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31 スキルポイント

31


作業場のソファーに、優里を挟んでシュリとミーシャが座った。その向かい側にハヤセが座り、ハヤセの後ろにリヒトが立っていた。


ルーファスが皆に紅茶を淹れてテーブルに置くと、今朝の様に、作業場の入り口近くの椅子に腰かけた。


「単刀直入に言う。私の兄の婚約者と、ミーシャの母親の事を診て欲しい」


シュリはそう言って、真っ直ぐハヤセを見た。


(シュリさんが伝説の薬師に診て貰いたかった人って……アリシャさんだったんだ……)


優里は、ルーファスの記憶の夢で見た、アリシャの事を思い出した。シュリの兄、ルドラの婚約者だというアリシャは、南国の海の浅瀬のような、エメラルドグリーンの瞳が印象的な、美しい女性だった。


「僕はこう見えて、とても忙しいんだよ。世の中には、僕の助けを必要としている人がたくさんいる。君たちが診て欲しいという方たちは、本当に僕でなければ治せないの?」


「俺の母上は、それこそ手当たり次第に名医だと言われる医者に診せた! けど……誰も治せなくて……もう、あなたしか頼れる人がいないんです」


ミーシャは懇願するような瞳で、ハヤセを見た。


「わたしの場合も同様だ。それに加えて、わたしには種族を明かせるかという事も重要になってくるから、信用のおける者でないと、診せられない」


「僕は信用のおける相手だと?」


ハヤセは、少し笑ってシュリに問いかけた。


「お前はわたしの種族を既に知っている。今更隠しても無駄だろう」


「それもそうだね」


そう言ってハヤセは紅茶を一口飲んだ。シュリたちのやり取りを見ていた優里は、ハヤセに対して深く頭を下げた。


「優…ハヤセ君、私からもお願いします。ふたりの大事な人を……診て欲しいんです」


「ユーリ……」


シュリとミーシャは、頭を下げた優里を見つめた。

優里は、伝説の薬師に会う為に共に旅をして、それぞれがどれだけアリシャや母親の事を気にかけていたか知っていた。そんなふたりの為に出来る事は、何でもしたいと思っていた。


「あなたなら……ふたりの大事な人を治せるかもしれない。希望がある限り、諦めたくないんです。お願いします!」


頭を下げ続ける優里に、ハヤセは静かに口を開いた。


「……優里ちゃん、僕の事は、昔みたく優一郎って呼んでくれていいよ。あと……君に頭を下げられたら、僕は絶対に断れない」


優里は顔を上げ、ハヤセを見た。


「君の頼みであれば、僕は喜んで引き受けます」


ハヤセはにっこりと笑った。


「優一郎君……ありがとう……!」


「感謝する」


「ありがとうございます!」


シュリとミーシャも、ハヤセに礼を言った。


「患者は、それぞれ違う場所にいるんだよね? どちらから診ればいいのかな?」


「オレの故郷は北の国です」


「わたしは南だ」


「北と南……見事に正反対ですね」


リヒトがそう言うと、シュリがミーシャの方を見た。


「北の国から行ってくれ。わたしは後で構わない」


「シュリ……いいのか?」


「ああ、大丈夫だ」


(シュリさん、アリシャさんの事も心配だろうに、ミーシャ君に譲ってあげるなんて…やっぱり優しいな)


「では、出発は明日にしよう。今夜、北の国への転移魔法陣を完成させておくよ。人数は、ここにいる全員という事でいいよね」


ハヤセの言葉に、優里が首を傾けた。


「みんなで行くの?」


「そうだね。僕はミーシャの母親を診るとは言ったが、治せるかどうかは症状を診てみない事には分からない。どちらにしても、今度はすぐにシュリの故郷にも行けるように、皆で行動した方が効率的だ。ミーシャ、君も理解してくれるね?」


「はい……わかっています。みんな、北の国ではオレの家に泊まってくれ」


ミーシャはそう言うと、改めてハヤセに頭を下げた。


「ハヤセさん、よろしくお願いします」


こうして優里たちは、明日北の国へ出発する事になった。




夕方過ぎ、シュリが皆の食事を用意している間、優里はハヤセとリヒトの3人になる機会があった。


「優里ちゃん、少しいいかな?」


作業場のソファーに座り、ハヤセはおもむろに一枚の地図を取りだした。


「これ、持ってるよね?」


優里はハッとして、自分のポーチから地図を取りだした。


「持ってます! 優一郎君、この地図が何だか知ってるの!?」


「知ってるのって……やっぱり、リヒトが言っていた通り、君はこの地図について何も知らないんだね?」


ハヤセは、事のあらましをリヒトから少し聞いていたようだった。


「うん……。私、かなり急ぎ足で転生しちゃったみたいで…何の説明も受けてなくて……」


「まったく、あの神様は……。じゃあ、星はまだ黒いまま?」


「え?」


優里が訊き返すと、ハヤセが自分の地図を広げた。だがハヤセの地図は、優里には何も書かれていない、ただの白紙に見えた。


「えっと……これ、私と同じ地図なのかな?」


疑問を持った優里に、ハヤセが言った。


「やっぱり、転生者には、他の転生者の地図は見えないんだね」


「え?」


再び優里が訊き返すと、ハヤセが説明をした。


「僕の地図にも、優里ちゃんと同じ様に星があるんだけど、この内容は、どうやら“転生者”には見えないみたいなんだ。だからきっと、僕にも優里ちゃんの地図は見えない」


「そうなの!? じゃあ、リヒト君にも見えてないの?」


「はい。先生は俺によく地図を見せてきますが、俺には内容まで見えません。先生が、これだけ星があると口頭で教えてくれますが」


「そうなんだね……」


(クロエは転生者じゃないから、私の地図の星が見えたんだな)


地図を見ながら考え込んでいる優里に、ハヤセは話を続けた。


「優里ちゃん、これはね、スキルポイント保持者を探せる、転生者特典なんだよ」


「スキルポイント?」


「そう、この世界に転生する時に、転生ポイントっていうのがあったと思うけど、 この世界では、スキルポイントっていうのをためる事ができるんだ。効率的にポイントがためられるように、自分に助けを求めている人……というか、()()()()()助けられない人が、この地図に星マークで表示されるんだ」


「え!?」


「この地図の星マークの人を助けると、星の色が変わる。そして色が変わった星は、新しいスキルを取得する為に必要なんだ。星ひとつでひとつのスキルが取得できる。でもスキルの取得はランダムで、自分で選ぶ事は出来ない。この世界の人達は、成長の過程で色々なスキルを取得するけど、僕たちの様な転生者は、最初に転生ポイントを使って取得したり、こうして地図の星を使って取得するっていう形になるんだ」


優里は驚いてハヤセを見た。


(待って……。という事は、シュリさんやミーシャ君は、何か救いを求めてるの!? しかも、それは私にしか助けられないって事!?)


優里は改めて自分の地図を見た。すると、今まで黒だった星がひとつだけ、色が変わっている事に気が付いた。


(あれ!? 色が違う星がある!?)


優里は、慌てて部屋を見回した。

キッチンにいるシュリ、シャワー室にいるミーシャは、相変わらず黒い星マークだったが、同じくキッチンでシュリの手伝いをしているルーファスの星マークの色が変わっていた。

そして、目の前のハヤセの隣に座っているリヒトと、夕飯を一緒に食べる事になり作業場に来ていたバルダーに、新たに黒い星マークが現れていた。


(これって……)


ごくりと喉を鳴らした優里に、ハヤセは改めて切り出した。


「それで、ここからが本題なんだけど……こうやってためたスキルポイントは、実は譲渡する事が出来るんだ」


「え? 譲渡?」


「うん。これも転生者特典だよ。でも、譲渡出来るのは、家族にだけ」


「簡単に言うと、携帯電話のデータシェアのようなものです」


リヒトがわかりやすいように補足した。


(データ量みたいに、家族で分け合えるってやつ……? 転生者向けの色んなサービスが展開されてるんだな……)


「だから僕は……優里ちゃん、君に、僕がためたポイントを貰って欲しい。その為には、僕と結婚して、家族になって欲しいんだ!」


「え!?」


突然のプロポーズに、優里は恥ずかしさよりも驚きの声を上げた。そして、今朝リヒトが言っていた事を思い出した。


(そういえば……リヒト君が、伝説の薬師は私の為にたくさんの人を助けてるって……。それって、ポイントをためてるって意味だったの!?)


「優里ちゃん…君は全く気付いてなかったけど、僕たちは、大人になってからも、実は会ってるんだよ」


「うそ!?」


優里が驚いてハヤセを見ると、ハヤセは目を伏せて、膝の上で組んでいた手をギュッと握った。


「あの日……君を、あの電車事故に巻き込んだのは、僕だ」


優里は目を見開いた。


(電車…事故……!? まさか……優一郎君が……)


優里の脳裏に、こびりついて離れない光景。

あの時、助けられなかった男性を目の前にして、優里は思わず口元を手で覆った。




月・水・金曜日に更新予定です。

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