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116 隠密

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優里たちが受付に行くと、スタッフが施設について細かく説明してくれた。


「お勧めは家族風呂です。ご家族や恋人、仲の良いご友人同士などで利用できる、貸し切りのお風呂となっております。内風呂と露天風呂、両方お楽しみ頂けますよ」


(貸し切りのお風呂かぁ……)


スタッフの説明に、優里がチラリとシュリを見た。シュリは、優里に抱きしめられながら眠ったあの日からは普段通りに見えたが、優里の中ではシュリを癒したいという気持ちが常にあった。


(シュリさんと一緒にお風呂に入って、背中を流してあげるとか……)


そこまで考えて、優里は、自分がいかに大胆な事をしようとしているのかに気付いた。


(な、何考えてるの私! 一緒にお風呂って……! それってつまり、はだ、裸になるって事で……!)


「へ~、ちょうどよかった。じゃあぼくたちは、その家族風呂を利用させて貰うよ」


優里が熱くなる自分の頬を両手で押さえた時、アスタロトがスタッフから家族風呂のカギを受け取った。


「え!?」


優里が驚いてアスタロトを見ると、アスタロトは「何?」と言うような顔で優里を見た。


「ベ、ベルナエル、アスタロトと一緒にお風呂に入るの!?」


「え……? うん」


(ええーーーー!?)


優里が固まっていると、アスタロトは面倒くさそうに優里を見た。


「今更何言ってんの? ぼくとベルナエルは離れられないんだよ? お風呂も寝るのも、常に一緒だ」


(ええええ! そうだったのーーーー!?)


「初めは少し恥ずかしかったけど……体の洗いっことかして、楽しいよ」


ベルナエルが少し顔を赤らめて、コソコソと優里に耳打ちした。


(洗いっこ……!)


優里が更に顔を赤くした時、シュリが受付のスタッフに言った。


「では、わたしもその家族風呂のカギを貰おう」


(シュシュシュシュリさん!?)


「へぇ……」


アスタロトが、愉しそうに口の端を上げた。


(え!? ええっ!? シュリさん、家族風呂に入るつもりなの!? 待って待って! 私、心の準備が……!)


『シュリは……()()()だよ?』


(……って、何思い出してんの私!!)


その時優里は、ルーファスが言い放った言葉を思い出し、真っ赤になった顔をブンブンと左右に振った。


「ユーリ」


「はっ、はい!!」


動揺する優里に、シュリは家族風呂のカギを手渡した。


「クロエを召喚して、ふたりで使え」


「はい……?」


「いつもふたりで入っていただろう? 貸し切りなら、いつもよりゆっくり出来るはずだ」


「はい……ソウデスネ……」


優里がカギを受け取ると、シュリは隣の受付にいたルーファスとバルダーに声をかけ、大衆浴場の方へ行ってしまった。


「ユーリ、期待してたのに残念だったね」


呆然としている優里に、アスタロトは笑いをこらえながら話しかけた。


「し、してないし!! 元々クロエと入るつもりだったし!!」


優里は耳まで真っ赤になったまま、家族風呂へと急いだ。




家族風呂に到着した優里はクロエを召喚し、脱衣所で新しいスキルの話をしていた。


「クロエ、そういえば私、新しいスキルを覚えて……。“隠密”っていうスキルは、クロエが詳しいだろうってリヒト君に言われたの。新事業の事でバタバタしてたから、今まで忘れてたよ」


「まあ! 隠密ならわたくしも使えますわ! 試しに今、発動してみましょう」


そう言ったクロエの気配が、突然消えた。


「あれ!? クロエ!?」


「はい、ここに」


言葉と共に、クロエが元の場所に現れた。


「凄い! 姿を消せるの!?」


「いいえ、そういう訳ではありません。わたくしはずっとここにいましたが、このスキルを発動すると、他者がわたくしの存在を認識出来なくなるのです。気配だけでなく、匂いなども感じ取れなくなります」


「十分凄いよ! でも、こんな凄いスキルがあるのに、どうしてバルダーを助ける時に使わなかったの?」


「このスキルは、リヒトの姿を消すスキルの様に、他者には使えません。あくまでも自分ひとりだけが気配を消せるものです。なので、あの場で使っても意味がありませんでした。これは、ひとりで素早く行動を起こすのに有効なスキルですわ。そしてスキルの錬成度にもよりますが、ユーリ様は覚えたてなので、発動時間は5分ぐらいになりますね」


「なるほど……」


「ちなみに、隠密を使えるもの同士ならば、スキル発動時は互いにその姿を認識出来て、水の中で会話する事も可能なんですよ」


「え! そうなの!?」


「はい、早速お風呂で試してみましょう」


クロエはそう言って優里の手に触れると、魔力をコントロールし隠密を発動させた。




丁度その頃、ミーシャがひとりで施設内を歩いていた。そこへ、家族風呂へ向かう途中のアスタロトが出くわした。


「あれ、ミーシャ。あんた、リオたちと風呂に行ったんじゃなかった?」


「それが……リオが浸かる温泉は湯治用に薬草が追加されてて、匂いが少しキツイんだよ。ここの温泉は基本あんまり匂いがしないから、薬草なしのシュリたちのいる風呂に行こうと思って」


「ああ……」


その時、アスタロトが少し悪い顔をした。


「シュリなら、家族風呂のカギを貰って、ルーファスたちと歩いて行ったよ。シュリの名前を出せば、受付でもうひとつカギを貸してもらえるんじゃない?」


「そうなのか? わかった! 教えてくれてありがとな!」


「ドウイタシマシテ」


受付に向かうミーシャにひらひらと手を振ったアスタロトは、愉しそうに笑った。


「アスタロト、家族風呂って……ユーリさんとクロエさんが使ってるんじゃ……」


「まぁそうだけど、きっとカギを貸して貰えないでしょ。ここの施設って、防犯対策も万全だろうから」


そう言いつつも、アスタロトは鼻歌まじりにベルナエルの手を引き、口角を上げた。


(デモ、ミーシャは今、子供姿だ)


アスタロトの思惑通り、シュリと一緒にいる所を見ていた受付のスタッフは、シュリや優里を保護者だと思い、あっさりとミーシャにカギを渡した。


ミーシャは優里たちがいるとは知らずに、家族風呂の脱衣所へと入った。


「ん? 何か……」


ミーシャは一瞬、シュリやルーファスとは違う気配を感じたが、隠密のスキルを発動していた優里とクロエの匂いに、気付く事が出来なかった。


「気のせいか……」


脱衣所に着替えが置いてあったが、シュリとルーファスの物だと思ったミーシャは、そのまま服を脱ぎ風呂場へと向かった。


風呂場への扉を開けると、そこには家族風呂にしては広々とした浴槽があった。


「なんだ? 誰もいねーじゃねーか」


ミーシャは露天風呂の方へ足を運んだが、やはり誰もいなかった。


(何でだ? まさか、あの年で潜りっことかしてんじゃねーだろうな? ルーファスならやりかねないが……シュリまで?)


「おい、シュ……」


ミーシャがシュリの名を呼ぼうとした時、露天風呂からブクブクと泡が立ち、勢いよく優里とクロエが現れた。


「ぷはーーーー! ホントに水の中で話ができた! すごいね!」


「はぁ!?」


突然現れた優里の姿に、ミーシャはその場で固まってしまった。


「え?」


「あら、ミーシャ?」


優里の目の前には全裸のミーシャがいて、優里は慌てて肩まで風呂に浸かった。


「ええ!? ミーシャ君!? 何で!?」


「……ミーシャ、子供姿なのをいい事に、随分と大胆な犯行をなさるんですのね」


「え!? いやっ!! 違う!! 誤解だ!!」


ミーシャは顔を赤くしてその場から逃げ出そうとしたが、足を滑らせて尻もちをついた。


「痛ってーーーー!!」


「ミーシャ君!」


優里は、子供姿だったミーシャに優しく話しかけた。


「あ、慌てなくていいよ! ほら、ミーシャ君いま子供姿だから、リヒト君の時と違って、私も意外と平気だから!」


優里にそう言われ、ミーシャはあらわになっている自分の下半身を見て涙目になった。


「オッ、オレはいつもはこんなんじゃねーんだからな!! ホントはもっとスゲーんだからな!!」


ミーシャはそう叫ぶと、足早に風呂から出て行った。


「え!? 何が!?」


「ナニがですわ……」


優里は、よかれと思った自分のフォローが、思いのほかミーシャを傷付けた事にまだ気付かずにいた。



月・水・金曜日に更新予定です。

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