転生女公爵、得たお小遣いは全て推しのために使います!
ヴィクトリア・グレール。彼女は唐突に前世の記憶を思い出した。
彼女は前世、いつも独りぼっちだった。家族も友達もいない。そんな彼女を救ったのは一人の青年だった。アイドル、KAITO。彼に一目惚れした彼女は、推し活のために必死に働いて彼に貢いだ。最期の日、孤独と病気の苦痛の中で意識を失った彼女はそれでも幸せだった。だって、その部屋にはKAITOのグッズがたくさんあった。大好きなKAITOに囲まれて、最高の最期だった。
そんな記憶を何故突然に思い出したか。それは、KAITOに似た青年と出会ってしまったからである。彼女はあまりにも突然の大量の情報に、脳がパンクしてその場で昏倒した。
「んん…夢じゃ…ないみたいだね…」
ヴィクトリアは目を覚まして真っ先に鏡を見るが、しっかりと今世の身体なのを確認して押し黙る。前世の記憶に引っ張られて、なんだかこの状況に追いつけていない。
「…そっかぁ、今世はヴィクトリア、かぁ…記憶はあるけどなんだか馴染みがないなぁ」
ちなみにヴィクトリアは、この公爵家の女公爵になったばかりである。つい最近、両親を亡くした。恋愛至上主義の両親だったので婚約者はいない。兄弟も残念ながらいない。そんなヴィクトリアは、しかし親戚が良い人ばかりなのが幸いして彼らの支援の下どうにか公爵家を継いだ。
そして、いつも優しい親切な親戚が婚約者にどうだと紹介してくれたのが先日の彼。カイト・マルスランである。
「はぁ…カイト様、KAITOに似てたなぁ…もしかして生まれ変わりだったりして…また推し活したいなぁ…していいかなぁ…」
カイトはマルスラン伯爵家の三男である。女公爵となったヴィクトリアの婿に勧められるだけあって優秀であることで有名だ。きっとヴィクトリアを上手に支えてくれるだろう。そして、物珍しい女公爵であるヴィクトリアに悪印象はないように見えた。最高じゃなかろうか。
「まずは婚約をお受けすることをお伝えしないと!」
ということで、初手昏倒してしまったヴィクトリアと勝手にヴィクトリアを病弱認定したカイトは婚約を結んだのである。
「でも、推し活の前にまずは女公爵として頑張らないとね。領地のみんなを守っていかないと」
ということで、領地の経営を始めとして女公爵としての仕事をする。といっても、前世の記憶を思い出したとはいえぶっちゃけ一般人だった彼女に知識チートはほぼ無理である。過去の資料をひっくり返して、両親の過去の教えを元に地道にやっていく。
結果的には、元々豊かな領地であったのが幸いして問題なく経済は回ってくれた。わからないことは素直に親戚に聞いたのも幸いした。
そして得たお金はほぼ「公爵家の維持」のために使う。でも、多少はポケットマネーとして自由に使えるお金にもなる。彼女はそのポケットマネーを何に使うか。
推し活である。
「ということでカイト様!マルスラン伯爵領の一番のグッズはなんですか!?」
「グッズ…?ああ、土産物のことですか?それならば…陶器は有名ですよ。食器類ももちろん良いのですが、特に最近職人達が作り始めた白磁の人形はおすすめです。まだ売り始めたばかりですが、いつか人気が爆発すると見込んでいます」
「買います!」
「えっ」
「買わせてください!」
推しの領地の土産物。彼女にとっては推しの関連グッズである。是が非でも欲しい。
「では、僕の方から贈りましょう」
「いえ、買いたいんです!」
「…ええ?」
彼女がしたいのは推し活である。ファンサは有り難いが、まずは貢ぎたい!というのが彼女の正直な気持ち。そんなことは知らないカイトは、彼女が何をしたいのかわからないなりに彼女の希望を叶える。
「では、一番の職人を紹介しましょう。それくらいはさせてください」
「もちろんです!」
そして、彼女は馬鹿高い金額を払って白磁の人形を複数購入した。一つはだだっ広い自分の部屋に飾り、一つは大切に保存して、残る複数個は以前から親しくしていた貴族令嬢のお友達に土産として配った。代わりに土産を渡したお茶会の席でカイト…いや、KAITOの魅力を語り尽くしてドン引きされたが。それでもお友達でいてくれる辺り、本当にヴィクトリアは周りの人間に恵まれていた。
なおそのお茶会のせいでヴィクトリアは一途に婚約者を愛していると有名になり、話を聞いたカイトの頬は真っ赤に染まったらしい。
「カイト様はあの子にあんなに愛されて幸せですわね!」
「ええ。ちょっと照れますけどね」
「うふふ、お二人とも初々しくて素敵!」
そんなことなど一切知らないヴィクトリアは、推し関連グッズをまず一つゲットしてご満悦である。そして次にお小遣いが入ったら何をしようと考えて、チェキを撮ろうと決めた。しかしインスタントカメラなどない世界。時間はかかるが画家にお願いするしかない。画家も腕の良い画家を頼まねば。俄然女公爵として働くやる気が出た。
「仕事を頑張るぞー!」
「頑張りすぎないでくださいね、お嬢様」
「もうお嬢様じゃないもん」
「はいはい、ご主人様」
「まだ子供扱いするー」
そんなこんなで女公爵としての仕事をこなし、またポケットマネーが潤った頃にヴィクトリアはカイトに土下座…はさすがにしないが、そのくらいの勢いでツーショットの絵が欲しいと頼み込んだ。その頃にはヴィクトリアのカイトへの愛はもはや有名で、よくからかわれるカイトはヴィクトリアの気持ちを尊重して快諾する。そして二人のツーショットの絵が腕の良いと評判の画家に描かれた。
「今世初めてのチェキ…嬉しい!」
絵を抱きしめんばかりに喜ぶヴィクトリアを見て、カイトはどれだけ愛されているか自覚した。これは間違えても浮気はできない。カイトはヴィクトリアに常に優しく誠実であることを心に誓った。こんなに愛されて、嬉しくないわけがないのだ。
「ヴィクトリア様…ありがとうございます」
「そんな、こちらこそツーショットなんてわがままを叶えてくださってありがとうございます!」
「謙虚な方ですね、貴女は。そんな貴女に応えられるように、僕も頑張らないと」
「?」
そして婚約から半年が経った頃には、ヴィクトリアはKAITOに似ているからカイトが好きなのではなく、優しく誠実なカイト本人を推すようになった。恋や愛とはきっと違うかも知れない。でも、ヴィクトリアにとってはなによりも特別な気持ち。カイトも、この頃にはそんなヴィクトリアを愛するようになっていた。
「カイト様ー!カイト様のお気に入りのレストランでカイト様のお気に入りの料理を食べられるなんて幸せですー!」
「本当に貴女は僕関連のことになると大喜びしますね」
「だって、カイト様は私の推しですから!」
「ふふ、そうですか。推しとは好きという意味であっていますよね?」
「はい!」
「素直な方だ。おいで」
「カイト様ー!」
そんなこんなで相変わらず一生懸命に働いてはカイトのために自由に使える分のお金を注ぎ込むヴィクトリア。こうしてカイトからハグされるだけで天にも昇る心地である。
「幸せ…溶けちゃいそう…」
「今からそんなになっていて、結婚式はどうするんですか?」
「カイト様との結婚式…!」
「ヴィー。そんなキラキラした目で見られると結婚式を前倒ししたくなるのでやめてください」
「たしかに前倒しはダメですね!カイト様の輝く一世一代の大舞台、念入りに準備しなくては!」
「普通は花嫁が主役だと思いますがねぇ…」
気付けばこの二人は社交界のおしどり夫婦となり子宝にも恵まれるのだが、それはもう少し先のお話である。




