50 アイリックの過去 その6
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私は城に戻り、弟は雪崩に巻き込まれ死んだと報告した。
ハラルドは驚いていたが、ヤツにとっては邪魔者がひとりいなくなった訳だから、嬉しい誤算だっただろう。
その状況下で父が病に倒れ、私とハラルドは、父の代わりに国政を任される事になった。
国政を任されたハラルドは、今こそ城を乗っ取る良い機会なのではないかと目論んでいた。この機に、王族を暗殺し、その罪を亡き弟に擦り付けようとしていたのだ。
ハラルドは、死んだと思っていた弟が実は生きていて、国を追い出された事を恨み、戻って来た弟が私と父を暗殺し、その場に居合わせた自分が処刑したなどと吹聴しようとしていた。
そしてそんな中、弟が本当に戻って来てしまった。どこで情報を得たのか、父が病気だという事を聞きつけ、心配して様子を見に来たのだ。弟を助ける計画を立てていた父も、さぞかし驚いたに違いない。
私は何も変わらない優しい弟を前にして、涙をこらえるのに必死だった。だが弟を助けるこの計画を遂行するには、私は自分勝手な王子を演じ続けなければならない。
私はもう一度弟を逃がすため、弟に陛下暗殺未遂の容疑をかけ、処刑をすると決めた。処刑場所は、あのダヴィードの泉。勿論ハラルドはあの泉の存在を知らなかったが、泉の話を持ちかけ事前に見に行かせると、そこでの処刑に乗り気になった。
だが私は知っていた。あの泉は、有事の際に王族を逃がす為の泉だという事を。
そして弟を処刑すると決めた矢先、たくさんの弟の仲間が城に忍び込み、弟を助けようとしていた。正直驚いたが、彼らも弟と共に逃がさなければならない。
私の弟を、呪いなどという色眼鏡で見ない仲間だ。城に忍び込むという危険を冒してまで、弟を助けに来てくれた。私は本当に嬉しかった。弟は、たくさんの仲間に支えられ、慕われている。
私はどうなろうとも、弟だけは、絶対に死なせたりしない。私は、絶対に弟を守り抜いてみせる。
気が付くと、アイリックは美しい花畑にいた。
(何だ……今の夢は……? 走馬灯というやつか?)
辺りを見回すと、少し小高くなっている場所に、見知った人がいた。
「は……母上!?」
一面の花畑に、今は亡き母の姿。アイリックは全てを察した。
(私は……死んだのか? ハラルドに胸を貫かれて……。致命傷だったのか……)
アイリックは、母がいる丘へゆっくりと歩き出した。しかし、何者かがそんなアイリックの腕を掴んだ。
「兄上!」
アイリックが振り向くと、そこにはバルダーと優里、クロエの姿があった。
「な……!? バルダー! それに、貴様たちは……」
アイリックは片手で顔を覆ったが、ショックを受けたその表情は隠せなかった。
「そんな……! 救えなかったのか!? 私は……! バルダーなぜだ! 貴様なら、あの激流でも皆を誘導し、森の泉へ流れつく事ができたはずだ!」
「違うんです、兄上、これは……」
「ここは、私が見せている夢の世界です」
優里は、バルダーの言葉を遮り、そう言った。
「夢……だと?」
「はい。あなたの過去を夢で見せるという、私のスキルです。あの……勝手に過去を覗いてしまってごめんなさい」
優里は深々と頭を下げた。アイリックはそんな優里を見つめ、暫く考えた後、口を開いた。
「では、今までの事を……貴様たちも視ていたと言う訳か?」
「兄上、俺は……あの日、雪崩に巻き込まれ、森へ逃げ込んだ時からずっと考えていました。呪われている俺が北の国に戻っても、父上や兄上の迷惑になり、民も、俺がいない方が平和に暮らせるんだと自分に言い聞かせていました。まさか、父上や兄上が俺を逃がそうとしていたとは……微塵も思いませんでした」
アイリックは、自分を責めている様なバルダーを見つめ、大きく息を吐いた。
「何もかも……視ていたのか。もう、隠し立てする意味もない……か」
アイリックはそう言って、バルダーを見つめた。
「私の過去を覗いていたのならもう知っているだろうが、ハラルドは王位を狙っていた。ヤツは貴様が死んだと聞かされてから、ある計画を立てた。それは、実は弟は生きていて、自分を“呪われた子”だと蔑んだ北の国を恨み、私と父を暗殺しに戻って来るというものだ。実際手を下すのはヤツだが、それを貴様がやったとして、捕まえて最後は処刑をしたと、北の国全土に嘘の内容を発表する。北の国にとって脅威となり得る“呪われた子”を捕まえて処刑し、国を守ったのは自分だとして、王の冠を手にしようとした。少し無理がある様な計画に思えるが、悪魔の手を借りれば造作もない事だ」
バルダーは息を吞んで、黙ってアイリックを見つめた。
「だが、本当に貴様が戻って来てしまった。ヤツは嘘が真実になると、さぞかし浮足立った事だろう。ハラルドは十中八九、処刑の場で私を暗殺するだろうと思った。その罪を貴様に被せ、処刑を遂行し、自分は英雄になる。ヤツは自分の勝ちを確信したはずだ。だが、私がハラルドに殺される場面は、謀反の決定的な証拠になると思わないか?」
「し、しかし! あの場には俺たちしかいませんでした! 他に目撃者など……それに、ハラルドの立てた計画は、兄上や父上の憶測にすぎないのでは? そんな不確かな事を頼りに行動を起こすのは、あまりにも浅はかだったのでは!?」
「私と父は、ハラルドの内通者から情報を得ていた。私たちの予想通り、ハラルドが実際に暗殺の計画を立てていた事を知っていたのだ」
「内通者!?」
「そうだ。そして暗殺の目撃者は、密かにあの場に隠れ潜んでいた。貴様たちは私に魔力を抑えられていたから、感知する事ができなかっただろうが……」
「その目撃者とは、一体誰なんです!?」
バルダーが様々な疑問をアイリックに問いかけていた頃、地下にあるダヴィードの泉では、ハラルドが高笑いをしていた。
「ハーッハッハッハッ! 見たか! アイリック! バルダー! お前らは本当に目障りな兄弟だった! やっと、やっと殺してやったぞ!!」
「それで~、これからどうするの? ハラルド」
アスタロトがくるくるとハラルドの頭上を飛んだ。
「先ずは王に報告だ。恨みを持って戻って来たバルダーが、逆上してアイリックを殺した為、ワタシがバルダーをやむを得ず処刑したと! 遺体は混乱の中、渦にでも落ちたとでも言っておこう。王は衝撃で死ぬかもしれんな! いや……いっその事、そうするか? 王子たちの死を悲観した王も、後を追う様に死んだ事にするか! 病で寝たきりの王など、赤子の手をひねるも同然だからな! ワタシでも簡単に殺せそうだ!」
ハラルドは髭を触りながら、ほくそ笑んだ。
「北の国の“呪い”を消し去ったワタシを、民は英雄視するだろう! ワタシの様に、頭が良く指揮能力がある男が現れれば、皆ワタシの言いなりだ!」
「自分のコト、過信し過ぎじゃないのぉ?」
アスタロトが呆れたように言うと、ハラルドはあからさまにムッとした。
「そんな事はない! アイリックの陰に隠れてはいたが……ワタシにだって、アイリックと同じくらいの人望と統率力があるのだ!」
「本当にそう思うか? ハラルド」
突然、強く凛とした声が地下に響き、ハラルドはぎょっとした。
恐る恐る振り向くと、そこには、何者も寄せ付けないかのような強いオーラを放つ王の姿と、複数の大臣や衛兵たちの姿があった。
「へっ、陛下!? な、なぜここに!?」
「本当に、自分には人望があると思うのか、ハラルド! わたしの息子に剣を向けたお前が!」
王の言葉に、衛兵たちがハラルドを取り囲んだ。
ハラルドは訳が分からないといった顔をして、その場に固まってしまった。
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