第101話 追放幼女、魔の森を押し通る
2025/05/24 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
毛皮とお肉が鳥のスケルトンたちによって空輸されていくのを見送ったところで、あたしはふと異変に気が付いた。
「あれ? 連れてきたスケルトン、こんなに少なかったっけ?」
「そういえば……」
マリーも驚いた様子でキョロキョロと周囲を見回している。
「ウルフとクマは集合。ウルフはそこに整列する。クマはそっちに固まって」
カランコロン。
スケルトンたちが整然と動いていく。
「嘘っ!? クマが三体しかいない! それにウルフも! ええと、一、二、三、……」
そうして数えた結果、なんと三十一体しかいなかった。
「お嬢様、これは一体?」
「わかんない。もしかして、やられて動けなくなった……?」
おかしい。今までどんなにやられても元どおりになっていたのに!
あたしの動揺が伝わったのか、マリーたちも心配そうにあたしのほうを見ている。
ええと……そうだ! きっと近くに動けなくなってるスケルトンがいるはず!
「こっからここまでのウルフたち、近くのスケルトンで動けなくなっている子の骨を集めてきて」
そう命じるが、命令に反応しない。
えっ? どういうこと?
「……お嬢様?」
マリーの心配そうな声が聞こえてくる。
考えろ。あたし! 一体何が……って、あれ?
「もしかして……」
「何かお気づきですか?」
「うん。多分、復活できなくて、塵になって消えちゃったのかも」
「そのようなことが……」
「うん。もしかするとなんだけど、魔法でやられたせいで復活できなかったのかもしれない。実はさ」
あたしは以前、ゴブリンメイジのスケルトンを作って失敗したときのことを説明した。
「なるほど。スケルトンは魔力を使い切ると消えるのですか」
「うん。だから、シルバーウルフの魔法をくらったスケルトンが魔力を消耗させられて、形を保てなくなったんだと思うんだよね」
「なるほど……」
「大体さ。そもそもおかしいと思わない?」
するとマリーは困ったような表情を浮かべた。
「何がでしょう?」
「ほら、今まであたしはスケルトンたちを作ってからずっと何もしてなかったでしょ?」
「はい」
「それでもスケルトンたちは何事もなく動き続けてたじゃない」
「そうですね」
「でもさ。スケルトンを作り始めたころのあたしの魔力なんて微々たるものだったんだし、ずーっと動き続けていられるとは思えないでしょ? あれだけ重労働をこなしてるんだから」
「はい」
「だからさ。スケルトンはなんとかして自分で魔力を補っていると思ってたんだよね。で、その魔力の収支がマイナスになって、ある一定ラインを下回ったときに消滅するんじゃないかなって」
「それは……魔法による攻撃を受けると魔力を消耗させられるということでしょうか?」
「うん、そうだと思う」
まほイケだと浄化魔法で全部消し飛ばしていたから、設定まではよく分からないけど。
「なるほど。そういうことであれば説明がつきますね」
「だからさ。とりあえず、移動しちゃおうよ。次にまたシルバーウルフに襲われたら今度はまずいと思うし」
「ひっ!?」
あたしの言葉にサイモンが悲鳴を上げた。
「サイモン、まずい事態にならないために移動するんだよ」
「は、はい」
「じゃ、とりあえず野営できそうな場所まで行こうか」
「はい」
こうしてあたしたちはすぐさま移動を開始した。そして丘を越え、次の川を越えたところでちょうどいい場所を見つけたので、そこで野営をすることにした。
「お嬢様、それでどうなさるおつもりですか?」
「うん。このゲットしたシルバーウルフの骨でスケルトンを作ってみようと思う。ゴブリンメイジのときは魔力切れになっちゃったけど――」
「お嬢様! なぜそのような無茶をなさったのですか! 魔力切れは下手をすれば!」
マリーがすかさず割り込んできた。
「ごめんごめん。あのときは手探りだったからさ」
「……」
マリーが怖い顔をしてあたしのことを見ている。
「でも大丈夫だよ。ゴブリンメイジのときは魂を縛れなかったけど、シルバーウルフは縛れた。ということはつまり、あたしのほうが魔力が上ってことだもん。だからきっと大丈夫なはずだよ」
「ですが、その保証は……」
「うん。ないね」
「でしたら!」
「だから試してみるんだよ。それに、大丈夫だと思うし」
「ですが……」
「うん。でもこのまま何もせずに、シルバーウルフの群れに襲われたらアウトでしょ?」
「それはそうですが……」
「だったら、やってみるしかないでしょ? どのみち王妃陛下に行くって伝えちゃってるんだし、戻るなんてできないでしょ?」
「う……ですがお嬢様の身の安全が……」
「じゃあさ。やってみるから、もし倒れそうになったら支えてね」
「……かしこまりました。ですがどうかご無理をなさることだけは……」
「うん。分かってるよ。少しずつやって様子を見るから」
「はい」
「じゃ、行くよ」
あたしはシルバーウルフの骨をスケルトンにする魔法を使った。
うっ! すごい魔力を使う! この感じ、久しぶりだね。まるで初めてスケルトンを作ったときみたい。
でも、この感じ、ゴブリンメイジのときとは違ってちゃんと最後までできそうな気がする。
もっとしっかり集中して……えい!
ものすごい量の魔力を注ぎ込み続けていると、少しずつ骨が漆黒に染まっていく。
そして……。
カランコロン。
シルバーウルフのスケルトンが立ち上がった。その骨格はフォレストウルフのスケルトンと同じで、違いといえばほんの一回りほど大きい程度だ。だが、それ以外に一目見てはっきりと分かる違いがある。
なんとこのスケルトン、薄っすらと冷気を纏っているのだ。
「お嬢様! お体は大丈夫ですか!?」
「え? ああ、うん。全然大丈夫。あたしも魔力、強くなったねぇ」
「……ああ、良かった」
「マリー、ごめんね。心配かけて。でも、思ったよりも全然余裕だった。まだもう少しできそうだから、今のうちに作っちゃうね」
「はい、ご無理はなさらず」
「うん」
あたしはそれからもスケルトン作りを続け、十一体目を作ったところで魔力が尽きたのだった。
次回更新は通常どおり、2024/12/15 (日) 18:00 を予定しております。