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58 フリーダの正体

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アイリックとバルダーが決闘を始めてから数刻後、城は静けさを取り戻していた。

部屋には窓ガラスやら壊れた壁の瓦礫が散乱し、中庭のバラ園は見るも無残な姿になっていて、その付近には、何故かアイリックとバルダーの石像が立っていた。



数刻前……フリーダはウキウキしながら中庭へ続く廊下を歩いていた。


(今日あたり、あのバラが咲いてるはず……。ラガーサ様に持って行って差し上げましょう)


フリーダは、前王妃ラガーサの墓に、花を供えるのが日課だった。庭師にお願いして、中庭のバラを少し分けてもらい、王宮内にある代々の王族が眠っている墓地に赴き、花を供え手入れをしていた。


だが、そんなフリーダの目に映ったのは、アイリックとバルダーの戦闘によってぐちゃぐちゃになったバラ園の姿であった。


「な……な……」


わなわなと震えているフリーダに気が付き、優里が声をかけた。


「フリーダさん! そこは危ないです! 早くこっちに!」


優里は、シュリが防御壁を張ってくれている自分の方へフリーダを呼んだが、フリーダは物凄い形相で、戦っているアイリックとバルダーを見た。それに気付いたアイリックが、バルダーを止めた。


「バルダー待て! フリーダだ!」


バルダーも殺気を感じ振り向くと、フリーダの髪の毛がざわざわとうごめき出したのを目にし、息をのんだ。


「フリーダ! 落ち着け!」


「わ、私たちも悪ふざけが過ぎた!」


ふたりは必死でフリーダを宥めようとしていたが、遅かった。


「何をしているんですかアイリック様! バルダー様ーーーー!!」


フリーダの髪の毛がみるみるうちに何匹もの蛇に変わり、その姿に()てられたアイリックとバルダーが、たちまち石になった。


(えぇーーーー!? うそっ!?)


優里は驚きのあまり声も出なかったが、シュリは冷静にフリーダを見つめた。


「メデゥーサか。話には聞いた事があるが、凄い能力(ちから)だ」


「メ、メデゥーサ!?」


「あの蛇頭に()てられると、石になるという恐ろしいスキルの持ち主だ。彼女の事はあまり怒らせない方がいいな」


(フリーダさんって、メデゥーサだったんだ! てゆうか、アイリック様とバルダーが……)


フリーダの髪の毛はすぐ元に戻り、優里たちの方に目を向けると、丁寧に頭を下げた。


「お客様の前で、このような失態を晒してしまい……申し訳ございません」


「いっ、いえっ、フリーダさんが謝る事では……」


優里は若干ビクビクしながら答え、石になったふたりを見た。


「あのっ、でも、あのふたりが……」


「ご心配なさらずとも、3日もすれば元に戻ります。しばらくあのまま反省してもらいますので、どうかお気になさらず」


フリーダはにっこりと笑って、優里たちを新しい部屋へ案内するようにと、使用人に指示を出した。


(こ、この笑顔が怖い……)


「さすが、あのふたりの乳母を務めただけがあるねぇ。頼もし~」


アスタロトがふわりと優里の元へ降り立ち、隣にいるシュリに目を向けた。


「あんたがこの旅の責任者?」


「誰だ、お前は」


「ぼくはアスタロト。煉獄の悪魔だよ。あんたたちの旅に同行するコトになったんだ」


アスタロトは無遠慮にじろじろとシュリを見ると、口の端を上げた。


「ユニコーンって、ホント壮絶な人生を送ってきてるよね」


(アスタロト、まさかシュリさんの過去も()()……)


「あんたを守る為にたくさん死んで傷付いて、それでよく彼女といちゃついてられるよねぇ……。人の気持ちがわからないのは、あんた自身がぶっ壊れてるからじゃないの?」


アスタロトの言葉に、シュリは息をのみ動けなくなった。まるで辺りが暗闇に包まれたかのようになり、辛い記憶がシュリを襲った。


「アスタロト!」


その時、優里が声を荒げた。


「そんな事を言うなんて、あなただって人の気持ちがわかってない! 無暗に過去を覗くのも良くないよ!」


アスタロトはあからさまにムッとして、優里を睨みつけた。


「はぁ!? あんたがそれを言うの!? 自分のコト棚に上げて、ぼくに意見しないでくれる!?」


(うっ……! そうだった……)


「だっ、だって私は魔力の制御ができないし……不可抗力だよ!」


「ぼくだって勝手に()()()()()んだからしょーがないでしょ」


「でもなんか、悪意を感じる!」


「悪魔なんだからアタリマエでしょ!」


子供の様な言い合いをする優里たちに、シュリはフッと息をついて間に入った。


「ユーリ、もういい。わたしは大丈夫だ」


「シュリさん……」


優里が見上げると、シュリは優しく笑った。


「わたしの為に怒ってくれて、ありがとう」


シュリの優しい声色に、優里は赤くなって下を向いた。


「いえ、あのっ……お見苦しい所をお見せしました……」


(う~、私ってばムキになって……恥ずかしい)


シュリは俯く優里の小さな頭を優しく撫でて、その場は温かい空気に包まれた。


「は~アホらし! こんな子供っぽいサキュバス見たコトないよ。あんたもサキュバスなら、もっと大人の魅力を身につけた方がいいんじゃないの? あんたといると疲れるよ。しばらくぼくに近寄らないでくれる?」


アスタロトは気だるそうにそう言うと、大きな翼をはためかせてどこかへ飛んで行った。


「なっ……! 近寄って来たのはそっちでしょーーーー!!」


優里は思わず言い返したが、その声はアスタロトには届いていなかった。

そんな優里を見て、シュリは何故か満足そうに笑った。


「お前が男に嫌われるのは珍しいな」


「え!? 私、アスタロトに嫌われてるの!?」


「近寄るなと言われて、好かれているとでも思っているのか?」


「……ですよね……。ていうかシュリさん、なんだか嬉しそうじゃないですか?」


「……そうだな、お前が他の男に言い寄られているのを見るよりかは、気分がいい」


「えぇ~、なんかその言葉、意地悪に聞こえます」


優里にそう言われ、シュリは優しい瞳で優里を見た。


「意地悪ではない。お前の魅力は、わたしだけがわかっていればいいと思っただけだ」


「え……」


「お前は、わたしにとっての“あとらくしょん”だからな」


「え?」


優里は、北の国に降り立った時に、シュリとリヒトの3人で話していた事を思い出した。


(使い方が若干違うけど、私の事、魅力があるって思ってくれてるの? シュリさん……)


優里がドキドキしながらシュリを見つめていると、横からハヤセが顔を出した。


「残念ながら、優里ちゃんの魅力を知ってるのは君だけじゃないよ、シュリ」


「……ハヤセ」


「悪いけど、君たちの甘い空気を壊す権利が僕にはある。僕が北の国まで来た意味を、理解して欲しいな」


「あ……」


優里は、チラリとミーシャを見た。ミーシャはルーファスやリヒトと楽しそうに何か喋っていたが、時折見せる何処かを見据えた様な瞳は、常に母親を心配しているように見えた。


(そうだ、バルダーの事が解決して、シュリさんが目覚めた今、次に考えるのはミーシャ君の事だ)


シュリもミーシャの方へ目を向け、ハヤセに言った。


「ミーシャの家に戻り、解毒薬を作ろう。遅くとも明日の夜までには、ミーシャの母親に夢を見せれる準備をする。ユーリも大丈夫か?」


「はい! クロエも召喚して、準備万端にしておきます!」


優里は強い気持ちを胸に、そう言った。シュリはミーシャたちにその事を伝える為、その場を離れた。


「優里ちゃん」


シュリが離れたのを見計らい、ハヤセが優里に話しかけた。


「シュリたちが解毒薬を作ってる間、君に地図の使()()()を教えるよ」


「あ……!」


優里は、地図の星マークを使ってスキルを取得できるという事を思い出した。


(そうだ! 確か、ルーファスさんの星マークの色が変わってたから、それを使えば私も新しいスキルが取得できるんだ……!)


「うん! お願い、優一郎君!」


優里は高鳴る胸を押さえ、新しいスキルの獲得に期待を膨らませた。



月・水・金曜日に更新予定です。

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