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98 恋人同士

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「やって……しまった……」


次の日の朝、隣で眠るシュリの綺麗な寝顔を見ながら、優里は自己嫌悪に陥っていた。


(また、無理矢理襲い掛かってしまったーーーーーー!!)


頭を抱え悶える優里の隣で、シュリはすやすやと寝息を立てていた。


(ガマンできなかった……シュリさんのあの笑顔の破壊力はハンパない……。可愛くて愛しくて、自分の体をシュリさんの生気で満たしたくなって……)


『お前を愛してる、ユーリ』


優里は、昨日シュリに告白された事を思い出し、再びドキドキと胸が高鳴った。


(シュリさんが……私の事好きになってくれた……。どうしよう、すごい嬉しい……!)


無防備なシュリの寝顔を見て、思わず抱きつきたくなったが、優里は昂る気持ちを落ち着ける為に深呼吸した。


(ダメダメ! これ以上罪を重ねちゃダメだ!)


優里が深呼吸を繰り返していると、部屋の扉がノックされた。


「あっ、はい!」


扉を開けると、そこには、神妙な面持ちをしたルーファスにミーシャ、リヒトとハヤセが立っていた。


「おはよう、優里ちゃん……」


「おはよう……? 皆どうしたの? 何かあったの?」


真剣な表情をしたハヤセの挨拶に、優里は首を傾げた。


「ユーリ……どうして本来の姿になってるのかな……?」


「え!?」


ルーファスの質問に、優里はドキリとして目を泳がせた。


「いや、あの、これは……」


「……やったんだな、ユーリ」


「え!?」


耳をピクリとさせたミーシャが、優里を問い詰めた。


(バレてる……!)


優里は、サキュバス本来の姿で生気を奪ってしまった事が既にバレていると思い、尻尾を握りしめながら気まずそうに言った。


「いや、えっと……はい……やってしまいました……」


優里の答えに、リヒトは額に手を当てた。


「なんてことだ……完全に油断していました」


「僕もだよ、リヒト……。サキュバスという種族を、キチンと理解していなかったみたいだ」


「オレも安心しきってたぜ……。シュリが手を出すはずがないって思ってたけど、まさかユーリの方からなんて……」


「え? 手?」


「ユーリ……これからどうするつもりなんだい? シュリとやってしまったなら、キミはもう純潔じゃない。シュリは今後吐き気に襲われて、キミのそばにはいられないんじゃないかい?」


「え? やってしまったって……」


そこで優里は、皆に誤解されている事に気が付き、顔が熱くなるのを感じた。


「や、やってしまったって、そういう意味じゃないです!! なんでそうなるんですか!?」


真っ赤な顔で弁解する優里を見て、ルーファスたちは顔を見合わせた。


「だってアスタロトが、昨晩キミたちの部屋に言ったら、ユーリがサキュバスの姿になってシュリを押し倒し、朦朧としているシュリに馬乗りになって凌辱(りょうじょく)しようとしていたのを目撃したと……」


(ア、アスタロトーーーー!!)


「シュリの制止も聞かずに押さえつけて、『欲しいんでしょ?』と無理矢理服を脱がせていたとも言ってたぞ」


ミーシャの言葉に、優里は声を大にして叫んだ。


「そっ、それはウソだよ!!」


「それ()? じゃあ、凌辱(りょうじょく)しようとしていたのは本当なんですか?」


「いやいや! わ、私は本来の姿で生気を吸っちゃっただけで……! てゆうかリョウジョクって何!?」


リヒトの突っ込みに、優里は涙目になりながら必死に弁解するのであった。




「……つまり、シュリと気持ちが通じ合った事で気持ちが昂り、魔力が暴走して本来の姿に戻って生気を奪ってしまったと……その為シュリはあと2日は目覚めないと、そういう事なんだね?」


「ハイ……そういう事です……」


シュリが眠っている隣で、アダムがいい香りがする紅茶を淹れてくれる中、ソファーに座り、優里は昨晩の出来事を皆に話していた。皆は優里が()()処女のままだという事には安堵したが、ショックを受けた事には変わりなかった。


「優里ちゃんとシュリは、晴れて恋人同士になったって事か……」


ハヤセが呟いた言葉に、優里は熱くなった頬を両手で押さえ、顔がにやけるのを耐えようとした。


「そ、そういうことに……なるのかな?」


「なんだよ……くそっ」


「若干イラっとしました」


ミーシャはふてくされた様にそっぽを向き、リヒトはチッと舌打ちをした。


「まぁまぁふたりとも、ユーリがシュリを選んだって事は、動かしようのない事実だよ。ボクたちはユーリの幸せを祝福してあげなくちゃ」


「ルーファスさん……」


「でも……いいのかい、ユーリ……。キミは何も知らないかもしれないけど……シュリは……()()()だよ?」


「え? 馬並み!?」


(何が!?)


「処女のキミには荷が重い気がするんだ……。まずは、ボクで体を慣れさせる必要があるんじゃないかな……?」


色っぽく囁きながら優里に迫るルーファスの首根っこを、ハヤセが掴み引き離した。


「優里ちゃん、初めての女性が痛みを感じるのは、大きさが問題という訳じゃないんだ。医学的に説明すると、まず性的興奮によりオキシトシンというアミノ酸からなるペプチドホルモンが分泌されて……」


「いやいや、何の話!?」


「なぁんか、盛り上がってるみたいだねぇ~」


そこへ、アスタロトがベルナエルと共に顔を出した。


「アスタロト! 誰のせいでこんな風になってると思ってるの!?」


「ところで、ハヤセにお客さんだよ」


優里が目を吊り上げたが、アスタロトは軽々とスルーした。


「お客さん?」


ハヤセが部屋の扉の方に目を向けると、そこにはバルダーの姿があった。


「何やら揉めていた様に見えたが、大丈夫か?」


「バルダー! もう着いてたんだ? 早いね」


ハヤセは席を立ち、バルダーの方へ歩み寄った。


「ああ、今朝早くに城を出た。玄関でアスタロトに会って、ここまで案内して貰ったんだ」


「優一郎君、バルダーと何か約束してたの?」


優里が問いかけると、ハヤセはコクリと頷いた。


「うん、リヒトの件が解決したから、すぐに鉱山の街に行ける事を伝える為に、昨日のうちにお城に早馬を走らせてたんだ」


「西の国の王とも、明日謁見する約束を取り付けた。深淵の番人の仲間を連れて、そのまま西の国に行こうと思う。そこで、王と具体的な新事業の話をするつもりだ」


「そうなんだ! じゃあ私も、浄化の準備しとかないとね!」


(仕事が早い! さすが優一郎君とバルダーだな)


優里も改めて気合を入れた。すると、ベルナエルがバルダーの前へ出た。


「あ、あのっ!」


バルダーはベルナエルに目をやると、静かに話しかけた。


「お前はベルナエルといったな。どうした?」


どうやらベルナエルは、既に自己紹介を済ませていた様だった。


「あの……ボクも浄化が使えるんです。ユーリさんと一緒に、西の国の土地の浄化に、ボクも協力させて貰えませんか?」


「何? 浄化が……」


バルダーは驚いたようにベルナエルを見た。


「あの、ボク……昨日西の国で、粉塵で苦しんでいる子供を見たんです。それで……ボクも何か役に立ちたいって思って……」


「ベルナエル……」


優里は、真剣な表情のベルナエルを見つめた。


(きっとリオ君の事を見て、心を痛めたんだな……)


優しくて思いやりのあるベルナエルの気持ちを汲み取り、優里もバルダーにお願いした。


「バルダー、ベルナエルは悪魔だけど、浄化のスキルが使えるの。私と一緒だよ」


「そうか……お前と一緒で、この娘の心も美しいという事なのだな。わかった。ベルナエル、是非協力して欲しい」


「は、はい……!」


ベルナエルはエメラルドの様な瞳をキラキラさせ、優里に向き合った。


「ユーリさん、後押ししてくれてありがとう」


「私も、ベルナエルがいてくれたら心強いよ! 一緒に頑張ろうね!」


「うん……!」


優里とベルナエルは、お互いに微笑み合い、西の国の新事業に向けて決意を新たにした。


「ところでシュリはどうしたんだ? ずっと横になっているようだが……」


バルダーがベッドに横たわっているシュリに目を向けると、アスタロトが親指で首を切る動作をしながら答えた。


「昨晩……ユーリがシュリをやっちゃったんだよ」


「何!? ()った!? どういう事なんだユーリ!?」


「アスタロト! 話をややこしくしないで!!」


アスタロトのいたずらに、優里はまたも弁解を余儀なくされた。


その後、ベルナエルがシュリに浄化のスキルを発動したが、毒は浄化されず、シュリも眠ったままだった。通常、毒はスキルや解毒薬で浄化されるらしいが、本来の姿になった優里の毒はそれも効かぬ程強力で、元々毒が効きにくく、体内に浄化機能が備わっているユニコーンのシュリが特別なのだろうと、ハヤセが結論付けた。


(てことは、この姿でシュリさん以外の人に毒スキルが発動したら、オワリって事だな……)


優里は、改めて自分の毒スキルが厄介だと感じ、うなだれた。



「リヒトくん」


皆がその場からわらわらと解散する中、優里はリヒトに声をかけた。


「リオ君の事……私は最後まで関われなかったけど、よかったね」


「はい……。リオの体から召喚者の(しるし)は消え、代わりに父親に刻まれました。ブラウンさんは、俺に好きにしていいという“願い”をしたので……リオの様子を見ながら、先生の助手を続ける事にしたんです」


リヒトはそう言うと、改めて優里に礼を言った。


「リオの気持ちを救えたのは、ユーリさんのおかげです。本当にありがとうございました」


深く頭を下げたリヒトに、優里は首を振った。


「リヒトくんの優しい気持ちが、リオ君を救ったんだよ」


優里の言葉にリヒトは穏やかに微笑んで、そしてキョロキョロと周りを見回した。皆部屋から出て行ったらしく、そこには眠っているシュリと、優里とリヒトしか残っていなかった。それを確認したリヒトは、優里に問いかけた。


「ユーリさん、あれから色が変わった星が増えたりしていませんか? 新しいスキルを取得出来るようだったら、俺もその場にいさせてもらいたいのですが……。神様に確認したい事があって」


「あ、うん! 待ってね、今地図を見てみるよ!」


(そういえば、最近全然地図見てなかった!)


優里はそう言って、ポーチから地図を取り出した。


「増えてる……!」


「本当ですか!?」


地図上では、目の前のリヒトの星と、廊下を歩いている、おそらくミーシャだと思われる星と、あと常にぴったりと寄り添っているふたつの星の色が変わっていた。


(リヒト君とミーシャ君の星はわかるけど、あとふたつの星は誰だろう? 場所からして、お屋敷の……裏庭?)


位置を確認し、優里は窓から裏庭を見下ろした。すると、裏庭の噴水のそばに、アスタロトとベルナエルがふたりで座って話をしているのが見えた。


(あのふたり……寄り添ってるこのふたつの星は、アスタロトとベルナエルだったんだ!)


優里はこまめに地図を確認していなかったので、ふたりに星マークが付いていた事に気が付かなかった。


(あのふたりも・・私にしか救えなかった……そして、いつの間にか助けてあげられてたんだな)


優里はフッと息をついて、リヒトに向き合った。


「星は4つもあるよ! 新しいスキル、取得しよう!」


優里は地図を手に、神様を呼んだ。



月・水・金曜日に更新予定です。

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