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88 交渉

88


「友達を……殺すって……」


ごくりと喉を鳴らし、後ずさりした優里をシュリが支えた。


「アスタロト、お前に友がいたのか? それにユーリに人は殺させない」


(シュリさん、今サラッと酷い事言った……)


「あんたってホント失礼だよね。トモダチくらいいるさ。あんたと違ってね」


「それに、お前ほどの能力(ちから)があれば、その友とやらを殺すのは簡単だろう? なぜユーリに頼む?」


シュリはアスタロトの言葉を流し、淡々と疑問を投げかけた。


「ああ……“殺す”という言い方は適切じゃなかったね。正確には……ぼくのトモダチから、悪魔を追い出して欲しいんだよ。ユーリの浄化の能力(ちから)でね」


「追い出す? そいつは悪魔に取り憑かれているのか?」


「……さっきから質問が多いね。ぼくはユーリと交渉してるんだ。ここから先は、ユーリが首を縦に振れば話す。どうする? ユーリ」


アスタロトはそう言って、優里の顔を覗き込んだ。優里が周りに目を向けると、リオの父親が懇願するかの様な瞳で自分を見つめていた。


(私も……リオ君が苦しんで死ぬ事は望んでない。だけど……)


優里はアスタロトを見ると、しっかりと強い口調で言った。


「私は魔力の制御ができないから、クロエの協力が不可欠になる。だけど、あなたはクロエに酷い事をした。クロエはきっと怒ってるから、あなたに協力しないと思う。あなたがクロエにちゃんと謝るなら、私が彼女を説得する」


優里の言葉を聞いて、アスタロトは口の端を上げた。


「ユーリ、あんたって、ぼくが思ってたよりも交渉上手だね。わかった、クロエに謝る。だから彼女を説得して」


「……あと半日はクロエを召喚出来ない。明日彼女を召喚するから、そしたらちゃんと謝罪して、クロエにも詳しい説明をして」


「いいよ。じゃあまた明日」


アスタロトはそう言うと、ひらひらと手を振って秘密基地から出て行った。


張り詰めていた緊張が解けた事に、優里はふうと息をついた。次の瞬間クラリと目眩がして、横にいたシュリにぶつかった。


「ユーリ!」


シュリが慌てて支え、優里もシュリにもたれながら額を押さえた。


「す、すみません、なんかクラクラして……」


「無理もない。過去の夢を見せた後、お前はいつも眠ったままだとルーファスから聞いている。今回はアスタロトが無理矢理魔力を遮断し、いつも以上に体に負担がかかったはずだ。その上、悪魔との交渉だ……相当緊張したのだろう。少し休んだ方がいい」


そう言ってシュリは優里を横抱きにした。


(や、休むって……お姫様抱っこで!?)


「あ、あの! 私、大丈夫です! さすがにこれじゃシュリさんも大変だし……」


「わたしの事は気にするな」


(いやいや、周りの視線が気になるんですけどー!)


赤くなっている優里に、ハヤセとリヒトの視線が注がれていた。


「じゃあ僕たちは一旦北の国に戻ろうか!? 優里ちゃんも、シュリの腕の中よりもベッドの方がゆっくり休めるだろうしね! 貧血だとしたら足を少し高くして、ちゃんとベッドに横になった方がいい! シュリの腕の中よりもね!」


「そうですね、むしろ俺が瞬間移動でミーシャの屋敷まで戻りましょう。地上ではひとりしか運べないので、俺がユーリさんを抱いて連れて行きましょう」


「いやいや、来る時に使った僕の転移魔法陣までそんなに遠くないし、そこまで戻ってみんなで移動しよう。今の君は何だか危険だしね」


「危険とはどういう意味ですか、先生? 俺はユーリさんとふたりきりになりたいだけです」


「言ったね! ふたりきりになりたいってハッキリ言ったね!!」


「リヒト、わたしはお前にユーリを預けるつもりはない。わたしの腕の中が一番安全だ。そうだろう、ユーリ?」


「え、えーっと……」


「何なら、オレの家で休んでいくか?」


見かねたリオの父親が、シュリたちに向かって提案したが、男3人は声を揃えて父親に言った。


「断る!」


結局優里たちは、ハヤセの転移魔法陣を使い、皆でミーシャの屋敷まで戻る事になった。




優里たちがミーシャの屋敷に戻ると、何故か使用人たちがバタバタと慌ただしくしていた。


「なんか騒がしいですね」


優里がそう言った瞬間、ルーファスが慌てて優里たちの方にやって来た。


「ユーリ! 戻ったのかい!? 今はまずい! 隠れて!」


「え? 隠れる?」


ルーファスの言葉に優里が首を傾けたのと、聞き知った声が聞こえてきたのはほぼ同時だった。


「ユーーーーーーリ!! 戻ったのか! 迎えに来たぞ!!」


「え!? ア、アイリック様!?」


そこには、意気揚々としたアイリックの姿があった。


「しばらく動けなかったが、やっとこうして迎えに来る事ができた。さぁ、私と共に城に戻ろう! ……って、何故貴様がユーリを抱いている!?」


アイリックは優里を横抱きにしているシュリに気が付くと、声を荒げた。


「ユーリは先程まで、リヒトとアスタロトに夢を見せていた。アスタロトはひとりで先に行ってしまい、ここにはいないが……」


「な!? 悪魔ふたりに夢を!? そしてアスタロトが先にイッた!?」


「ふらついたユーリをわたしがその場で抱こうとしたが、ハヤセがベッドの方がいいと言うから、これからわたしはユーリをベッドへ連れて行く」


「貴様らは、意識が朦朧としているユーリをその場で手籠めにしようとしたのか!? しかもふたりで!? クズではないか!! そんな事私が許さんぞ!!」


「アイリック様!! なんか激しく誤解してます!!」


優里は真っ赤になって反論した。


「そうですアイリック様。シュリは絶対ユーリには手を出さないので、安心して下さい」


わなわなと震えているアイリックに、ミーシャが声をかけた。


「手を出さない!? そんな事、信じられるか! こやつは今ハッキリと、ベッドに連れて行くと言ったぞ!!」


疑いの目を向けるアイリックに、シュリは大きくため息をついた。


「何を誤解しているのかわからんが、わたしはユニコーンだ、アイリック。故に同族以外では処女しか受け付けない。だからがなり立てるな」


「シュリさん、ユニコーンだって事……内緒にしとかなくて大丈夫ですか?」


優里が小さな声で問いかけると、シュリは眉間にしわを寄せた。


「この実直な男からは、悪意の様なものは感じられない。それよりも、何度も喧嘩を売られてはそれこそ迷惑だ」


「ぐっ……! 貴様が紛らわしい言い方をするのも悪いだろう!」


(うん、それに関しては同意します)


アイリックは苦笑いをする優里の前に行くと、洗練された所作でその手を取った。


「ユーリ、私は貴様に一目惚れをしたのだ。どうか私の妻となってはくれないか?」


「え!?」


驚いた優里だったが、アイリックを見つめると静かに口を開いた。


「アイリック様……申し訳ありません。私……今はその……結婚とかはまだ考えてなくて……」


優里はそう言って、頬を赤らめながらチラリとシュリに目をやった。アイリックとミーシャはその目線に気付きシュリを見たが、シュリは優里の視線には気付かず、何かを考え込む様に黙っていた。


(シュリのヤツ……ユーリの気持ちに気付いてないのか?)


ミーシャとアイリックは同時にそう思い、赤い顔で俯く優里を見つめた。アイリックはひとつ息をついて、そっと優里の手を離した。


「私は、貴様の気持ちを尊重する。この男に前に言われた事を気にしているようで(しゃく)だが、私が大事にしたいのは自分の誇りではない、貴様だ、ユーリ。だが私は、だからといって貴様を諦めたりはせんぞ。私の方がいい男だと証明して見せる! それまで首を洗って待っておけユニコーン!!」


「何故わたしにそんな事を言う? あと、大声でわたしをユニコーンと呼ぶな」


「それは悪かったな! ユニコーン!」


ふたりのやり取りを見ていたミーシャは、優里の耳に唇を寄せ、そっと囁いた。


「ユーリ、オレも諦めねぇからな。でも、まぁ、もう騙してキスする様な事はしねーから安心しな」


(シュリがこの調子じゃ、オレの付け入る隙なんていくらでもありそうだ)


ミーシャの言葉に優里が少し頬を赤らめた時、バルダーが優里たちの前に現れた。


「西の国に行ったと聞いていたが、戻って来たのかユーリ」


「バルダーも来てたの?」


優里が声をかけると、バルダーは頭を下げた。


「ユーリ、シュリに皆も、城では最後に色々と迷惑をかけた。反省している」


「ううん、大丈夫だよ。バルダーたちの方がむしろ大変だったような……。ところで、どうしてここに?」


優里が尋ねると、バルダーが答えるよりも先に、アイリックが口を開いた。


「バルダーの仲間の、“深淵の番人”とかいう奴らを、城に呼ぶためだ」


「え! デクさんたちをお城に!?」


「俺が、自分の仲間達の所に戻らなければならない事を兄上に話したら、兄上が王宮で面倒を見ると言って下さったのだ」


バルダーがそう言うと、アイリックはバルダーの肩に手を置いた。


「大事な弟の仲間だ。私には面倒を見る義務がある。衛兵のみならず、財務官や料理人など、城の管理には人手はいくらあってもいい。北の国では、今やバルダーは国を救った英雄だ。この国を再び出るなど、民が望まない。ならば、バルダーの仲間を王宮に呼んで、共に働く事が出来れば何の問題もなかろう」


「第二のハラルドみたいなヤツが約1名いるけどな……」


「ミハイル、スライはああ見えて優秀で真面目なやつだ。それに、道を外れないよう、俺がそばで見守る」


「バルダー様がそうおっしゃるなら……」


心配そうなミーシャにバルダーは力強く頷き、ハヤセの方を向いた。


「それで、ハヤセの転移魔法で送ってもらえないかと、お願いしに来たんだ」


「そういう事だったんだね。勿論いいけど、今ちょっと色々立て込んでて……」


「そういえば、なぜ西の国に?」


ハヤセはリヒトの了承を得て、バルダーたちにも大まかな事情を説明する事にした。




月・水・金曜日に更新予定です。

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