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38 仲間

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優里たちは部屋に戻り、ハヤセやリヒト、クロエも交え事のあらましを聞いた。クロエは、バルダーが実は北の国の王子だったという事を知って、少し驚いていた。


ヴィクトルの話では、療養中の国王陛下の部屋にバルダーが現れ、アイリック王子とハラルド大臣のふたりと鉢合わせになったとの事だった。


「バルダー様は、死んだと思わせ実は陛下の命を狙っていたと疑われて、そのまま地下牢に連れていかれたらしいんだ……」


「そんな……! バルダーはお父さんの事すごく心配してたのに、命を狙うなんて……!」


ミーシャの話に、優里が異を唱えた。


「オレだって、バルダー様がそんな事をするはずないと思ってる! 今回北の国に来たのだって、オレが進言したからで、バルダー様は元々国に帰るつもりはなかった! でもアイリック様が、バルダー様が陛下を暗殺しに戻って来たに違いないって決め付けて……」


「ちょっと待って、何かおかしくないかい? バルダーは第二王子だ。たとえ国王が死んでも、次に王になるのは第一王子のアイリックだろう? バルダーには、なんの得もない。王を暗殺する意味がないよ」


話を聞いていたルーファスが、口を挟んだ。


「アイリック様は、陛下を亡き者にした後、自分にも手をかけるつもりだったに違いないって主張なさってるらしいんだ……」


「無茶苦茶な話ですわね。疑心暗鬼も甚だしいですわ」


クロエは眉間にしわを寄せた。


「アイリック様は、ハラルド大臣と王政に関わるようになってからは、人が変わってしまったかのように強引になって……でも、きっと何か誤解が生じてるだけだと思うんだ! 話をすれば……わかってもらえるはずなんだ……」


ミーシャはそう言って俯いた。


「国王は病気なんでしょ? 伝説の薬師(ぼく)が国王を診るという条件で、バルダーを釈放してもらう事はできないかな?」


ハヤセの提案に、ミーシャは首を振った。


「誇り高いアイリック様に、その様な条件は逆効果でしょう。アイリック様やハラルド大臣の逆鱗に触れて、下手をすればその場で斬り殺されてしまうかもしれません」


「王宮には、コンプライアンス体制が確立されていないのか?」


「こん……? え?」


リヒトの一言に、ミーシャは首を傾げた。ハヤセはそんなリヒトをドンと肘でこずいて、余計な発言はするなといった顔をした。


「バルダーには変身能力がある。スキルを駆使すれば、簡単に脱獄できるはずだよ。でもそれをしないという事は、魔力を制御されているか、ミーシャの様に、話せばわかると思ってわざと捕まっているかのどちらかだ。とにかく今は、ヴィクトルさんの帰りを待つしかない」


ルーファスの言葉に、ミーシャは一度目を瞑り、大きく息を吸って気持ちを落ち着かせた。


「そうだな……きっと父上が、大臣たちを説得して下さる。ルーファス、さっきは取り乱して悪かった」


「大丈夫かい?」


「ああ。オレは……父上がいない間は、このヴォルコフ家を守る。父上に任されたから……。オレは、父上と母上の役に立つ為にここにいるんだ……」


ミーシャはそう言って部屋を出て行った。


(役に立つ為……? そういえばミーシャ君は、最初に会った時もそんな言い方をしてたような……。一体どういう意味だろう?)


優里は、ミーシャの言い回しに妙な違和感を感じたが、色々な事が起こり過ぎた為か、深く追求する事は出来なかった。



結局優里たちは、その日は各々何もせず過ごした。ただミーシャだけは、母親を気遣ったり、使用人に指示を出して屋敷の中でせわしなくしていた。


日が暮れてもまだヴィクトルは帰って来ず、夕飯を終えた優里は、ミーシャとクロエと共に未だ眠ったままのシュリの部屋で、長椅子に座りヴィクトルの帰りを待っていた。


会話は殆どなく、空気は張り詰めていた。

そこへルーファスがやって来て、少し遠慮がちに優里に言った。


「ユーリ、キミ、そろそろ生気を吸わないと……」


「ルーファスさん、ありがとうございます。でも…今日は不思議と、飢餓感がないんです」


「ホントに? 無理してない?」


「はい」


それは本当の事だった。いつもなら体がふらつき、手足が震え、嫌な汗がドッと出てくるあの感覚が、今日はまだ訪れていなかった。


「これも、シュリが目覚めてない事と関係してるのかな……? でもまぁ、キミのそばにいるよ。急にスキルが発動したら、ミーシャとクロエが危ない」


ルーファスはそう言って、優里とミーシャの間に無理矢理割り込んだ。


「うわっ! おいルーファス! テメェ!」


子供姿になっていたミーシャは、弾き飛ばされて椅子から落ちそうになったが、すぐにルーファスがミーシャを抱きかかえ、自分の膝の上に乗せた。


「こうすれば文句ないだろう? あー、可愛いなぁミーシャ君は」


ルーファスはミーシャをギュッと抱きしめ、綺麗な銀髪に顔を埋めた。


「やっ、やめろ! さっきやっと母上から解放されたのに、今度はお前かよ!?」


「この獣臭がたまらない……」


「獣臭とか言うな!! なんか臭ぇみたいだろ!!」


暴れるミーシャを抱きしめ、ルーファスはずっと頬をすり寄せていた。


「こんなやかましい中、シュリもよく寝てられますわね……」


クロエの言葉に優里は苦笑いをしたが、先程まで沈んでいた空気が和らいだ気がして、ホッとした。


(さすが、ルーファスさんはすごいな……)


今日一日、優里は、ミーシャがずっと気を張っていたのに気付いてはいたが、どう気分転換させればいいのかがわからなかった。


(きっとルーファスさんも、ミーシャ君の事心配して空気を和ませてくれたんだよね)


優里がチラリと隣を見ると、ルーファスは愉悦に浸った表情でミーシャの頭に顔を埋めていた。


(……たぶん)


見てはいけないものを見てしまったと思い、優里は目を逸らした。


その時、ミーシャの耳がピクリと動いた。


「父上だ!」


ミーシャはルーファスの顔面に頭突きを食らわせ、緩んだ腕から抜け出ると、部屋を出て玄関に向かった。

優里たちも顔を見合わせ、ミーシャを追いかけた。


「父上!」


ヴィクトルは、丁度玄関で上着をアダムに渡している所だった。


「ミーシャ」


「説得はできたのですか!? 王子と謁見は……」


ヴィクトルの表情は暗く、何も進展がなかった事を物語っていた。それどころか、何か良くない知らせを抱えているような、思い詰めた表情をしていた。


「……ミーシャ、落ち着いて聞くんだ。アイリック様は……バルダー様を、処刑なさるおつもりだ」


「え……」


(処刑!?)


「そん…な……何で……」


ミーシャはフラフラとよろめいて、近くにいたルーファスにぶつかった。


「国王陛下暗殺未遂の容疑は勿論、王政が上手くいかないのも、バルダー様の“呪い”のせいだと……」


ヴィクトルの話を最後まで聞かずに、ミーシャは家を飛び出した。


「ミーシャ!!」


「ミーシャ君!!」


そこへ、騒ぎを聞きつけたハヤセとリヒトがやってきた。


「優一郎君! シュリさんの事お願い!」


優里はそう叫ぶと、ミーシャの後を追いかけた。


「え!? 優里ちゃん!?」


すぐにクロエとルーファスも優里の後に続き、走り出した。


「リヒト!」


ハヤセはリヒトの名を呼び、リヒトは頷いてから一瞬で姿を消した。


「ミーシャ……馬鹿な事をするな……!」


ヴィクトルはそう呟き、ミーシャを追いかけようとした。

しかしその時、屋敷の階段からミーシャの母、レイラが降りてきた。


「あなた、帰ったの? 今、キーラの声が聞こえたのだけど……」


「レイラ! ……何でもないよ。実はキーラの検査が急に決まって……ミーシャに、付き添いを頼んだんだ」


「検査!? こんな夜遅くに!? それに、ミーシャは夕方くらいに、また大学の研究室に行くと言っていたのに……」


「私は王都にいたから、急遽アダムがミーシャに連絡してくれたのだよ」


何とか誤魔化そうとしているヴィクトルを見て、ハヤセがレイラに向き合った。


「申し訳ありません、僕がお願いしたんです。その検査の結果を見て、今後の治療方針を決めたくて……。ミーシャが付いているので大丈夫ですよ。息子さんを信じてあげて下さい」


ハヤセはそう言って、チラリとヴィクトルを見た。ヴィクトルは、最後のセリフは自分に言ったものだと察し、目を伏せ、レイラの肩を優しく抱いた。


「さぁ、ここは冷える。部屋に行こう」


ヴィクトルはレイラにそう言うと、ハヤセに向かって軽く頭を下げ、屋敷の階段を上って行った。


「さて……優里ちゃんにお願いされちゃったし、僕も留守番か……」


ハヤセはそう呟いて、ハァとため息をついた。



その頃、姿を消したリヒトは、庭を駆けるミーシャの前に現れていた。


「ミハイル、待て!」


突然目の前に現れたリヒトに驚き、ミーシャは足を止めた。


「どこに行くつもりだ」


「城に決まってんだろ!」


「行ってどうする? 子供姿のお前など、門をくぐる事もできないだろう」


「うるさい! どけよ!」


リヒトを押しのけて前に進もうとしたミーシャの服を、追いついた優里が引っ張った。


「ミーシャ君、待って!」


「……! ユーリ……」


ミーシャは優里の方を見て、ギュッと拳を握りしめた。


「止めても無駄だからな! オレの……オレのせいでバルダー様が……! いくらお前でも、オレを止める事はできな……」


「私も行く」


ミーシャの言葉に被せるように、優里が言った。


「……は?」


ミーシャは聞き間違いかと思い、服を掴んだままの優里を見上げた。

優里は子供姿のミーシャに目線を合わせる為、しゃがみ込んでミーシャの両肩を掴んだ。


「ミーシャ君ひとりで行かせない。私も、バルダーを助けに行く!」


「何言ってんだお前、こんな危険な事に、お前を巻き込む訳にはいかな……」


「ユーリ様が行くのなら、勿論わたくしもお供しますわ!」


今度は、クロエが被せるように発言した。


「そうですね。オレもユーリさんを見守るという使命があるので、一緒に行きます」


リヒトもクロエの隣に並び、そう言った。


「お前ら……何言って……」


真剣な顔でミーシャを見つめる優里の後ろから、ルーファスが穏やかな口調で言った。


「ミーシャ、ボクたち仲間だろう? バルダーを助けたい気持ちは、みんな一緒だ」


ルーファスの言葉にミーシャは目を見開き、そして大きく息を吐いた。

しばらく下を向いて考えていたが、顔を上げ、リヒトの方へ顔を向けた。


「オレを……ミーシャって呼ぶのを許してやる。……仲間だからな」


ミーシャはそう言うと、プイと顔を逸らした。その横顔は、少し赤くなっているように見えた。

リヒトは少し驚いたような顔をしたが、ふっと息をついてミーシャを見つめた。


「よろしく、ミーシャ」


優里たちは、バルダーを助ける為に心をひとつにした。



月・水・金曜日に更新予定です。

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