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122 ユーリおねえちゃん

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「ぼく、父さまと寝る!」


眠る時間になり、優里とシュリが寝室に向かおうとしたが、アンシュが例のごとくシュリにくっついて離れなかった。


(うん、そうだよね~……)


処女喪失をしても、浄化する事でシュリは吐き気を催さないという事を知ってから初めての夜だったが、正直それ以前の問題がそこにはあった。


(どうしよう、ついにシュリさんと……! とか思ってたけど、そんな心配無用だったな……)


「毒スキルが発生しても、わたしが生気を与えればアンシュに被害はないが……ユーリ、アンシュも一緒で構わないか?」


「モチロンデス。ワタシハゼンゼンダイジョーブデスヨ」


アンシュとの攻防に疲れ果てていた優里は、半ば棒読みでそう言った。


「毒スキル?」


「ユーリはサキュバスだから、生気がないと生きられない。生気を吸う際に睡眠作用と殺傷能力がある毒を発生させるんだが、生気を与えている時は他者にはその毒は影響を及ぼさないんだ。だから、お前が隣で寝ていても大丈夫だ」


アンシュが顔をしかめたので、シュリがアンシュの頭を撫でながら、安心させる様にきちんと説明した。


「じゃあ、この人もいっしょに寝るってこと?」


アンシュは優里に指を指し、嫌そうに訊いた。


「ユーリの毒のおかげで、わたしも眠れるからな。他者にとっては永遠の眠りにつかす毒だが、わたしは浄化できる」


「母さまに子守唄を歌ってもらおうよ。そうすれば父さまも眠くなるかも」


「わたしが眠る事よりも、ユーリに生気を与えるのが最優先だ。そしてそれは、恋人であるわたしの役目だ。誰にも譲る気はない」


(シュリさん……)


シュリは優しく優里の腰を抱いて、ベッドに座らせた。


「アンシュはこっちに来い。3人で眠ろう」


シュリはそう言って、優里がいる方とは反対側をポンポンと叩いてアンシュを呼んだ。アンシュは渋々とその場所に行き、ベッドに潜り込んだ。


(し……視線が気になる……! でも、シュリさんと寝ようとすると、条件反射みたく生気が欲しくなる……)


アンシュのじっとりとした視線を気にしながらも、優里の体から紫色の(もや)が発生した。

シュリはすぐに睡魔に襲われ、優里の唇を自身の首筋に寄せた。


「ん……」


シュリの首筋に吸い付き、生気を得た優里もすぐに睡魔に襲われ、シュリの腕の中で眠りについた。その様子をずっと見ていたアンシュは、眉間にしわを寄せ、眠っているシュリの腕にしがみついた。


「いやだ……。父さまは、ぼくと母さまの父さまだ……!」


アンシュはそう呟き、シュリの腕にしがみついたままギュッと目を瞑った。




それから数週間、アリシャの治療にもう少し時間がかかる為、皆が快適に泊まれるようにと、シュリとニーノで、庭にもう一棟小屋を建てていた。

ハヤセがアリシャを治療している間、優里がアンシュの面倒を見る事になったのだが、相変わらずアンシュの優里に対する態度は冷たく、優里は仲良くなる為に試行錯誤していた。


「アンシュ! クッキーを焼いたよ! 一緒に食べよう?」


「いらない」


半ば被せる様に断られ、優里はハァとため息をついた。


(お菓子あげる作戦もダメかぁ~)


しょんぼりしている優里に、見かねたリアが声をかけた。


「ユーリ、そのクッキー、ニーノとシュリに持って行ってあげて! ふたりに休憩してもらおうと思って、このポットに紅茶を入れたから」


リアは焼きあがったクッキーをカゴにいれると、ポットと一緒に優里に渡した。


「あ、うん、わかっ……」


「ぼくが行く!!」


すぐさまアンシュが声を上げたが、リアはにっこりと笑ってアンシュに言った。


「じゃあ、()()()()()()()行って来てね」


リアの言葉に、アンシュは眉間にしわを寄せた。


「ひとりで行けるよ!」


「ダメよ。ポットには熱い紅茶が入ってて危ないから、ユーリに持って貰って! アンシュはクッキーのカゴを持ってね」


「じゃ……、じゃあ、リアがいっしょに……」


もごもごとそう言いかけたアンシュに、リアは厳しい目をした。


「あたしはこれから洗濯をしないといけないし、行くって言ったのはアンシュでしょ? “自分の言った事に責任を持て”って、いつもシュリに言われてるじゃない」


「……」


半ば強引なリアにアンシュは黙り込んで、奪う様に優里からクッキーが入ったカゴを取り上げると、玄関の方へと歩き出した。


「ホラ、ユーリ! 頑張って!」


リアはそう言って、優里の背中を押した。


「あ……、アンシュ! 待って!」


外に出たアンシュはピタリと立ち止まると、優里の方に顔を向けた。


「ユーリおねえちゃん」


(ユーリ……おねえちゃん!?)


初めてアンシュに名前を呼ばれ、さらに“おねえちゃん”という称号を与えられた優里は、突然の出来事に胸が高鳴った。


「ちょっと……いっしょに行って欲しいところがあるんだけど……いい?」


「え!? う、うん、いいよ! どこに行きたいの!?」


「こっち」


アンシュが向かったのは、シュリたちが増築している場所とは反対側の、森の方だった。


「アンシュ、森に行きたいの? 大丈夫?」


優里が心配そうに声をかけると、アンシュは優里を見上げて笑った。


「だいじょうぶだよ、おねえちゃん。ぼくはこの森でいつも遊んでるんだから。この時間の森は、すっごくきれいなんだよ。来て!」


アンシュは優里の手を引っ張り、森の中に入った。森の中は少し涼しく、背の高い木々の間から日が射し込み、初めて来た時と同じ様に幻想的で美しかった。


「すごい……。本当に綺麗な森だね、アンシュ」


優里はその光景に見惚れ、握られていたアンシュの手を握り返そうとしたが、その手の先にはアンシュの姿はなく、いつの間にかクッキーの入ったカゴになり代わっていた。


「あ、あれ!? アンシュ!?」


辺りを見回してもアンシュの姿はなく、優里はアンシュの名を呼びながら、元来た道を引き返した。


「アンシュー! アンシュ、どこ行ったのー!?」


元の道を引き返しているのだから、そろそろ家が見えてきてもいい頃だったが、優里の周りは似た様な木々が立ち並び、一向に家に辿り着かなかった。


(え……なにこれ……。こんなに遠かったっけ?)


「アンシュ!! どこ!? アンシュ!!」


優里は大声で叫んだが、聞こえるのは森の木々が風に揺れる葉音と、鳥の鳴き声だけだった。


(ど……どうしよう! 家の場所もわからない!)


優里は速くなる鼓動を落ち着ける様に、深呼吸した。


(お、落ち着け私! あ、そうだ!)


優里はある事に気付き、ポーチの中から転生者特典の地図を取り出した。


(この地図の星マークを見れば、シュリさんの居場所がわかる! 家からそこまで離れてないと思うし、シュリさんは家にいるはずだから、星マークを目印にすれば家に辿り着けるよね?)


優里が地図を広げると、そこにはワイプに囲まれた、色が違う星マークひとつしか見当たらなかった。


(えっと……ワイプに囲まれてるって事は、距離が離れてるって事だったよね。思ってたよりも家から離れちゃってたんだな……。この星はニーノだよね? 色が変わってるから、離れててもワイプで表示されたんだ。てゆうか、これじゃ家の位置が全然わからない……)


優里はハァとため息をついたが、すぐに気を取り直した。


(そうだ! 色が変わってるって事は、新しくスキルが取得出来る! 今の状況に役に立つスキルが取得出来るかも……!)


優里は一縷の望みを託し、神様を呼んだ。



月・水・金曜日に更新予定です。

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