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143 招待状

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アリシャの包帯が取れてから更にふた月ほど経ち、北の国のミーシャの屋敷には、懐かしい面々が集まっていた。


「兄上、いつまでヘソを曲げているんです」


「曲げてなどいない! 私はただ……納得がいかないのだ!」


屋敷の一室には、正装をしたふたりの王子の姿があった。ひとりはイライラとした様子でテーブルの上を指でトントンと叩いていて、もうひとりはそれを宥めようとしていた。


「ずっと連絡をよこさないと思っていたら……いきなりこんな招待状だと!? 忙しい私を出し抜くにもほどがあるだろう!!」


イライラとしている方は、そう言うと招待状を無造作にテーブルに放り投げた。


「俺も驚きましたが……でも、もう決まってしまった事です。俺は……ふたりを祝福したい」


その時部屋の扉がノックされ、ミーシャが声をかけた。


「バルダー様、アイリック様、準備できましたか?」


「ミーシャ、それが、兄上がずっと渋っていて……」


「誰も行かないとは言ってない!! ユーリの美しい晴れ姿を見ない訳ないだろう!!」


アイリックは立ち上がると、魔法陣がある庭へ出た。庭にはスライと“深淵の番人”の皆もいて、アイリックたちが出てくるのを待っていた。そしてその輪の中には、気だるそうにあくびをした悪魔の姿があった。


「あ、やっと出て来た」


「お久しぶりです!」


待ちくたびれたとでも言う様に、黒い羽を広げ伸びをした悪魔と、にこやかに挨拶をした白い羽の悪魔が向かってくるアイリックたちを見た。


「アスタロトにベルナエル。お前たちも招待されていたのか?」


バルダーの言葉に、アスタロトが自分の髪の毛をくるくると指で弄びながら答えた。


「まあね~。じゃ、皆そこに並んで。今からベルナエルが浄化するから」


「浄化? 何故だ?」


「えーっと、あちらにはユニコーンの女性がいらっしゃるので、浄化をしておいて欲しいとユーリさんに頼まれて……」


バルダーの疑問に、ベルナエルは簡単に説明をしたが、アスタロトは口の端を上げた。


「別に、しなくてもいいけどね? 皆の()()()が赤裸々になるのもオモシロイし」


「もう! アスタロト駄目だよ。ボクはユーリさんに頼まれたんだから!」


「わかったよ。ベルナエルは義理堅いんだから。まぁ、そこがキミのイイトコロだけどね」


アスタロトはそう言うと、ベルナエルの頬にチュッとキスを落とした。


「おい……イチャついてないでやるならサッサとやれ」


「うっわ……アイリックってば機嫌悪ーい! 嫌なら行かなきゃいいのに」


「嫌ではない!! ユーリの元に行かないという選択肢は、私には無い!!」


アスタロトの言葉に、アイリックは声を荒げた。その時庭の魔法陣が緑色に光り、中央に出来た光の柱から、ハヤセが姿を現した。


「やあ、皆揃ってるね」


「ハヤセ先生! お久しぶりです!」


ミーシャがハヤセの元へ駆け寄った。


「久しぶり、ミーシャ。今回庭の魔法陣を使わせて貰う件、優里ちゃんも感謝してたよ」


「正直、してやられた感じでしたけど……まぁ、()()()()()は初めからわかってた様なもんでしたしね」


ミーシャは少し口を尖らせたが、手に持っていた招待状を見つめ、諦めた様に笑った。ハヤセもそんなミーシャを見て小さく息をつき、明るい声を出した。


「じゃあ、行こうか。南の国へ」


ベルナエルはミーシャたちに浄化を施し、ハヤセの転移魔法で南の国へと向かった。



南の国のとある森に転移した一行は、美しい森を見つめ息を漏らした。


「ここから少し歩くからね」


ハヤセはそう言って、皆の先頭に立った。


「アスタロトたちは旅をしてたんだろ? どこに招待状が届いたんだ?」


「僕が“千里眼”で場所を確認して、リヒトに瞬間移動で届けて貰ったんだよ」


ミーシャの疑問に、ハヤセが振り向きながら答えた。


「そういえば……優里ちゃんはミーシャのご両親にも招待状を送ったはずだったけど……やっぱりおふたりは忙しいのかな?」


「あ、いや、実は……」


「うっそー!! ユーリってば、ホントに北の国の王子様とお友達だったの!?」


ミーシャの言葉を、甲高い声が遮った。


「リア」


大きな木の幹から、リアがにゅっと現れた。


「初めまして! 南の国の森にようこそ! とっても仲がいいオーガの兄弟って貴方たちの事ね? 兄は弟を、弟は兄を思っていて、お互い昂る気持ちをぶつけ合ったって聞いたわ! それってすっごく興奮する話ね!!」


リアは鼻息を荒くして、アイリックとバルダーに近付いた。


「おい、なんだこのヤベーヤツは!? アイリック様たちに対して無礼だぞ! しかもなんか、情報がねじ曲がって伝わってるぞ!」


「リア、落ち着いて。気持ちをぶつけ合ったっていうのは……」


「待ってたよミーシャくーーーーん!!」


「ギャーーーー!!」


ハヤセの言葉を遮り、今度はルーファスが茂みから現れミーシャに抱きついた。


「ああ……このもふもふの耳としっぽ……この獣臭……久しぶりに感じるこの温もり……たまらない……たまらないよミーシャ君!!」


「やっ、やめろ!! 触るな!! あっ、みっ、耳を食うな!! やっやめっ……」


「ルーファス!! 貴方って相変わらずいい仕事するわね!!」


リアは、ミーシャに襲い掛かるルーファスの周りをぐるぐると回り、あらゆる角度から絡むふたりを堪能した。


ルーファスに襲われ、ぐったりとしたミーシャを尻目に、一行は森を抜け一軒の家に辿り着いた。


「皆さん、お疲れ様です。あちらにお茶とお菓子を準備しているので、時間までお寛ぎ下さい。……ところで、ミーシャは何で泣いてるんだ? 泣くのはまだ早いぞ?」


皆を迎えたリヒトが、うずくまっているミーシャを見て首を傾げた。


「うう……スゲー耳を舐められた……。尻尾も容赦なく握られた……。オレは汚されてしまった……」


「おい、ミーシャ大丈夫か? まだ時間あるから、シャワー浴びるか?」


見かねたニーノが、ミーシャに声をかけた。


「俺もいつも被害に遭ってるからな、あんたの気持ちが痛いほどわかるぜ……」


「ニーノ……」


ミーシャとニーノの間に、深い友情が生まれた瞬間だった。



家のテラスのような場所には軽食が準備されていて、見知った顔の親子がお菓子をほおばっていた。


「……リオ君!?」


「あ! ベルナエルお姉ちゃん!」


そこには、リオとその父親の姿があった。以前、眠っていた優里の代わりにベルナエルがリオを浄化した事があった為、面識があったベルナエルはリオに駆け寄った。


「リオ君も式に? 体は大丈夫なの?」


ベルナエルは、肺を患っているリオを心配した。


「うん! 最近すっごく調子がいいんだ! 温泉に毎日入ってるおかげかな!?」


そう言って笑ったリオの顔色は、確かに以前とは比べ物にならないほどよかった。


「……信じられない。こんなコトあるの?」


未来を()()事が出来るアスタロトは、リオを視て純粋に驚いた。


「リオの未来が変わってる。寿命が延びてる」


そう呟いたアスタロトの言葉を、リヒトは聞き逃さなかった。


「アスタロト様、本当ですか!?」


「サルガタナス、あんたどんな魔法をあのコに使ったの?」


「しいて言うなら、森の恵みだ」


アスタロトの疑問に、ハヤセが答えた。


「この手つかずの森には、希少な薬草がたくさんあってね、それを基に新薬を開発したんだよ。それが、リオの病気に効果を発揮したんだ。僕の研究とスキルの成果だね。何せ、優里ちゃんの為に取っておいたスキルポイントを、自分の為に使ってレアスキルを手に入れまくったからね。ハハハ」


「ヤケ酒ならぬ、ヤケスキルポイントですね」


リヒトがそう言うと、アスタロトはフンと鼻を鳴らした。


「ああ、テンセイシャのトクテンってヤツね」


「先生の新薬のおかげで、リオが回復傾向にある事はわかっていましたが、アスタロト様の未来を視る能力で確信を得ました。リオは……死の危機を脱したんですね」


リヒトとハヤセが見つめる先には、笑顔で話すリオと父親とベルナエルの姿があった。それを見たアスタロトは、満足そうに口の端を上げた。


「ふうん……。ま、ベルナエルのあんな笑顔を見れるなら、あんたたちのドヤ顔も我慢してあげるよ」


ハヤセとリヒトがアスタロトの台詞に顔を見合わせ少し笑った時、アリシャがアンシュを連れてやってきた。


「皆さん、ようこそお越しくださいました」


「おおっ、ちっせーシュリみたいだ」


ミーシャがそう言ってアンシュを見ると、アンシュは礼儀正しく挨拶した。


「はじめまして、アンシュです。今日はようこそおいでくださいました」


「か……可愛いではないか貴様ぁ!! しかも、あの吸血鬼よりも礼儀がなっている!! 将来有望過ぎるぞ!!」


アイリックの大声にアンシュはビックリし、咄嗟にアリシャの後ろに隠れた。


「アイリック~、子供をビビらせないでよ」


「ビビらせてなどいない! 私は褒めただけだ!!」


アスタロトに注意され、アイリックは不服そうな顔をした。


「アリシャ!、ユーリの準備できたの?」


「もう少しよ、リア。そうだ、もしよかったら、皆さん式を始める前にユーリさんにお会いになりますか?」


アリシャにそう尋ねられ、皆顔を合わせて頷いた。



次回、最終話になります。3月3日(金)に配信予定です。

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