第100話 追放幼女、襲撃を受ける
2024/12/02 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
それから三日ほど進み、起伏の激しいエリアにやってきた。もちろん険しい場所があることは鳥のスケルトンで事前に分かっていたので、その中でも一番通りやすいと思われるルートを選んで進んでいる。
ただ、空からの調査ではどうしても限界があり、足場が悪かったりしてルートを変更せざるを得ないことも度々起きている。それに想定どおりのルートを通れたとしても急な斜面を登って丘を越えては谷底へと下り、そこそこの川幅の川を渡って再び急な斜面を登るということの繰り返しだ。
フォレストディアのスケルトンに騎乗しているおかげで何とか進めているが、もし徒歩だったらと考えるとゾッとしてしまう。もしかしたら進むことすらままならなかったかもしれない。
そんな険しい道なき道を進んでいると、日当たりの悪い北側の斜面にちらほらと雪が積もっているようになった。
滑らないように慎重に谷底へと下り、川を越えてもう一度丘を越えたところでついには一面の銀世界へと突入した。
「うわぁ、こっちはもう銀世界なんだ。早いねぇ」
「そうですね。かなり冷えてきていますが、お寒くはありませんか?」
「うん、あたしは大丈夫。マリーこそ寒くない?」
「はい。私はお嬢様から頂いたこのクレセントベアの毛皮のコートを着ておりますので」
「そっか。みんなも大丈夫?」
「はい」
「大丈夫です」
「うん。じゃあ、進もうか」
あたしたちは雪面をゆっくりと下っていく。キュッ、キュッとふかふかの新雪をスケルトンたちが踏みしめる心地のいい音が聞こえてくる。
うん。新雪といっても深さは数センチくらいだし、進むのに支障はなさそうだね。
そうして谷底まで降り、川幅数メートルの小川を越えて対岸へと渡ると再び丘越えだ。
緩斜面をゆっくり登っていると、なんと白いものがちらちらと舞い始める。
「あれ? 雪?」
「降ってきましたね。天候が崩れないと良いのですが」
「うーん、そうだねぇ。今のうちに進めるだけ進んじゃおう」
「はい」
小雪が舞い散る中、あたしたちは冬の森の中をゆっくりと登っていく。すると突然、左側を歩いていたフォレストウルフのスケルトンたちが一斉に動き始めた。
え? 何!?
「お嬢様?」
「……なんだろう? 何かに攻撃をしている……みたい?」
不思議に思ってみていると、なんとフォレストウルフの頭蓋骨くらいの大きさの氷の球が突然ものすごい速さで飛んできて、一体のスケルトンに直撃した。
「え? え? 何あれ?」
困惑してみていると、残りのフォレストウルフのスケルトンたちが一斉に氷の球が飛んできた方向に走って行く。
「グルルル! ガウッ!」
獣の唸り声のようなものが聞こえ、続けて氷の球がさらに飛んでくる。それは一体に命中したが、残りのスケルトンは散開し、一斉に茂みのほうへと飛びかかる。
「ガゥゥゥ! ガウゥ! ガウゥ! キャン! キャンキャンキャン!」
獣の唸り声は悲鳴となり、やがて何も聞こえなくなった。
うーんと? やっつけた?
そう思ったのだが、今度はあちこちのスケルトンたちが一斉に動き始め、なんと四方八方から氷の球が飛んでくる!
「え? もしかして囲まれてる!?」
あたしは慌てて周囲を確認する。
何かいる……はずだけど……あれ? 何か、動いたような?
背景と同化していてものすごく見分けにくい何かがいるようで、そいつにフォレストウルフのスケルトンたちが一斉に群がっている。
……あれ? うわっ! こっちに来てる!
その見分けにくい何かは複数いたようで、その中の一体がこちらに向かって一直線に走ってきている。
あれは……狼?
って、まずい!
あたしは大急ぎで近づいてくるそいつの魂を縛ろうとした。
うっ!?
抵抗されてる!?
でも! このぐらい! モンタギューのほうが抵抗は強かった!
あたしは強引にその抵抗を押し切り、魂を縛った。
「キャンッ!?」
そいつは悲鳴を上げ、雪面に倒れ込んだ。
「……狼の、魔物?」
ただ、明らかにフォレストウルフではない。体格が一回りか二回りくらい大きいし、毛皮の色も白と灰色だ。
模様は……なんだかちょっとハスキー犬っぽいかも?
「グルルルル」
そいつはあたしたちのほうを睨みながら唸ってくる。
何よ。そっちが襲ってきたんじゃん。
「命令、そいつにトドメを刺して解体して」
カランコロン。
ゴブリンのスケルトンたちがすぐに近寄り、ハスキー犬っぽい魔物を倒して解体するのだった。
◆◇◆
それからも戦いが続き、五頭ほどのハスキーっぽい魔物があたしたちのところに到達した。
もちろんすべて縛って解体したので被害はない。でも、まさかあれだけいたスケルトンたちの壁が抜かれるなんてね。
また、あたしたちが抜けてきたハスキーっぽい魔物に対処しているうちに、スケルトンたちが残る魔物を撃退し終えたようだ。
襲ってきたのはあたしたちのほうにきた五頭を含めて合計で二十三頭で、すべて同じ魔物だ。
「ねぇ、マリー。これ、なんて魔物か知ってる?」
「いえ」
マリーは首を横に振ると、サイモンが話に割って入ってくる。
「男爵様、これはシルバーウルフだと思います」
「シルバーウルフ?」
マリーが小さく声を上げたのでちらりと見ると絶句していた。どうしたのか聞こうと思ったが、サイモンが説明を始めたのであたしはサイモンのほうに視線を戻す。
「はい。私もこのような状態で見るのは初めてですが、以前クラリントンを訪れたタークレイ商会の会長夫人が同じような模様の毛皮のコートを着ていて、シルバーウルフの毛皮のコートだと自慢していたのを見たことがあります」
「ふーん。じゃあ、やっぱり高級品なの?」
「はい。ほとんど市場には出回りません」
「そうなんだ。なんで? 強いから?」
「はい。クレセントベアなどとは比べ物にならないほど強いことで有名です。何せ、魔物狩り専門の冒険者ですら決して討伐依頼を受けないのですから」
「そっかぁ。そういえばこいつ、氷の魔法も使ってたもんね。あたしの魔法にも抵抗してたし」
「抵抗!? そ、そこまでだったのですね」
サイモンの表情が引きつった。寒いせいもあるかもしれないが、心なしか青ざめている気もする。
「大丈夫だよ。ちゃんと倒したでしょ?」
「は、はい」
「ところでさ。冒険者が狩らないのにどうやってその会長夫人はコートを手に入れたの?」
「ごくまれに、騎士団が討伐することがあるのです。その際に褒賞として受け取った騎士が毛皮を貴婦人に捧げ、それが流れてくることがごくまれにあり、会長夫人のものもそのような経緯だと思います」
「へぇ、なるほどねぇ」
もしかして、めちゃくちゃ貴重な毛皮をゲットしたんじゃ?
「とりあえず、スカーレットフォードに送って処理してもらおうか」
「はい。それがいいと思います」
「うん。じゃ、残りの解体もやって」
カランコロン。
あたしはゴブリンのスケルトンたちに命じ、解体をさせるのだった。
次回更新は通常どおり、2024/12/08 (日) 18:00 を予定しております。