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13 温泉にて

13


(すごい! 天然の露天風呂だ!)


一方、優里たちは温泉に到着していた。

岩に囲まれた温泉からは、ほこほこと湯気が立ち上っており、泉の水が流れ込んで、丁度いい湯加減になっていた。


「ふう……。こうしてお風呂に入ると、昔、覗き見されたことを思い出しますわ」


「えっ! そんなことがあったの!?」


「まぁユーリ様、メリュジーヌの伝説をご存じないのですね。まったく男というのは、いやらしい生き物ですわ。ユーリ様も、決してお心をお許しになっては駄目ですよ」


クロエはそう言って、優里に念を押した。


(クロエは、メリュジーヌっていう魔物なんだ。あんまり馴染みがないなぁ……。ネットがあれば、すぐ調べられるのになぁ)


メリュジーヌとは、沐浴中の魔物の姿を人間の夫に覗き見され、その為別れる事になった話が有名な、水の精霊である。


「でも、一緒に旅をしてるみんなは、いい人たちだよ」


優里は、これまでのことをクロエに話した。シュリと出会い、ミーシャと出会い、ミーシャが夜になると子供の姿になってしまうことや、シュリが処女以外の女性に近付くと、体調不良になることなど、色々説明した。


「ルーファスさんは今日出会ったばっかりだけど、シュリさんの知り合いだし、危険はないよ。クロエも……大事な仲間だから、みんなと仲良くして欲しいな」


「ユーリ様……」


優里に、大事な仲間だと言われ、クロエは涙目になった。


「わかりました。ユーリ様は、皆様との絆を大事になさっているのですね。(あるじ)の意向に、使い魔であるわたくしも従いますわ」


「うん。ありがとう、クロエ」


ホッとした優里だったが、もうひとつ心配な事があった。


「クロエ……あと、盗賊業からは、足を洗って欲しいの。お金のことなら、私が何とかするから……」


自分が面倒を見ると決めたのだから、クロエには人の物を盗んで、生活をして欲しくはなかった。

するとクロエは、優里に向き合って強く宣言した。


「勿論でございます! わたくしは、ユーリ様の評判を落とすような行動は、絶対致しません! 実は、新しい職については、もう考えているのです」


「え? そうなの?」


「はい! わたくしは、今後は鑑定士として、生計を立てていくつもりですわ」


「鑑定士?」


「はい。価値がある物かそうでないのかを見極める鑑定士のスキルは、盗賊業の時もそれなりに重宝してましたが、本来は宝石商などで必要とされるスキルなんですの」


(宝石商! なんかセレブな響きだ)


「東の国に行くのなら、きっとこの先の、鉱山の街に立ち寄ると思われます。その名の通り、街は鉱山に囲まれていて、様々な鉱石が流通してますの。鉱石の価値を見極める鑑定士は、その街では引く手あまたなんです。なのでわたくしは、その街を拠点にしようかと考えておりますの」


「そうなんだね! 凄いな、クロエは……」


自分よりも、しっかりと今後のことを考えていたクロエを見て、優里は少し恥ずかしくなった。


(私って、行き当たりばったりだよなぁ……。面倒見るとか言っておきながら、どうやってお金を稼ぐかなんて、まだ考えてなかった。私にも、何か出来ることないかな? シュリさんたちは、旅の資金をどうやって調達してるんだろう……)


「どうなさったのですか? ユーリ様」


考え込んでいた優里を、クロエが心配そうに見つめてきた。


「あ、うん……私も、何かお金を稼ぐ方法を考えないとなぁって……」


この世界に降り立ってから、優里はシュリと共に旅をしてきた為、食事や日々で必要な物などはすべて、シュリの世話になっていた。


(自分で買った物といえば、ミーシャ君と選んだ服ぐらい……。生活費も入れず定職にもつかないとか……まるでニート!)


少し落ち込んでいる優里に、クロエは意気揚々と答えた。


「ユーリ様のお世話はわたくしにお任せ下さい! わたくしはユーリ様の忠実なる(しもべ)ですわ! (あるじ)を働かせる訳にはいきません!」


「いや、そういう訳には……ていうかそれだと本末転倒に……。サキュバスって、普通はどんな仕事してるの?」


優里は、素朴な疑問を投げかけた。


「そうですわね……サキュバスは、大半がいかがわしいお店でいかがわしい夢を見せる仕事をしてますわ。あとはお金持ちの男を魅了して、パトロンにする者もいますわね」


「あ……なんか私には無理そう……」


そもそも魔力がコントロール出来ないうちは、スキルを使うような仕事は無理だろうと優里は思った。


「大体、サキュバスの魅了にかかりやすいのは、性欲にまみれた変態ですわ! そんな者どもの巣窟に、ユーリ様が行く必要はありません!」


「……なんか……ホントにごめん、クロエ……」


「はい? 何がですか?」


本人は全く気付いていないが、自分自身を性欲にまみれた変態と言っているようなクロエに対して、優里は心底申し訳ないと思った。


「ところでユーリ様、あのシュリとかいう男とはどういう関係なんですの? シュリは魅了にかかっている様には見えませんし、いやらしい下心があるようにも見えません」


「え、えーと」


優里は毒スキルの事をクロエに話した。その為、交換条件として不眠症のシュリと一緒に行動している事を告げたが、シュリがユニコーンだという事は伏せておいた。


「処女しか受け付けないというのも妙ですが、安心してユーリ様を任せられるという事ですわね! 毎晩一緒に寝ていても、ユーリ様には絶対に手を出さないという事ですから!」


「あ、うん、そうだね……」


優里は、クロエの言葉に一瞬胸がつかえた。


(あれ……? なんか私……寂しいって思ってる? なんで……)


生気を貰う為に、仕方なく好きでもない男と毎晩一緒に寝ているだけなのに、なぜか手を出されないという事を寂しく感じてしまった。優里は自分自身のその感情に驚いた。


(私、もしかして、()()()()()って思ってる!? シュリさんに!?)


一気に赤くなった優里の顔を、クロエが覗き込んだ。


「ユーリ様、のぼせてしまったのですか? 顔が赤いですが……」


「どっ、どうしよう私! 身も心もサキュバスになりつつあるのかも!」


「はい? ユーリ様は、サキュバスですよ?」


(今まで前世と同じように振る舞ってきたけど、サキュバスという種族の習性に押されてる!? このままいったら、いつかシュリさんに襲い掛かってしまうんじゃ……ていうか、今も毒スキルで襲い掛かってる様なモンだよね!?)


今度は青くなった優里を見て、クロエは流石に心配になった。


「ユーリ様、大丈夫ですか? ご気分が優れないようなら、そろそろあがりましょう」


「う、うん……」


クロエに支えられ、フラフラと温泉から出た優里は、そばに置いてあったポーチに手をかけた。すると、ポーチからひらりと例の地図が舞い落ちた。


「ユーリ様、何か落ちましたわ。……これは、地図ですか?」


クロエは地図を拾い、広げて見た。


「あ、うん、ごめんありが……」


「変わった地図ですね。猫のマークに、星のマークがみっつですか。場所はこのあたりの様ですが……」


「うん、猫が私で、星が……え? みっつ?」


優里は、クロエが持っている地図を覗き込んだ。


「はい、星のマークはみっつありますね」


「え!? なんで!?」


(また、増えてる!? どうして!? それに、この星……)


地図の、泉の辺りにひとつ、テントを張ったあたりにふたつ、星のマークが記されていた。


(泉にあるのは、きっとミーシャ君のマーク……じゃあ、テントの所にあるのは、シュリさんと……もしかして、ルーファスさん!?)


さらに増えた星のマークに、優里はまたも困惑するのだった。




月・水・金曜日に更新予定です。

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