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終末世界のネレイド

作者: ぐぎぐぎ

今より少し未来の世界。


最終戦争により陸地は消え去り、鉱物資源やエネルギー資源に困った人類が海をマテリアライズ化した事により、水資源の地球上の循環が失われて、人類が死滅の一途をたどっている時代。


空はプラズマ化した雲が覆い尽くし、本当の空を見た事のあるものはいなくなっていた。


人々は海の世界にそれぞれ集まり、生き延びるためのコロニーを形成していた。

その中でも特に恵まれた環境を持つ、完全環境型の移動コロニー「方舟」が存在していた。


 方舟の内部、プールサイドに座り携帯端末を弄る青年の姿がある。

 彼が情報入力を終えるとしばらくプール全体に気泡があがり、水中から水着姿の女の子が浮上してきた。


「おはよーケイ君」

 女の子は青年ににこやかに話しかけるが、ケイと呼ばれた彼は不満げな顔だ。


「おはよーじゃねぇですよ16号、これで再生処置何回目でしたっけ?」


 泳いでいたプールから上がってきただけなように見えた彼女は、今し方ケイがプールを使い再生した人造人間だ。


 方舟の住人の三分の二は彼女のような人造人間で、何らかの事件や事故で死亡した場合、ケイのような人工生命技師による再生処置が行われる。


「3回?よく覚えてないけど」


「6です、そのたびに残業して処置にあたらされるんですよ、この説明も6回目。配信受けがいいからって自殺行為を繰り返すのは迷惑っすよ」


「悪かったって、次はヘマしないからさ」


「次は男にして再生しますからね」


「ひぇー、それだけはやめて」


 裏方の間では16号、住民の間ではミランダというのが彼女の名前だ。

 彼女は娯楽担当の人造人間であり、方舟内で配信を行うアイドルのような存在。

 再生数のために文字通り命をかけていてケイの頭を悩ませていた。


 この船は世界政府が運用する唯一のコロニーであり、その名の通り人類を次の時代に繋ぐために存在している。


 同時に方舟は残存している終末兵器を探して旅をしている。

 それらは最終戦争末期の不発弾のような物で、爆発すればわずかに残った今の人類も跡形もなく死滅すると言われている存在だ。


 方舟の中では外界は全て捨て去るべき人類の恥部であると教育される。

 そのため他の生き残りを見つけても良くて放置、悪くて抹殺をしながら方舟は進む。


 善意の人達だけを集めたのが方舟であり、外にいる人間は悪である。

 外界の人間達やその文化は世界を滅ぼした元凶の末裔であるとされている。


 ケイもそれを小さい頃は信じていた、彼が隠し持つ携帯端末、それに入った百科事典を幼少期に見つけるまでは。


 それは方舟建造時に誰かが持ち込み隠していた物だったのだろう。

 そこには幼いケイにとってたくさんの胸が踊るような楽しいことが書かれていた。


 方舟の大人は外の世界は苦しみと不幸しかなかったと教えるのみだが、その本が見せる世界には文化があり芸術があり夢があった。


 夢は方舟の中にはないものだ、おそらく外の世界は豊かだったのだろう。

 明日について考える余裕がなければ夢など見られないのだから。


 しかし方舟の文化はケイのその価値観を許しはしなかった。

 彼は異端者として周囲に煙たがられるようになり孤立させられた。

 そんな彼を救ったのが親友のニナの存在だった。


 彼女はケイの気持ちに真摯に向き合い、彼の秘密を共有できる唯一の存在だった。

 ケイは彼女と夢について語り合う事が好きだった。

 大人達の嘘の世界を飛び出して誰にも汚せない真実を見つけよう2人で夜空を見ようと約束した。


 しかし病弱だったニナはケイを残して死んでしまう。


 たった1人の理解者だったニナを失ったケイ。

 しかし理解者がいたことで彼は自分の目標は独りよがりな妄想ではなく、夢なのだと信じることができた。

 余命いくばくもない身であると知りながら、その人生をケイと共に過ごす事を選んでくれた彼女に報いる為にもケイは奮起する。


 嘘の歴史と外の世界への憎悪しか教えない方舟から飛び出して夜空を見るために、ケイは脱出のためのルートを探し続け、長い年月をかけてそれにようやくたどり着いた。


 そんな時、携帯端末のメッセージアプリに通信が入る。

 メッセージには「端末の起動を確認した、使用者と話がしたい」と書かれていた。


 メッセージの導きに従い脱出の日時を決めたケイは16号にお別れを言うと、方舟から飛び出し、方舟のアームデバイスの襲撃を受けながら一隻の海賊船に拾われた。


 その海賊船には海賊の男マッシュと、メカニックドロイド、そして古めかしい戦闘兵器「アームデバイス」があった。


 外海人達がイレブンと呼ぶ高機能ロボットと、ボロのジェットバイク「ネレイド」。

 マッシュによるとケイを呼んだのはネレイドであるらしく、ケイはネレイドのドライバーにされてしまう。


 マッシュの目的はくしくもケイと同じ夜空の見える場所。

 彼には幼い頃の記憶がなく、ネレイドと共に漂流していたところを海賊に拾われたのだった。


 かすかな記憶の中にある夜空を見れば何か思い出せるかもしれない、そしてそのカギはネレイドが握っているに違いない、マッシュはそう信じて旅を続けていた。


 夜空への地図となる生きたGPSの搭載されたケイの端末を狙い様々な外海人が襲ってくる。

 星空で位置を確認できない外海ではGPSの生きている端末が無ければコロニーの外に出ることもままならない、端末は値千金のお宝なのだ。


 ザリガニ、マッパ、ゼッペケ、ゼッツーなど、旧時代の暴走族が好んだバイクのあだ名をつけられた海賊や武装コロニーのアームデバイスによる襲撃。


 ピンチに瀕したケイは死んでたまるか!と奮起してネレイドを覚醒させ、ネレイドは海水を装甲にし、エネルギーを海から得てロボットに形態を変化させた。


 方舟の住人なら遺伝子の欠損が少ないためネレイドのセキュリティをパスして真の力を起動できる。

 マッシュはそれを狙ってケイにネレイドを使わせていた。


 しかしマテリアライズ化した海を鉱物資源やエネルギー資源として自在に操る事の出来るそれはケイの記憶の中には一つしか該当する存在がなかった。


「これってまさか終末兵器か!?」

 戸惑いながらもケイは海から無限のエネルギーを取り出し敵を一掃する。


 ケイは自身を利用し終末兵器を起動させたマッシュに疑いの目を向ける。

 しかしマッシュも幼い頃失った記憶を取り戻すために夜空を探していて、ネレイドがケイなら手がかりを持ってると言うから危険を犯して会いにきたとわかる。


 夜空を探して旅する2人はいろんなコロニーを巡り、海賊や方舟からのアームデバイスによる追跡を退けながら旅を続ける。


 彼らが出会ったコロニーの一つにネズミの巣と呼ばれるコロニーがあった。

 そこに暮らすのは今日生きる事で精一杯な少年ギャング達。

 大人たちはみんなある海賊により人間狩りにあい、労働力に使えない子供と老人だけが残された場所。


 何もかもが奪われたコロニーの住人にできる事は、疫病で滅びた他のコロニーでの墓あさり。

 そして海賊の略奪の後を残飯をあさるように追従する彼らを、海賊や他のコロニーの住人たちは「ネズミ」と呼んでさげずみ忌み嫌っていた。


 そんな生活の中でネズミの数人が仇の海賊のアジトに忍び込もうとした。

 アジトに忍び込めたのはたった一人。

 子供一人じゃ木っ端海賊一人殺せないだろうと笑われながらも、少年は不敵な笑みを浮かべていた。


「ネズミは一匹忍び込めば疫病を広められるんだぜ」

 彼の言葉に海賊が少年の服を剥ぐと、そこには疫病の罹患者の証である痣が刻まれていた。

 あわてて少年を殺して海に捨てた海賊だったが、時すでに遅く、疫病が蔓延してその海賊団は全滅。


 壊滅した海賊団のアジトにネズミ達が現れ、財産を根こそぎ奪っていった。


 そんな彼らを危険視した他のコロニーは海賊を雇いネズミの巣を殲滅しようとする。

 ケイ達はネズミ達を救おうとしている奇特な海賊と出会い、海賊を信じようとしない彼らとの仲介を頼まれる事に。

 

 ケイの身柄は子供達に拘束され、彼らと生活を共にするうちにケイは外海のおかれた環境について思い知らされていく。

 

 追い詰められたネズミ達を救うためにケイは大胆な作戦を彼に提示する。

 ネズミの巣を壊滅したように見せかけて、海賊に身受けをしてもらうというものだ。


 当然そんな話に乗る者はほとんどいない。

 ケイはネズミ達に自分の置かれていた方舟での嘘の生活、なにものにも汚されない真実を探すという夢を語る。

 明日を掴むために君たちを取り巻く世界を変える、君たちが変われば世界が変わるんだと説得し、ケイとネズミ達は勝負に出る。


 作戦がうまくいきかけたと思ったその時、方舟側がネレイドと同じ終末兵器「バルカロール」を刺客として送り込んでくる。

 ケイが知る限り終末兵器は発見次第解体して破棄しているはずだった。

 方舟がなぜ破壊したはずのそれを所有してるのか戸惑いながら、ネズミと海賊を庇いながら戦うケイとマッシュ。


 救えるはずだったネズミの巣の住人の大半を犠牲にしながらも辛くも勝利を手にするケイ。

 謝罪する彼に少年たちはあんたはまだ約束を違えていないから謝る必要はないという。

 夢を叶えて明日を見せてくれという少年たちにケイは強い友情を感じるのだった。


 それからも方舟側はネレイドと同型の終末兵器を送り込んでくる。

 方舟側のパイロット達はケイが目的地に辿り着くと方舟の人類が死滅すると言われているようだ。


 方舟が終末兵器を集めている実態は、方舟外の人間を皆殺しにして人類史を仕切り直すためだとわかる。

 ネレイドのマクスウェルドライブを方舟に組み込むことでそれが可能になるらしい。


 方舟に組み込まれたドライブの数だけ方舟が豊かになり、海が汚染され飲むことのできる水が減り、空がプラズマ雲で埋め尽くされていた。


 方舟はブルーグラス、カデンツァ、レガート、ヴィバーチェというネレイドを次々に送り込んでくる。


 ケイとの戦闘で機体が破壊されても、方舟側にはドライブが無事なら問題ない。

 方舟側はネレイド最後の一機である、ケイの乗機「アルファイン」を手に入れようとしていた。


 旅を続けていくほどに、どうして今の地獄のような世界になったのかを知っていくケイ。

 全ての元凶は方舟側の旧世界政府であること。

 そして彼らが恥部と呼び滅ぼすべき邪悪とさげずんでいたコロニーの人々の強く生きていく姿を目の当たりにしていく。


 ケイは旅先での厳しい現実を目の当たりにするたびに、夢なんてものを追いかけている自分は間違っているんじゃないかと戸惑い悩む。

 しかし絶望しかない世界において彼の抱く夢の輝きは人々にとってたしかな希望となる事も知る。


 そしてそんな彼の生きざまに方舟側の人間達も少しずつ影響を受け始めていた。


 彼の明日を夢を守るために力を貸してくれる人達、時には犠牲になりながらも彼らを送り出してくれる人達の思いを背負いながら、ケイとマッシュは旅を続けていく。


 方舟側は最強のネレイド「コルラトゥーラ」を出し、苦戦を強いられたケイ達は海賊達のマシンと共闘してそれを退け、ケイは方舟と決別する。


 敵を退けたケイは空を覆う雲を抜けて遂に空を見る。

 青い空が夕焼けに沈み、夜が訪れ星が輝く。


 その場に居合わせた海賊達もみんな言葉を失いその光景に見入っていた。


「記憶は?」

 ケイが尋ねるとマッシュは首を横に振る。


「親父とこうして空を見てたって事だけしか思い出せなかった。でも今はそれで十分だ」

 マッシュは満足げに言う。

 そんな彼や嬉しそうな海賊や少年達を見てケイは言葉にできない喜びを胸に夜空を見つめ手を伸ばす。


「誰にも汚せない真実、たどり着いたよニナ」


 ネレイドが歌うような音を上げてエネルギー補給をする。

 それに釣られて鯨達が歌うのが聞こえた気がした、海が歌っているような不思議な光景がそこにあった。


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