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19 危機

19


一通り採掘し終わり、優里たちは休憩しながら助けを待っていた。


小さな岩に腰掛け休憩していた優里が、視線を感じ顔を上げると、バルダーと目が合った。

バルダーは気まずそうに目を逸らしたが、再び優里を見ると声をかけた。


「ユーリは……北の国の生まれなのか?」


そう言われる事に、さすがに慣れてきた優里は、小さく首を振った。


「ううん、違うよ。名前だけ」


「そうか」


バルダーは、少しホッとしたように息をついた。その表情を見て、優里は少し不思議に思った。


(北の国出身だったら、何かまずかったのかな……? あ、ミーシャくんが北の国だけど……)


北の国出身の仲間がいる事を、言おうかどうしようか迷っていると、バルダーが近付いて優里の顔を覗き込んだ。


「さっきは……本当に悪かったな。怪我はなかったか?」


優しく、本当に心配したような口調で言われ、優里はドキリとした。


「あ、う、うん、大丈夫だよ。バルダーこそ、額から血が出てたけど……」


「俺は頑丈だから大丈夫だ。オーガや、ルーファスのような吸血鬼などの鬼人族は、傷の治りが早い」


バルダーは、前髪をかき上げて額を見せた。確かに、額の傷はもうすっかり治っていた。


「そうだとしても、痛いのには変わりないでしょ?」


眉間にしわを寄せて、痛そうな顔をしながらそう言った優里に、バルダーは少し目を見開いてから小さく笑った。


「優しいな、お前は」


思わず優里の頬に手を伸ばしたバルダーだったが、クロエが後ろから優里を引っ張り、バルダーが触れるのを阻止した。


「バルダー! 気安くユーリ様に触れないで下さいまし! 今度は天井が落ちてくるかもしれませんわ!」


「す、すまない……」


バルダーはハッとして手を引っ込めた。


「それに、あなたの部下は、本当に助けを呼んでるんですの? あれから大分時間が経ったように思えますけど」


「確かに、そうだな……」


バルダーは塞がったトンネルを確認すると、小さな隙間を見つけ、優里たちに言った。


「俺がこの隙間からトンネルを出て、助けを呼んで来る。最初からそうしておけばよかった。すまない、頭が回らず……」


「その隙間から出る? バルダー、あなた自分の大きさを把握していないんですの?」


クロエが呆れたようにバルダーを見た。


「大丈夫だ」


そう言ったバルダーの体が、山吹色の光に包まれた。

光はバルダーを包み込んだまま、どんどん小さくなっていき、やがて消えた。光が消えると、バルダーも消えていた。


「バルダー!?」


優里とクロエは驚いて辺りを見回したが、バルダーの姿は何処にもなかった。


『下だ、ふたりとも。踏まないでくれよ?』


頭の中にバルダーの声が響き、優里は足元を見た。すると、綺麗な赤い色をしたトカゲが、優里たちを見上げていた。そのつぶらな瞳は、バルダーと同じ山吹色をしていた。


「え……? まさか……」


「バルダー、なの?」


半信半疑で優里が尋ねると、トカゲは口をパクパクさせ、それと連動して頭の中で声がした。


『そうだ。これで、隙間から出られる。すぐに助けを呼んで来るから、待っていてくれ』


トカゲ姿になったバルダーはそう言うと、トンネルの隙間へスルスルと入って行った。


「まさか、オーガにあんなスキルがあったなんて……知りませんでしたわ」


クロエが、トンネルを見つめながら息をついた。


「普通のオーガにはない能力だよ。彼は……何か特別なオーガなのかもしれないね」


ルーファスも、少し驚いた様子で呟いた。

優里たちは、バルダーが助けを呼んで来るのを、そのまま待つことにした。



バルダーは、トカゲ姿で岩山の隙間を器用に縫いながら、トンネルの外に出た。


そしてそこには、何やらトンネルに向かって魔法をかけているスライの姿があった。


『スライ!』


バルダーの声に、スライは一瞬ビクリとし、すぐにトカゲ姿のバルダーを見つけた。


「カシラ! ご無事で……」


『ああ、大丈夫だ。それより、今何をやっていたんだ?』


バルダーがトンネルの方に視線を向けようとした時、スライはトカゲ姿の彼をむんずと掴んだ。


「カシラ……申し訳ありませんが、これからの俺の台本に、貴方は邪魔なんですよ」


スライはそう言って、左手をバルダーにかざした。

すると次の瞬間、魔法でできた虫籠のようなものが現れ、トカゲ姿のバルダーはその虫籠の中に閉じ込められた。


『何だこれは!? スライ!』


バルダーは急いで元の姿に戻ろうとしたが、何故かスキルが発動せず、元の姿に戻れなかった。


『くっ……戻れない……!?』


「無駄ですよカシラ。この虫籠は、俺の魔力で作った特注品です。入れた者の魔力を弱める代物です。変身能力などの、魔力を大量に必要とするスキルは使えないでしょう。サイズが小さければ小さいほど強力。貴方が小さいトカゲになってくれてて、助かりましたよ」


スライはニヤリと口元を上げて、籠の中のバルダーを見た。


「俺はねぇ、名を上げて成り上がりたいんですよ。力さえ手に入れれば、弱者の俺を誰も見下さない! 鬼のように強い貴方のそばにいれば、それも叶うと思っていたのですが……貴方という人は本当にお人好しで、仲間にするのは使えない人間ばかり。ギルドでもその人間たちに合わせた冴えない依頼しか受けず、正直うんざりしていたんです。ですから、貴方にはここで“暴食の吸血鬼”と心中してもらって、その功績を俺が利用させてもらう事にしたんですよ」


『何を……言ってるんだスライ! 力というのは、弱きものを守る為にあるんだ! 自分の為にふるうものではない!』


「まだそんな甘い事を言っているんですか? 俺の家族は、貴族に殺されたんですよ! 力のある者が弱者を守るなんて事は、ただの建前です! 貴方だって、その力のある者に守られなかったじゃないですか! 北の国の“呪われた子”!」


スライの言葉に、バルダーは息をのんだ。


『……スライ! 知って……たのか?』


「参謀の情報収集力を舐めないで下さい。さて、もう少し表面を固めておきますかね」


スライはトンネルに向けて再び手をかざした。


『固めるだって? 待て、スライ! “暴食の吸血鬼”は偽物だ! 中には女性もいて、みな仲間だ! 危険はない! 助けるんだ!』


「犠牲なくして、俺の野望は叶わないんですよ、カシラ……」


スライはそう言うと、バルダーが入った虫籠を腰に下げていた麻袋に入れ、見えないようにした。


『スライ! 待て! スライ!』


「少し黙ってて貰えませんか? その虫籠の中に入っている限り、貴方の声は俺にしか聞こえませんが、頭の中に声が響いてうるさいんですよ」


スライは麻袋の中を覗き、トカゲ姿のバルダーの喉元を目掛けて、指の先から魔法を放った。


『……がっ……!』


「そのくらいの傷では、貴方なら死にはしないでしょう? 騒いだらまた潰しますよ」


スライは声が出せなくなったバルダーを一瞥し、再び麻袋の口を縛った。



暫くして、スライは、何者かがトンネルの方へ近付いてくる気配を感じた。


(あいつら……カシラが見つからなくて戻って来ているんですか? しかし、何やら魔族も一緒ですね……)


スライはトンネルを固めるのを中断し、気配がする方へ目を向けた。すると、バルダーの部下たちと、シュリとミーシャ、リヒトが姿を現した。


(誰だこの魔族たちは? ガキの獣人に悪魔に、この金髪の男は人間か?)


スライは、同じ魔族であるミーシャたちを警戒した。


「スライ! カシラはまだ中にいるはずだ! 今すぐ助けよう!」


部下のひとりがそう言って、トンネルの方を見て愕然とした。


「な、何だこれは!? どうしてこんなことに!?」


トンネルは、詰まった岩の隙間同士がぴったりとくっつき、まるで普通の壁のようになりつつあった。


(くそ、まだ完璧に固め終わってなかったのに!)


スライはさも驚いたように、部下たちに言った。


「見ての通り、“暴食の吸血鬼”を閉じ込めようとしていたのですよ! カシラは外に出たはずです! 貴方たち、ちゃんと探したんですか!?」


「カシラは外にいなかった! きっとまだ中に……」


「どけ」


シュリは、押し問答をするスライたちの前に出て、トンネルに向け魔法を放った。

しかし、少しヒビが入っただけで、石壁は崩れなかった。


(この男、魔法が使えるのか。という事は魔族……種族隠蔽をしているようですね)


スライは、注意深くシュリを観察した。


(戦略として、種族隠蔽をしている魔族は少なくない。この男も、その口か……?)


シュリは矢継ぎ早に魔法を放ったが、ヒビが大きくなる程度で、割れるほどの決定打にはならなかった。

それでもシュリは、魔法を打つのをやめなかった。

やがてシュリの頬を汗が伝い、肩で息をしながらも、シュリは壁に向かって魔法を打ち続けた。


その光景を見ていた部下のひとりが、シュリに言った。


「街に戻って、助けを呼んだ方がいいんじゃねぇか!?」


部下の言葉に、ミーシャも賛同した。


「シュリ、オレもそう思う。お前、少し変だぞ、落ち着けよ」


「落ち着いていられるか!!」


シュリの怒鳴り声に、周囲はしんと静まり返った。


驚いて動けなくなったミーシャに、シュリが言った。


「ミーシャ、お前が子供姿になってから、どのくらい経った?」


「え?」


「ここまで来るのにも、大分時間がかかった。いつもなら夕飯を終え、そろそろ寝ようとする時間だ」


ミーシャはハッとしてシュリを見た。


「わたしがそばにいないと、ユーリは死ぬ」


シュリの言葉が、暗く狭い洞窟に、重く響いた。


月・水・金曜日に更新予定です。

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