表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/144

144 サキュバスでも普通の恋愛はできるみたいです

144


家の一室に向かい、アリシャが声をかけ扉を開けた。するとそこには、クロエに髪を整えて貰っている、純白のドレスに身を包んだ優里の姿があった。皆息をのみ、その美しい姿に心を奪われた。


「皆! 来てくれたんだね!」


優里がそう言って微笑むと、バルダーは胸に手を当て、優里を見つめた。


「凄く……綺麗だ、ユーリ」


「え、えっと……ありがとうバルダー」


まるで尊いものを前にしたかの様な表情で見つめられ、優里は恥ずかしそうに視線を彷徨わせた。そして、この場にアイリックがいない事に気が付いた。


「あれ……アイリック様は?」


「あ、兄上はふてくされ……じゃなくて、ユーリの晴れ姿は式まで取っておくと言って、控室には来なかった」


「そうなの? そんなもったいつける様なものでもないんだけど……」


優里が遠慮がちにそう言うと、バルダーと同じ様に優里を見つめていたミーシャが口を挟んだ。


「いや、めちゃくちゃ清楚で可憐だぜ。とても痴女には見えない」


「もう! ミーシャ君! 痴女じゃないから!」


優里はミーシャが言った事に反論しつつも、ヴィクトルとレイラの姿が見えない事に、残念そうな声を出した。


「あれ……ヴィクトルさんたちは……やっぱり忙しくて来れなかったのかな?」


優里がそう問いかけると、ミーシャは少し照れくさそうに、鼻の頭を掻いた。


「ユーリ、実は……母上に赤ちゃんが出来たんだ」


「え!!」


「転移は体に負担がかかるからって、今回は見合わせる事にしたんだよ。母上も父上も、すっげー来たがってたけど……ごめんな」


「ううん!! 残念だけど、すっごく嬉しい報告だよ!!」


優里は前のめりになってミーシャを見つめた。


「よかったね、ミーシャ君!」


「オレも、すげー嬉しい」


そう言って笑うミーシャの胸には、木の実でできたブローチが輝いていた。


「ユーリさん、ご招待ありがとうございました」


「皆に、ちゃあんと浄化を施しといたからね」


「ベルナエル! アスタロトも来てくれてありがとう! ベルナエル、浄化の事頼んじゃってごめんね」


優里はベルナエルとアスタロトの方に目を向け、礼を言った。


「いいえ! 頼って貰えて嬉しかったです!」


「で、ユーリも毎朝自分を浄化してるワケ?」


アスタロトがニヤニヤと笑いながらそう問いかけると、リヒトが軽く咳払いをした。


「アスタロト様、その発言はセクハラですよ。あと、ユーリさんは先生の企みにより未だ処女です」


「リっ、リヒト君! 余計な情報を漏洩しないで!! それもセクハラだからね!?」


「せくはらってナニ? てゆうか、あんたってホント……サキュバスとして無駄な人生を送ってない?」


「無駄ではない。処女は神聖なものだ」


その時、呆れた様にため息を漏らしたアスタロトの後ろから、よく通る凛とした声が響いた。その声に皆が振り向くと、そこには白いフロックコート姿のシュリが立っていた。


「シュリさん!」


「ユーリ」


シュリは皆の間をすり抜け優里の前に跪くと、その手を取った。


「とても綺麗だ、ユーリ」


「あ、ありがとうございます……」


優里も、まるで王子様の様なシュリの姿に胸の鼓動が早くなった。


「ユーリ様の準備が整い次第、式を始めますわ。皆様は会場でお待ちくださいまし」


クロエの言葉に皆は頷き、裏庭へと向かった。




優里とシュリは、結婚式をルドラの墓がある花畑でやると決めていた。そして準備を進め、世話になった皆を招待し、今日のこの日を迎えた。


「お待たせ! みんな!」


リアの声に皆が振り向くと、そこには美しい花嫁と花婿の姿があった。ふたりは祝福をする皆の間を歩き、小さなミモザの木の前に立った。木の前でスタンバイしていたクロエは優里とシュリを見つめ、口を開いた。


「シュリ、貴方はユーリ様を妻とし、健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、メリュジーヌの(しもべ)がユーリ様に生気を与える時も、それを寛大な心で許し大人しく見ていると誓いますか?」


「台詞が違うぞクロエ」


「チッ! 気付きましたか……」


冷静に突っ込んだシュリに、クロエは舌打ちをした。


「もう、クロエ」


優里が困った様に笑い、クロエは少し唇を尖らせた。


「わかっております、ユーリ様……。シュリ、貴方はユーリ様を妻とし、健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、妻を愛し、敬い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くす事を誓いますか?」


誓いの言葉を言い直したクロエに、シュリは真剣な眼差しを向けた。


「誓います」


「……ユーリ様、貴方はシュリを夫とし、健やかなる時も病める時も、喜びの時も悲しみの時も、夫を愛し、敬い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くす事を誓いますか?」


優里が言葉を発しようと口を開きかけた時、森中に響き渡る様な大声がその言葉を遮った。


「ちょっと待ったぁあああ!!」


そしてその声と同時に、手袋がシュリへと投げつけられた。


「私は貴様がユーリの夫になる事は断じて認めん!! 決闘だユニコーン!! ユーリを手に入れたくば、私を倒してその屍を越えてゆけ!!」


「相変わらず騒がしいな……アイリック」


声のした方に振り向いたシュリは、眉間にしわを寄せた。そこには、仁王立ちしているアイリックの姿があった。


「フハハハハハ!! そう簡単にユーリと結婚出来ると思うな!! さあ剣を取れ!! そしてユーリ!!」


「はっ、はいっ!?」


いきなり名前を呼ばれ、優里はビクビクしながらもアイリックを見つめた。


「……き……き、綺麗過ぎるぞ貴様ぁ!! 私の目を潰す気か!?」


「ええ!? す、すみません!??」


「兄上!! 神聖な儀式の最中ですよ!!」


「うるさい!! 止めるな弟よ!! これは私が打ち勝たなければならない試練なのだ!!」


見かねたバルダーが止めようとしたが、アイリックは剣を手に叫んでいた。


シュリはハァと大きくため息をつくと、優里の前にしゃがみ込んだ。


「ユーリ、背中に乗れ」


「え?」


「逃げよう」


優里は、初めてシュリがユニコーン姿になった時の事を思い出し、ふっと笑みを零した。


「はい!」


青色の光で包まれユニコーン姿になったシュリは、揉めているアイリックとバルダーの方を向いた。


『行くぞ。振り落とされるなよ』


「はい!」


シュリはアイリックとバルダー目掛け走り出し、ふたりの頭上を軽々と飛び越えた。


『アイリック! 屍ではないがお前を飛び越えた』


シュリの言葉に、アイリックは体を震わせた。


「い……意味が違うぞユニコーン!!」


『結果は同じだ。機会があれば、またどこかで会おう』


「みんな! 今日は来てくれてありがとう!」


優里は、シュリの背中の上で笑顔で手を振った。そしてシュリは、優里を乗せたまま森の中へと走り去った。


「まっ……待てーーーー!! ユニコーーーン!!」


小さくなるアイリックの声を背に、優里はシュリに話しかけた。


「シュリさん! これからどうするんですか!?」


『このまま新婚旅行だ。そういえばユーリ……』


シュリはスピードを落とすと、人型に戻った。そして優里の腰を抱き、顎に手をかけ自分の方を向かせた。


「先程の誓いが途中だったな。お前は、命ある限りわたしと共に生きると誓うか?」


優里はシュリを見つめ、頬を赤らめた。


「……誓います」


シュリはその言葉を聞くと目元を和らげ、優里の唇に自身の唇を近付けた。優里は胸が高鳴る中、そっと瞳を閉じた。しかしシュリは、寸での所で動きを止めた。


「しまった、忘れる所だった」


「え?」


「傘は持って来たか」


「今、この状況でそれ言います!?」


木漏れ日が射し込む美しい森の中で、愛を誓ったサキュバスは、ユニコーンの腕の中で幸せそうに笑うのだった。



無事、最終話を迎えることができました。

約一年程お付き合い頂き、本当にありがとうございました!


初めてのことばかりで、四苦八苦しながらも楽しく書かせて頂きました。


ブクマやいいねを付けて下さった方、感想・レビューを書いて下さった方、本当にありがとうございます。感謝しかありません。


後日談“メリュジーヌに普通の幸せは訪れるんでしょうか”で、本作では書けなかったクロエの過去に触れているので、そちらもよろしくお願いします。


次回作をちょこちょこと書き溜めているので、安定して配信できるようになったら、また載せていきたいと思っています。その時は、また読んでもらえたら嬉しいです!


鳥居塚くるり


追記;2023年8月より、『引きこもり龍姫と隻眼の龍』の連載を始めました。もしよかったら、そちらも覗いて見て下さい!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ