25 救出
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一方トンネルの外では、シュリが魔法を打ち続けていた。
最初に比べれば大分ヒビも広がったが、そこでシュリは苦しそうにしゃがみ込んだ。
「シュリ!」
ミーシャが駆け寄り、シュリを支えた。
(この男…とんでもない魔力量ですね……。かなりヒビが入りましたが、ここまででしょう。外に出て通風孔も塞がないといけませんし、助けを呼んで来るふりをして、俺はここから離れますか……)
スライがそう考え、外に出て行こうとした時、シュリがゆっくりと立ち上がった。
(この男、まだ魔法を打つつもりですか!?)
「ミーシャ、離れていろ。……元の姿に戻り、岩を砕く」
その言葉を聞いて、ミーシャは小さな声でシュリに言った。
「何言ってんだシュリ! 人間もいるんだぞ!? 得体の知れない悪魔もいるし、あのスライとかいう魔族だって、信用できない!」
「リヒトは恐らく、わたしの正体を知っている。だがそんな事、どうでもいい」
シュリの体が、青い光で包まれた。
「わたしは、わたしの守りたいものを諦めない。今度こそ、絶対に守る」
「何だ!? あの男の体が光り始めたぞ!?」
「カシラが変身する時と同じだ!」
眩い光に包まれ、シュリはユニコーン姿になった。
突然現れた気高く美しいその姿に、誰もが息をのんだ。
シュリは、注目されている事など気にもとめず、前足を軽く蹴ると、頭を低く構え、壁に向かって突進した。
シュリの角が壁に出来たヒビに突き刺さり、ボロリと壁の一部が崩れた。
シュリは後ろに下がり、再び突進する事を繰り返した。
「す…すげぇ……。みるみる壁が崩れていく!」
部下たちが驚く中、スライは目の前の状況に興奮していた。
(この男、ユニコーンだったんですね! とっくに絶滅したと思っていたが……何という幸運! ヤツの角さえ手に入れれば、力と金の両方が手に入る!)
シュリの硬い角は、あれだけ固められていた岩を徐々に砕いていき、遂にトンネルに穴が開いた。
トンネルを突き抜けるように突進してきたユニコーン姿のシュリに、ルーファスは一瞬驚いた。シュリは、ルーファスの腕の中にいる優里を見つけると、すぐに人型に戻り、駆け寄った。
「ユーリ!」
「大丈夫、眠っているだけだよ」
ルーファスの言葉に、シュリは全てを察した。
「お前が、生気を与えたのか?」
「……一度死んだけどね」
シュリはすやすやと眠っている優里を見て、抱き上げようとした。
「シュリ、キミってばボロボロじゃないか。ユーリはボクが運ぶよ」
「いや、わたしが運ぶ」
シュリは優里を抱き上げ、そのままトンネルの外へ歩き出した。
周りの者たちは、黙って道をあけた。
「カシラ……カシラは何処だ!?」
部下たちの声に、ルーファスが言った。
「キミたちの頭なら、赤いトカゲの姿になって、外に出たはずだよ」
「トカゲ!? どこかですれ違ったのか!?」
「いや、それなら、カシラの方が俺たちに気付くはずだ」
動揺する部下たちを制して、スライがシュリに言った。
「この度は、俺の早とちりのせいでこんな事態になってしまって、申し訳ございませんでした。我々は、もう少しここでカシラを探します。後処理もやっておくので、どうかこの事は穏便に……」
「ユーリさえ無事なら、後の事はどうでもいい」
シュリはそう言って、スライの横を通り過ぎた。
ミーシャたちも、その後に続いた。
その後ろ姿を見送ると、スライはクククと押し殺していた声を漏らした。
「スライ、どうしたんだ? 俺たちは早くカシラを探さねぇと……」
怪訝な顔をした部下たちを尻目に、スライはついに大声で笑い出した。
「アハハハハハ! 愚鈍な人間ども! お前たちのカシラはここにいますよ!」
スライは麻袋から虫籠を取り出すと、部下たちの前に掲げた。
「赤いトカゲだ!」
「カシラ!?」
虫籠に手を伸ばした部下のひとりに、スライは魔法を放ち、それは部下の伸ばした手を切り裂いた。
「ぎゃああああ!」
「おい! スライ! 何しやがるんだ!?」
部下たちが、突然の事にスライに向けて武器を構えたが、スライはフンと鼻を鳴らして、細い目をより細めて言った。
「お前たちのような魔力もない人間が、魔族の俺に勝てるとでも思ってるんですか? そもそも、お前たちの大事なカシラは、俺の手の中。カシラを殺されたくなかったら、俺の言う事を聞いた方が賢明だと思いますよ」
「スライ……テメェ……」
部下のひとりが、持っていた武器をギュッと握りしめ、飛びかかろうとした。
「ば、馬鹿、やめねぇか! カシラが元の姿に戻れていねぇって事は、ヤツは何らかの方法で、カシラの魔力を抑えてるにちげぇねぇ! それにこのトカゲをよく見ろ! 喉元を深く切られてる! そんな状態のカシラを、更に危険にさらすわけにはいかねぇ!」
「くっ……!」
飛びかかろうとした部下は、スライを睨みつけながら踏みとどまった。
「俺たちは……どうすればいいんだ? どうすればカシラを解放する!?」
「フン。人間にも、思慮深い者がいるようですね。……なぁに、簡単な事ですよ……俺の野望を、少し手伝って欲しいだけです」
スライはニヤリと笑った。
翌日の朝、優里は見慣れない場所で目が覚めた。
(あれ……ここは……?)
まだぼんやりとする意識の中、ふと横を見ると、シュリが窓辺に腰掛けて外を見ていた。
「シュリさん……」
優里が声をかけると、シュリは手を伸ばし頭を撫でた。
「大丈夫か?」
「……はい」
優里は体を起こし、部屋を見渡した。どうやらこの場所は、鉱山の街で借りた作業場のようだった。
(私……生きてる……)
そして、自分の身に起こった事を思い出し、シュリの方へ向き直った。
「ルーファスさんとクロエは……!?」
「大丈夫。クロエは強制的に召喚の扉が閉じられてしまってここにはいないが、無事だ。……ルーファスも生きている」
シュリの言葉にホッとした優里だったが、その時覗いたルーファスの過去が、優里の心に重くのしかかった。
「あの……ルーファスさんはどうしてますか?」
不意にルーファスの事を訊かれ、シュリは撫でていた手をそっと引っ込めた。
「……ルーファスから、大体の話は聞いた。あいつは今別の部屋にいるが、会いたいのなら呼んで来る」
(会いたい…とは少し違うんだけど……)
シュリは、迷っているような素振りを見せた優里から目を逸らした。
「連れて来るから、待っていろ」
そう言って立ち上がったシュリだったが、足元が少しふらついた。
「シュリさん!?」
「大丈夫だ!」
優里が心配してベッドから出ようとしたが、シュリは少し大きな声を出した。
一瞬びっくりした優里だったが、顔を上げてシュリの様子を窺った。
「でも……顔色も悪いし、もしかして私のせいで……寝てないんですか?」
シュリは、心配そうに見つめてくる優里を見ないように、顔を背けた。
「わたしは……お前がいないと、もう眠れない」
掠れたような声を出したシュリに、優里はハッとした。
(そうだ、シュリさんは、重度の不眠症だった!)
「そっか……そうでしたよね! すみません! あの、じゃあ今からシュリさんの生気を吸います! あ、でも、毒スキルが発動するかどうか……えっと、じゃあクロエを呼んで……って、そうするとシュリさんがよけい体調不良になっちゃいますよね!? えーっと、えーっと、じゃあ……」
一生懸命、眠らせる方法を考える優里を見て、シュリはふっと息をついた。
「……お前が謝ることじゃない。大きな声を出してすまなかった」
優里は、少し目を伏せたシュリを見つめた。シュリの瞳の中に、寂しさが宿っているような気がしたが、それが何故だかはわからなかった。
(シュリさん……どうしたんだろう……。何だか、いつもと違う気がする……)
シュリは優里と目を合わせぬまま、ルーファスを呼びに部屋を出て行った。
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