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11 ルーファス

11


「なぁ、ユーリ、今日はオレが生気を分けてやるぜ!」


眠る時間になり、ミーシャが尻尾をパタパタさせながら優里に言った。


「えっ!? 駄目だよ、私のスキルのこと、話したでしょ?」


優里は、今日街で散策をしたときに、自分の毒スキルのことをミーシャに説明していた。


「シュリの解毒薬があれば大丈夫だろ? 最初の人間も、それで助かったって言ってたじゃねーか」


「そうだけど……」


優里は、チラリとシュリを見た。

シュリは本を読んでいたが、目線を上げた。


「ユーリの毒に有効な解毒薬は、とても希少なものだ。あれが最後の1本だった」


「だったらほかの解毒薬を試してみてもいーんじゃねーか? もしかしたら効果があるかもしれねーし。そしたらオレだって、ユーリに生気を分けられる。それこそ、一晩中抱きしめて、たーっぷり与えてやるぜ?」


ミーシャは、子供とは思えない色気のある声色と目線で、優里に迫った。

優里は急に恥ずかしくなり、顔を赤らめた。


「駄目だ」


シュリは優里を自分の元へ引き寄せた。


「ユーリのスキルにも不確定要素が多すぎるし、第一、お前に何かあったとき、傷付くのはユーリの方だぞ」


その言葉を聞いて、ミーシャは押し黙った。


(シュリさん……)


優里は、黙ってシュリを見つめた。シュリが自分の気持ちを汲んでくれていることに感謝すると同時に、表現し難い感情で胸がいっぱいになった。でも、その気持ちを、どうシュリに伝えていいのかわからなかった。

ミーシャも、シュリの言葉に納得したのか、ハァとため息をついて首を振った。


「……わかったよ。とりあえずこの件は保留な。じゃーオレはもう寝るぜ」


そう言って、ミーシャは先にベッドに潜り込んだ。


「オレが寝てるからって、隣でエロい事すんじゃねーぞ」


「しないよ!!」


優里は赤くなって、バサッとミーシャに布団を被せた。


「ユーリ」


「は、はいっ!?」


不意にシュリに名前を呼ばれ、優里は顔を上げた。


「尻尾をどうにかできないか? くすぐったいのだが……」


「ええ!? す、すいません!」


気が付くと、優里の尻尾がシュリの体にまとわりつき、撫でまわしていた。


(ひえぇ~!? な、なんで!? てゆうか、尻尾のコントロールなんて、どうやるのかわかんないよ!)


優里は、シュリから離れようとしない尻尾を掴んで、無理矢理引きはがした。


「わたしたちも、もう寝よう。おいで、ユーリ」


シュリはベッドに座ると、両手を広げた。優里は、照れながらもおずおずとシュリの腕の中に入った。


「羽が邪魔だな」


そう言いながらも、シュリは優しく優里を抱きしめた。


(シュリさんに抱きしめられると……すごくドキドキするけど、同時にすごく……安心する)


優里がそう思った次の瞬間、紫色の光が優里を包み、人型に戻った。


「……戻ったな」


「戻りましたね」


「わたしに抱きしめられて、安心したのか?」


シュリが少し笑いながら優里を見たので、何だか恥ずかしくなり、優里は下を向いた。


「そう…かもしれません……」


シュリは、優里は赤くなりながらも反論すると思っていたので、少し驚いた。

赤い顔でうつむく優里に、シュリは何か言おうとしたが、不意に隣のベッドからうめき声が聞こえた。


「キーラ……ごめ……オレ……」


優里とシュリが目をやると、ミーシャが胸元のブローチを握りしめながら、うなされていた。


「ミーシャ君……やっぱり毎晩、うなされてるみたい……」


「何か、悪い夢を見ているのかもしれんな」


シュリは立ち上がると、優里に言った。


「魔法でベッドを移動させる。昨晩のように、手を握ってやれ」


シュリは、魔法を使ってふたつのベッドをくっつけた。


(シュリさん、やっぱり優しいな)


昨晩のように、優里はミーシャの方を向いて手を握り、シュリはそんな優里を後ろから抱きしめた。

優里に手を握られたミーシャは、次第にすやすやと安らかな寝息を立て始めた。


「お前は夢魔だから、魔力が制御できるようになれば、悪夢も幸せな夢に変えられるはずだ。きっと手を握ることで、その作用が少しでも働いてるのかもしれんな」


シュリにそう言われ、優里は驚いた。


「えっ、サキュバスって、そんなこともできるんですか? 私はてっきり、いやらしい夢しか見せれないのかと……」


そこまで言って、優里はしまったと思い口をつぐんだ。


(な、何言ってんの私! また、頭が沸いてるエロサキュバスだと思われる……!)


「いやらしい夢か。……そうだな、確かに、お前が見せる夢はすごいぞ」


シュリが突然そんなことを言い出したので、優里は思わず振り向いた。


「えええ!? うそっ!?」


優里は真っ赤になりながらも、考えを巡らせた。


(そうだ、毒スキルで眠ったシュリさんだって、()()()()()夢を見てるはず……! どうして今まで気付かなかったんだろう!!)


「すすすすごいって……一体どのような……」


「それをわたしに言わせるのか? お前が夢の中で、わたしに何をしているのか……」


シュリの色っぽい口調と視線に、優里は固まってしまった。


(私、一体ナニしてるのーーーー!?)


優里は言葉が出てこず、口をパクパクさせた。その様子を見て、シュリはふっと笑った。


「嘘だ」


「へ……?」


「わたしの体は、毒の浄化が優先されるから、夢は見ない。お前をからかったんだ」


クスクスと笑うシュリに向かって、優里は怒った。


「ひひひひどいです!! 本気で恥ずかしかったのに!!」


涙目になっている優里を見て、シュリは優しく笑った。


「可愛いな、お前は」


「かっ……」


(かわいい頂きましたーーーー!)


優里は、シュリの優しい声色に、反論もできなくなった。


(シュリさんは……ずるい。いつもドキドキしてるのは、私の方だけみたいだ)


「さ、もう寝るぞ」


シュリはそう言って、昨晩のように自分の指を優里の唇に押し当てた。


「ん……」


紫色の(もや)が立ち込め、優里の中にシュリの生気が入ってきた。


「本当に可愛いよ、ユーリ……」


シュリはそう呟いて、目を閉じた。

しかし、生気を吸うのに夢中になっていた優里には届かず、シュリの呟きは紫の(もや)の中に消えた。



次の日、優里たちは朝早く街を出発した。


「あー、もうちょっと街を見て回りたかったなー」


ミーシャが足元の石ころを蹴りながら、文句を言った。


「昨日、十分時間を与えただろう。物資も補給できたし、休息もとった。それに、気になることもある。少しでも先に進もう」


シュリがそう言うと、ミーシャはシュリの方を向いた。


「気になることって、暴食の吸血鬼のことか? シュリだって、昨日見間違いだーとか言ってたじゃねーか」


「………」


シュリは黙っていた。優里はシュリの様子が気になったが、今は朝で、周りも明るかった為、昨晩ほど恐怖は感じなかった。


少し歩いて街を離れた所で、優里の隣を歩いていたクルルが、急に騒ぎ始めた。


「ピピ! ピピピ!」


「クルル? どうしたの?」


優里が撫でてなだめようとしたが、クルルはいきなり、目の前の茂みの中に突進して行った。


「あっ! クルル!?」


優里が追いかけようとしたが、毛を逆立てたミーシャが止めた。


「待て! ユーリ! 何か……妙な感じがする……!」


「え……?」


ミーシャは、優里を守るように前に立ち、茂みの方を警戒した。

優里もごくりと喉を鳴らし、茂みの方を見た。すると、少し薄暗い茂みの中から、男の声が聞こえた。


「すごいね。風下にいたのに……気付かれるなんて」


カサカサと葉が擦れる音がしたかと思うと、茂みの中で真紅の瞳が怪しく光った。


(赤い……瞳!? ま、まさか……)


茂みの奥から現れたのは、長身で、長い黒髪の綺麗な顔をした男だった。

瞳は赤く、首には深い傷跡があった。


「暴食の……吸血鬼!?」


優里がそう言うと、男は優里の方に手を伸ばしながら、ゆっくりと近付いてきた。


「やっと……追いついたよ……」


「くそっ……! と、止まれ!」


ミーシャがそう言うと同時に、男は物凄い速さでミーシャを通り越し、優里の方に向かってきた。


「……!!」


優里は思わず目をつぶった。が、次の瞬間、男は優里をも通り越し、その後ろにいたシュリに抱きついた。


「会いたかったよ、シュリ!!」


「え……?」


優里とミーシャは、振り向いて目をぱちくりさせた。

男に抱きつかれたシュリは、眉間にしわを寄せた。


「やっぱりお前か……ルーファス」


「ええ!?」


(シュリさんの……知り合い!?)


「ひどいじゃないか! ボクに内緒で旅に出るなんて!」


「別に内緒にはしていない。お前が話を聞いていなかっただけだろう。いいから離れろ」


シュリは、ぐいっとルーファスと呼ばれた男を押しのけた。


「相変わらず冷たいね。でも君のそういう所、嫌いじゃない」


「やめろ、気色悪い」


優里とミーシャは、そんなシュリとルーファスの様子を、しばらく呆然と眺めていた。


「おい、シュリ、こいつは何なんだ? 知り合いなのか?」


しびれを切らしたミーシャが、シュリに問いかけた。


「ああ、こいつは……」


シュリが説明しようとしたとき、ルーファスが口を挟んだ。


「やあ、初めまして! ボクは暴食の吸血鬼、ルーファスだよ! よろしくね!」


(絶対に嘘だ……!)


あまりにも軽い挨拶に、優里とミーシャは同時にそう思った。


「まさか、シュリがこんなかわいい子を連れてるなんて思わなかったよ。ねぇキミ……、名前はなんていうの?」


ルーファスは、ミーシャの顎をクイッと持ち上げて、色っぽく囁いた。

ミーシャは一瞬固まったが、耳と尻尾をぺったりと倒して、怯えた様子で優里の後ろに隠れた。


「おい! なんかこいつヤベーぞ!!」


「ミーシャ、お前、ユーリのことを守ってやるとか言ってなかったか? お前が隠れてどうする」


シュリが呆れた様子でそう言うと、ミーシャは涙目で反論した。


「こんな攻撃は想定外だ!」


(攻撃……なのかな?)


ルーファスは、苦笑いをする優里を見て、シュリに言った。


「シュリ、キミが女性を連れてることにも驚いたよ。キミたち、一体どういう関係?」


「わたしはユーリの初めての男になった」

「オレはユーリの初めての男だ」


シュリとミーシャが、同時にそう言った。


「ちょ、ちょっとふたりとも!!」


赤くなった優里を見て、ルーファスは目をぱちくりさせた。


「キミ……、すごいね、さすがはサキュバスだ。ボクにも経験がないよ。初体験でさんぴ……」


「違う違う違う!! 違うんですーーーーーー!!」


優里は誤解を解くために、これまでの経緯をルーファスに説明するのだった。



月・水・金曜日に更新予定です。

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