123 迷子
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『なんじゃ、わしへの貢ぎ物か?』
優里が地図を手に神様を呼ぶと、光に包まれたグレーの猫はすぐに現れ、優里が持っていたクッキーの入ったカゴに、フンフンと鼻を鳴らしながら近付いた。
「猫さん! スキルの取得をお願いします! できれば人探しに役に立つスキルがいいです!」
優里は、猫と視線を合わせる為にしゃがみ込んだ。
『やぶからぼうになんじゃ。スキルの取得はランダムじゃ! というか、おぬしひとりか? こんな森で何しとる?』
猫はカゴに頭を突っ込み、ポリポリとクッキーを食べながら優里を見上げた。
「子供が迷子なんです! 猫さんの力で見つけられませんか?」
『迷子か……。心配する気持ちはわかるが、わしにはどうする事もできん。わしは転生者にスキルを与えるだけの存在じゃからの』
「そう……ですよね」
優里は下を向いたが、猫はそんな優里の顔を覗き込み、少し得意げな表情をした。
『まぁ、おぬしはそこそこ幸運値が高い。わしが転生ポイントをしっかり振っといてやったからの。だから、今の状況を打破するスキルを取得出来るかもしれんぞ』
「ホントですか!?」
(私、幸運値そこそこあったんだ!)
『ハヤセ程ではないがの。ではゆくぞ』
そう言った猫の目が光り、優里の持っていた地図から星がひとつ飛び出した。星は優里の周りをぐるりと飛び回り、やがて虹色の光が優里を包んだ。そして脳裏に浮かんだ言葉に、優里は思わず目を見開いた。
「魔力……制御……!」
『なんじゃと?』
猫も驚いて、優里を見上げた。
「や……やったぁ!!」
(ここにきて……魔力制御が取得できるなんて……!)
優里は、思わず声を上げ喜んだ。
『おぬしが欲しがっていたスキルか。これで、自在に己のスキルを発動する事ができるの』
「はい! あ、でも……よく考えたら、結局シュリさんを眠らせる為には、毒スキルは制御しない方がいいから……今となってはそこまで重要視してなかったかも……」
『シュリとは、あのおぬしが腰砕けにしたユニコーンの事じゃな』
「腰砕けになんかしてません!」
優里は赤くなって反論した。
『そうか、おぬしは生気を吸うのに毒スキルが発動するんじゃったな……。だから、毒を浄化できるあのユニコーンからしか生気を奪えなかったのか』
「はい……。シュリさんは重度の不眠症なんですけど、私の毒で眠る事が出来たので、結局はやっぱり毒スキルは必要なのかと……」
優里がそう言うと、猫は眉間にしわを寄せた。
『おぬしはサキュバスであろう。毒なんぞ与えなくとも、ただ眠らすことが出来るであろうに』
「え? あ、そっか!」
(そうだ! 私ってサキュバスだった)
魔力制御を手にした優里は、自分の中に流れる魔力と、自分が既に持っているスキルを感じ取る事が出来た。
(すごい……! 自分がどういうスキルを持ってて、どうすればそれを発動する事が出来るのかわかる……! これが、魔力制御なんだ……!)
優里は、試しに目の前にいる猫に手をかざした。
『サキュバスは眠りに関してはエキスパー……ト……ぐーーーー……』
(速攻寝たーーーー!!)
優里は猫の前でぱちんと指を鳴らした。すると猫はハッと目覚め、優里を睨みつけた。
『わしで試すな、馬鹿者!』
「ご、ごめんなさい! でも、これで安全にシュリさんを眠らせる事が出来ます!」
『“安全に生気を吸う”の間違いじゃろ。毒スキルを制御出来るんじゃからの』
「あ、そうですね! なんにせよ、凄くよかったです! ありがとうございました!」
優里は深々と猫に頭を下げた。
『幸運値にポイントを振っていたわしに感謝するがよい。で、迷子の子供は探せそうなのか?』
「あ……」
優里は改めて、自分の持っているスキルを模索した。
(役に立ちそうなスキルが……ない)
ガックリと肩を落とした優里に、猫はため息をついた。
『おぬしは、強運なのかそうでないのか、相変わらずわからんの』
「ですね……」
猫の言葉に、優里も同意するしかなかった。
優里が森で猫と話していた頃、アンシュはひとりで家に帰って来ていた。そしてアリシャが診察を受けている部屋を覗き、母親に抱きついた。
「アンシュ、どうしたの?」
「母さま、ぼく、わるものをやっつけたよ」
「悪者?」
首を傾げるアリシャは、アンシュの言っている意味がわからなかった。
日が傾き始めた頃、シュリとニーノが作業場から家に戻って来た。
「ただいまー! 腹減った~! リア、何か食い物あるか?」
ニーノの台詞に、リアが眉間にしわを寄せた。
「夕飯はまだよ! おやつにクッキー食べたでしょ!」
「はァ? クッキー?」
ニーノは首を傾けた。
「ユーリとアンシュが、クッキーと紅茶の差し入れに行ったでしょ?」
リアの言葉に、シュリも首を傾けた。
「いや、誰も来ていないが」
「え?」
その時、アリシャの治療を終えたハヤセが、部屋から出てきた。
「ハヤセ、ユーリとアンシュを見なかったか?」
シュリがそう訊くと、ハヤセは出てきた部屋を指差して言った。
「優里ちゃんは見てないけど、アンシュならずっとアリシャのそばにいたよ」
シュリは足早に部屋に入ると、アリシャにくっついていたアンシュを見た。
「アンシュ、ユーリを見なかったか? お前と一緒に差し入れをしに行ったと言われたが」
アンシュはビクリとして、目を逸らした。
「しらない」
シュリはアンシュのそばに寄ると、しゃがみ込んでアンシュと目線を合わせた。
「アンシュ、わたしの目を見て答えろ」
「アンシュ」
アンシュはずっと横を向いていたが、アリシャに名前を呼ばれ、おずおずとシュリの方を向いた。
「……しらない」
もう一度そう言ったアンシュだったが、シュリはふうと大きく息をついた。
「アンシュ、なぜ嘘をつく? ユーリはどこだ?」
決して強い言い方ではなかったが、シュリの言葉にアンシュは再び顔を背け、アリシャの後ろに隠れた。
「アンシュ……」
シュリがアンシュに手を伸ばした時、ハヤセが声をかけた。
「シュリ、大丈夫。優里ちゃんは森にいるみたいだ。あ、でも……」
ハヤセが千里眼を使って優里の状況を確認すると、優里が神様と一緒にいるのが視えた。
「でも、なんだ?」
「あ、いや、彼女は無事だよ。誰かを探してるみたいだ」
ハヤセは、神様の事は伏せて状況を報告した。
「とにかく、わたくしがおそばに行きますわ! ユーリ様の魔力を感じる事が出来ますので、すぐ飛べます!」
クロエはそう言って、召喚の扉を利用し、優里の元へと飛んだ。
月・水・金曜日に更新予定です。




