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110 ニーノの過去 その6

110


ルーファスが森の奥に消えてからすぐ、俺は近くで人の話し声がする事に気が付いた。

声のする方に向かうと、そこには何人かの人間がいた。


「おい、案内はもういいだろ? 煙が凄い。オレは逃げ遅れたくねぇ」


そう言った男の顔に、俺は見覚えがあった。


(あの男は……この前毒蛇に咬まれたのを助けてやった父親じゃないか)


「ああ、そうだな。案内ゴクローさん」


するとその父親と一緒にいた別の男が、突然持っていたナイフを父親の腹へ沈ませた。


「ぐわぁ!!」


刺された父親は前屈みになり膝を付いた。


(な、何だ!? 腹を刺した!?)


俺は驚いて、声が出そうになったのを必死で抑えた。


「く……な、何しやがる……!」


「お前のおかげでユニコーンの居場所を特定出来た。感謝してるぜ? けど、貴重な情報を持ったド素人のお前を、盗賊のオレたちがこのまま見過ごすわけねーだろ」


「安心しな。契約は契約だ。金はちゃんとお前の家に届ける。父親がいなくても、子供は育つもんだぜ」


「さて……オレらはすぐに馬車を動かせる準備と、町から自警団が来た時の対処をしなけりゃな」


男たちは、苦しそうにうずくまる父親を見下ろしそう言うと、森の入り口の方へ向かった。


(なん……だ? 今、あいつらは……何て言った?)


俺は男たちが見えなくなるのを確認し、父親の元へ駆け寄った。


「おい! しっかりしろ!」


「あ……あんたは……」


父親は虚ろな目で俺を見た。


「今のはどういう事だ!? ユニコーンの居場所って何だ!?」


俺が必死の形相でそう問いただすと、父親は苦しそうに声を震わせた。


「あいつらに頼まれて……オレは……ユニコーンがいるかもしれないというこの森を探ってた……。森に遊びに来たと偽装する為、子供たちを連れて……」


「な……」


俺は息をのんだ。


「あんたがくれた薬の効果は、通常の物と明らかに違った……。ユニコーンの角で作った解毒薬だと確信した……。それで……あんたが森に戻って行く時に……こっそり後をつけた……。途中で見失ったけど、方角は確認した……」


「そんな……」


「恩を……仇で返す様な事になってすまない……金が必要だったんだ……」


俺は、言葉が出なくなった。あの時の俺の浅はかな行動が、今の事態を招いたのか?


「レオナルド……ジュリア……不甲斐ない父を……許し……」


子供の名前だろうか? そう言いかけている途中で、父親は動かなくなった。


俺はそんな父親を見つめ、頭が真っ白になった。


人間が……アリシャたちの角を狙って、この森に火を放ったのか? どうして結界が破られた? どうして俺はあの時……こいつを助けたりしたんだ!!


俺が後悔に苛まれたその時、森の奥から動物たちが逃げてきた。そしてその後ろから、目の冴える様なユニコーンに乗ったアリシャとルーファス、そしてクルルが駆けてくるのが見えた。


「アリシャ!! ルーファス!!」


「ニーノ!! 無事かい!? 急いでここを離れよう!!」


ルーファスはそう言ってユニコーンから降りると、俺に肩を貸そうとした。


『ルーファス、ニーノ! アリシャを頼む! わたしは兄さんの援護に行く!!』


ユニコーン姿になっていたのはシュリだった。だが、その台詞を聞いて、アリシャがシュリの首に抱きついた。


「行かないでシュリ!! お願い……貴方まで……私、私は……!!」


いつも落ち着いているアリシャが、混乱している様だった。見ると、アリシャは両眼を魔法で焼かれていて、目が見えなくなっていた。


「アリシャ……! 目を……!」


目の見えないアリシャにとって、触れているシュリの体だけが確かなものだったんだろう。決して、シュリの首を離そうとはしなかった。


「シュリ!! ルドラは俺が助ける!! あんたはアリシャと一緒に逃げるんだ!!」


「ニーノ! ボクが行く!」


ルーファスが前に出たが、俺は首を振った。


「ダメだ! これは俺の責任だ……!」


「ニーノ……!? キミの責任って……」


そう言いかけたルーファスの胸を押し返し、俺はリアを呼んだ。


「リア!! いるか!? リア!!」


俺に呼ばれたリアは、近くにあった木から現れた。


「何の騒ぎ!? 何が起こってるの!? ニーノ!」


「リア、アリシャたちを、俺たちの故郷の森まで案内してくれ!! 人間に見つからない様に森を進むのは、リアなら造作もないだろ!?」


「いいけどニーノ、あなたはどうするの!?」


「俺も、ルドラを連れてすぐに追いかける!! クルルを借りるぞ!!」


俺はクルルに跨った。


「アリシャ……必ず、必ずルドラを連れて戻る!!」


俺はそう言うと、クルルに乗って森の奥へと走り出した。


「ニーノ!!」


アリシャの叫ぶ声が遠くに聞こえたが、俺は前を見据え、森を駆け抜けた。




森の奥は凄い煙で、ほとんど前が見えなかった。


「くそ……。クルル、大丈夫か?」


「ピピイ……」


クルルは苦しそうにしていて、ここまでが限界だと思った。俺はクルルから降りると、ほっぺたをぐりぐりと撫でた。


「クルル、ここまで連れて来てくれてありがとな。あんたはもう戻れ。シュリたちの後を、あんたなら追えるだろ?」


「ピピイ」


クルルは、まるで俺が心配だとでも言う様に首を傾げた。


「大丈夫だ。俺は自然の精霊だ。風を操って、なるべく煙を吸わない様にするから」


俺はクルルにそう言い聞かせ、今来た道を戻らせた。俺は痛む足を引きずりながら奥へと進んだ。どのくらい歩いただろうか……森を焼く炎の熱さと足の痛みで、俺は玉の様な汗をダラダラと流し、息を吸うのも困難になっていた。するとそこへ、武器を持った人間たちが走って来るのが見えた。俺は思わず木の陰に身を潜めた。


「くそっ……! 時間稼ぎみたいに逃げ回りやがって……! 火に囲まれる前に森を出るぞ!」


「ああ! だけどオレたちの勝ちだ!! これさえ手に入れれば、オレたちは億万長者だ!!」


人間たちは、何人かで1本の鋭い棒の様な物を抱えていた。


(そんな……まさか……)


俺は、ドクドクと鳴り響く胸を押さえ、家がある方へ向かった。


「ル……ルドラ!! ルドラ!!」


家の近くは材木が散乱していて、進むのに時間がかかった。そして燃え盛る炎の中、横たわる大きな影を見つけ、俺は転げる様にその影へと駆け寄った。


「ルドラ……!!」


そこには、全身傷だらけの角を折られたユニコーンの姿があった。特に足と首の傷は深く、真っ白なはずの美しい胴体は血で真っ赤に染まり、周りではまるで巨大な花が咲いたように、火が燃え広がっていた。


「ルドラ……そんな……そんな!!」


俺はその場に膝を付き、変わり果てたルドラに手を伸ばした。灼熱の業火の中、ピクリとも動かないその姿は、死んでいるという事をまざまざと突き付けられた。


「俺の……俺のせいだ……。俺のせいでルドラが……!!」


俺は泣き崩れ、暫くその場から動けなかった。



月・水・金曜日に更新予定です。

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