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87 悪魔の微笑み

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「……リオに、会う事はできるか?」


「それは……」


父親の問いに、優里はリヒトの顔を見た。


(ユーリさんは、自分が父親の心を浄化した事に気付いてないのか)


父親の心は、優里の浄化によって優しさを取り戻していたが、優里はその事には気付かず、リヒトの判断を確認しようとした。


「リオは、お前の記憶が戻るのをずっと待ってた」


リヒトは父親にそう言って、優里に対して小さく頷いた。

そして優里たちは、父親を連れてリオのいる秘密基地へと向かった。アスタロトは優里の浄化のスキルに呆然としていたが、そのままフラフラと皆の後について行った。




秘密基地にたどり着きリヒトがドアを開けると、ベッドに横たわったまま懐中時計を眺めていたリオが目を向けた。


「あれ……リヒト先生、どうしたの? 忘れ物?」


「忘れ物……いや、忘れていたものを、取り戻したんだ」


リヒトはそう言って道をあけた。するとその後ろから父親の姿が現れ、リオは思わずベッドから起き上がった。


「父さん……!」


「リオ……」


父親は痩せこけて顔色の悪いリオの姿を見て、涙が溢れてきた。そして駆け寄るとリオを強く抱きしめた。


「リオ……! リオ……!」


父親の心には色々な感情が溢れてきて、泣きながら名前を呼ぶ事しか出来なかった。


「父さん……! おれの事……思い出してくれたんだね……!」


リオもギュッと抱きつき、父親の胸に顔を埋めた。その光景を見た優里は、ホッと息をついた。



リオは、今までの時間を埋めるように、父親に色々な事を話した。顔色は悪く時折咳込みながらではあるが、それはとても楽しそうで、笑顔のリオの話を優しい表情で聞いている父親も、幸せそうに見えた。


「それでね、その時おれがこの懐中時計を見つけて……ゴホッゴホッ!」


「リオ!」


リオが激しく咳込んだので、思わずリヒトが駆け寄り背中をさすった。


「無理をするな。今日はこのくらいにして、もう休め」


「だいじょ……ゴホッゴホッ!」


「リオ……!」


父親も心配そうにリオを見つめた。


「だって……ゴホッ……せっかく父さんが……ゴホッゴホッ」


リオは咳込みながら、不安そうに父親を見つめた。父親はリオの手をギュッと握ると、もう片方の手でリオの頭を撫でた。


「オレはずっとリオのそばにいる。話ならいつでも聞いてやるから」


「ホントに……? もうおれの事、忘れたりしない……?」


「忘れるもんか。だから安心して休め」


父親がそう言うと、リオは安心した様にベッドに横になった。ハヤセに調合してもらった薬を呑み、静かな寝息を立て始めると、父親がリヒトに向き合った。


「今でもこんなに苦しい思いをしてるのに……あんたに魂を食われる時にも、苦痛を延々と味わうんだろ?」


「……っ!」


リヒトは思わず息をのんで、目を伏せた。


「なぁ、リオの契約を破棄する事はできないのか!? せめて死ぬ時ぐらい……穏やかに死なせてやりたい」


父親はリヒトの腕を掴んですがったが、リヒトは目を伏せたまま静かに答えた。


「……悪魔との契約は絶対だ。破棄する事は不可能だ」


リヒトはどうしようもない気持ちを押し殺すように、ギュッと拳を握った。


「できるよ」


その時、リヒトたちの様子を静かに見ていたアスタロトが声を上げた。


「契約の解除……できるよ」


「アスタロト様……本当ですか!?」


リヒトは思わずアスタロトに詰め寄った。


「本来、悪魔との契約は天使なら解除できるんだ。けれど、天使は基本ヒトの暮らしには干渉しない。ましてや、悪魔と契約する人間の事など絶対に助けない。だから、悪魔との契約は絶対に解除出来ないと言われてきたんだ。だけど本当は出来るんだよ」


アスタロトはそう言って、優里の顔を覗き込んだ。


「あんたの浄化のスキルがあればね」


「えっ……」


優里はごくりと喉を鳴らして、アスタロトを見た。


(どうしてアスタロトが、私の浄化スキルの事知ってるの?)


アスタロトは、さっきまで切羽詰まった顔をしていたのが嘘の様に、いつもの妖艶な笑みを浮かべた。


「気付いてなかったの? さっきあんた、浄化のスキルを発動したじゃないか」


「え……」


優里がハヤセとリヒトを見ると、ふたりは小さく頷いた。


(嘘っ!? じゃあ……)


チラリとシュリを見上げると、シュリは優里を見つめ静かに口を開いた。


「お前が、浄化のスキルを使えるとは知らなかった」


(シュリさんに知られた……!)


優里は気まずくなって下を向いた。


「あ、あの、最近覚えたんです……。でも、あの、発動したのはきっと偶然です。私はまだ、魔力の制御ができないので……」


「ああ、わかっている。その胸のブローチの力も、上手く働いたのだろう。エレミア石は、不浄を祓う強い力がある石だ」


淡々としたシュリの言葉に、優里の心はズキリと痛んだ。


(シュリさん……私が浄化のスキルを使えるようになったって黙ってた事、怒ってる……? それとも、何も感じていないの……? シュリさん以外の人からも、生気を分けて貰える可能性があるって事……シュリさんなら気付かない訳ない。シュリさんは、どう思ったの……?)


考え込んでいる優里に、リオの父親がすがりついた。


「あんたなら破棄出来るのか!? 頼む!! リオを救ってくれ!!」


「えっ、あっ、あのっ……」


優里はどうしていいかわからず、口ごもった。そこへいつもの調子を取り戻したアスタロトが割って入った。


「ちょっと、話は最後まで聞くもんだよ。確かに契約は解除できる。でも、()()じゃない。()()だ」


「どういう事ですか?」


リヒトが訊き返すと、アスタロトはリヒトを見て口の端を上げた。


「サルガタナスとの契約によって穢れた魂は、浄化でキレイになる。けど、契約によって生じた“穢れ”は、魂から離れただけで、消える訳じゃない。離れた“穢れ”は、新たな魂に定着させないと、結局はまた元の契約者の魂に戻るんだ。何度浄化してもね。つまり……離れた“穢れ”を擦り付ける、“身代わり”が必要なんだよ」


「そんな……!」


優里は胸の前でギュッと拳を握った。


(結局は誰かが契約しないといけないなんて……)


「オレが身代わりになる」


その時、リオの父親が声を上げた。


「オレがリオの代わりに悪魔と契約する。それで問題ないだろ?」


「へぇ……」


アスタロトが、興味深そうに父親を見た。


「待て、軽々しく悪魔と契約するなんて言うな。これはお前に一生つきまとう問題になるぞ」


リヒトがそう言うと、父親は声を荒げた。


「軽々しくこんな事言う訳ないだろ!!」


父親の気迫に、リヒトは少したじろいだ。


「……軽々しくなんかない。オレが……オレが今までリオに与えた痛みの報いを、オレは受けなきゃならないんだ。オレがしてきた事が、これで許されるとは思っちゃいない。ただオレは……もうリオに苦しんで欲しくない。オレが身代わりになる事でリオが安らかに死ねるなら……オレはリオの代わりに悪魔と契約する」


「だってよ、サルガタナス。どうするの? このヒトを(あるじ)とするかどうか……決めるのはあんただよ?」


アスタロトの問いかけに、優里もリヒトの方に顔を向けた。リヒトはしばらく黙って考えていたが、意を決した様にリオの父親を見た。


「わかった。お前を(あるじ)と認める」


リヒトの答えにホッとした様な表情をした父親は、今度は優里に頭を下げた。


「頼む、リオを……リオの魂を救ってくれ」


優里が言葉を発しようとした時、再びアスタロトが割って入った。


「あー、言い忘れてたケド、契約の変更を()()出来るのは、煉獄の長であるぼくだけなんだよねぇ~。ぼくが承認しないと、穢れは結局また元の魂に戻っちゃうんだよ。でもぼくはさぁ、あんたたちに協力する義理もないし、なーんの得もないしなぁ~。どうしようかなぁ~」


「アスタロト! 意地悪しないで!」


優里が思わず強い口調でそう言うと、アスタロトはフッと笑って優里に向き合った。


「意地悪じゃない。交渉さ。契約の変更を承認するかわりに、あんたにぼくの()()()も聞いて貰いたいんだ」


「お願い?」


優里が訊き返すと、アスタロトは目を見開き、今まで見せた事がない様な笑みを浮かべた。その表情に、優里は自分の体が恐怖で震え始めたのがわかった。


「ぼくのトモダチを……殺して欲しいんだよ」


まさに悪魔の微笑み、その表現がピッタリと当てはまる様な笑みを浮かべたアスタロトに、優里だけでなく、その場にいた全員が息をのんだ。




月・水・金曜日に更新予定です。

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