言った。
「マリー、それは大げさだよ。みんなが協力してくれているおかげだよ」
「いや、そんなことないっすよ。姫様のおかげっす」
「僕もそう思いますよ。男爵様」
「二人とも……」
なんだか恥ずかしくなったあたしは中央広場の様子を観察する。
村の人たちはあたしたちのほうをまるで品定めでもするかのようにジロジロと見てきているが、あたしと視線が合うとさっと顔をそらす。
……スケルトンが珍しいのか、よそ者が珍しいのか、それともあたしの髪と瞳のせいか。
そんなことを考えていると、先ほどの兵士の人が中年の男女を連れてやってきた。
男性のほうはあたしの前で跪き、女性のほうはカーテシーをしてきた。
「ようこそお越しくださいました。私は騎士爵のジェラルド・フリートウッドと申します。父であるバクスリー男爵は高齢でして、息子の私が代理でご挨拶に上がりました。こちらは妻のドリーンでございます」
「ごきげんよう。わたくしはスカーレットフォード男爵のオリヴィア・エインズレイと申しますわ。ジェラルド卿、騎士爵夫人、どうぞよしなに」
あたしはD-8の上から右手の甲を差し出した。するとジェラルド卿は立ち上がり、そこにキスをする仕草をする。
「ジェラルド卿、エスコートしてくださる?」
「はい。喜んで」
あたしはジェラルド卿の手を借り、D-8から降りた。
「このままご案内しても?」
「ええ」
こうしてあたしはジェラルド卿に手を引かれ、男爵邸へと足を踏み入れるのだった。
次回更新は通常どおり、2024/12/29 (日) 18:00 を予定しております。